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動作原理シリーズ「オーバーハンドパス(セット)」②方向転換

動作のやり方の「感覚」は伝えられないので、動作習得のために指導者ができるのは、試行錯誤の環境をデザインしガイドすることであり、そのためには「動作の結果として起きるべきこと」を知っている必要があります。動作の結果として起きることを物理現象として表したのが【動作原理】であり、バレーボールの動作の仕組みを説明したものと言うことができます。

バレーボールでは味方のアタック(スパイク)をより有利なものにするために、ボールの正確な「方向転換」が求められます。前回は「ボールはどのような仕組みで飛ばされるのか」について説明しましたが、今回は「方向転換」の動作原理について解説いたします。

日本バレーボール協会編コーチングバレーボール(基礎編)」「セットの動作原理」には、「重心の鉛直線上とセット目標を結んだ位置でボールをとらえ、目標に向かって両手を動かすと正確にコントロールできる」と書かれています。

それぞれの位置から放たれたボールが、「フロントセット」「サイドセット」「バックセット」となるが、「重心の鉛直線上とセット目標を結んだ位置でボールをとらえ、目標に向かって両手を動かすと正確にコントロールできる」という原理はどのセットでも共通である。目標に正対する、または、目標に背中を正対させることでコントロールするのがわかりやすいが、とくにセッターは360度あらゆる方向にボールをコントロールできなければならないため、「正対する」以外のボールコントロールの原理を身につける必要がある

「コーチングバレーボール 基礎編」第5章 バレーボールに必要な基本技術とその練習法 5-4セット pp143-144

現在「セット(オーバーハンドパス)のバイオメカニクス」について分かっていることは、「バレーボール学会第21回研究大会報告」の「フォーラム」における縄田氏の解説が最も優れており、「コーチングバレーボール」に書かれていることもその考え方に基づいています。それは2つの動画にもなっており、方向転換については以下に示す【フォーラム】セットのバイオメカニクス「後編」で詳しく解説されています。

これらのスライドをまとめると、上から見た場合に、目標、ボール、身体の位置関係からボールの方向転換の原理が見えてきます。左側にサイドセットしたい場合、左側に体幹が側屈して、ボールを身体に沿ってまっすぐに立てて、打突できるような位置でボールをとらえます。
このとき、目標とボールと身体が一直線上に並びます。力線を活用しようとすると、バックセットでも同じです。また右側へのサイドセットフロントセットでも同じです。つまりボールの方向転換は目標に応じて、ボールをとらえる位置を変えることで、力線を活用した360度の方向転換が可能になると言えます。

このような原理を前提に全ての方向で検証していくと頭上には円があり、目標の方向に応じて、その円上のどこかでボールをとらえることで、ボールの方向を変えることができるものだと推察されます。このとき、選手の視点からすると、頭上に輪があり、その輪のどこでボールをとらえると良いかを模索する必要があり、まるで天使の輪のようなイメージだと考えています。このようなイメージがあれば、セッターの育成において使用されることがあるネット際で常に右軸を作り上げるという表現は、もしかしたらプレーの幅を狭めていること、つまり限定的なプレーを学習しているのかも知れません。

動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(後編)より文字起こし

「力線を活用する」ということが正確なコントロールのためには重要であり、そのためには「目標に応じて、ボールをとらえる位置を変える」ということになります。

つまり、「コーチングバレーボール」にも書かれているように、特にセッターは「目標に正対する」以外のボールコントロールの原理を身につける必要があり、体の向きよりも「体の中心と目標を結んだ線上でボールをとらえる」ことが重要だということです。後はボールに向かって真っ直ぐ腕を伸ばして力を伝えれば、ボールは目標に向かって飛ぶことになり、それが「力線を活用する」ということです。

「体を上げる方向に向ける」のは、その方が「体の中心と目標を結んだ線上でボールをとらえる」ことがやりやすいかもしれないので、余裕があればそうしてもいいのですが、重要ではありません。 むしろ、目標とボールを結んだ線の後ろに回り込まなければならないために間に合わなくなり、また、余裕がないと、体の向きを変えながらボールをとらえることになって、とらえる位置が曖昧になるという大きなデメリットがあります。ボールタッチする前には体の回転を止め、「とらえる位置」をしっかり認識できる状況にする必要があります。

また、「ボールをとらえる位置を変えて力線を活用」できればよいので、左右の足の位置とか足の向きとか、どちらの目で見るとかは様々な状況になるのが当然であり、全く気にする必要はないと言えます。

もう一つ忘れてはいけないことは「バレーボールは持ってはいけない」ということです。ボールを飛ばすときに正確な安定した力線が必要なわけで、そのためには「ボールに飛ばす力を伝える位置」が重要です。そして、それが「ボールをとらえる位置」と一致していなければ、とらえてから飛ばすまでの間に「持って運ぶ」ということになります。だからこそ「力線を活用できる位置でとらえる」ことが重要なのです。

ここで「『目標に応じて、ボールをとらえる位置を変える』ことでコントロールするということは、ボールをとらえる位置でどこにトスが上がるか分かってしまうことはマイナスではないか?セッターは同じ位置からあらゆる方向にセットできなければならないのではないか?」という疑問を持たれる方が多いかもしれません。

これに対しては「セット直前まであらゆる方向の可能性を残し、ボールタッチの瞬間には力線を活用できる位置でとらえる」ということになります。つまり、セットの直前まで「天使の輪の中心」でボールを迎え、体の位置をわずかに移動して適切な位置でボールタッチするわけです。

このことについて動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(後編)では世界のトップ選手のプレーを用いて次のように説明しています。

これらの写真をまとめると、どんな状況でも、最終的には上肢の力線を形成し、ボールの中心を打突してボールをコントロールしようとしていることが考えられます。同じフォームからの章のまとめに移りますが、原理、①②の打突、打突位置を踏まえると、ジャンプセットでは、セットの直前までいろいろな方向への可能性を残すために、同じようなフォームを保っていたとしても、最終的に上肢の力線を十分に活用できる位置で打突することができれば、セットの正確性を維持することができることが言えると考えられます。

動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(後編)より文字起こし

この動作原理を成立させられることが、セットにおいてアンダーハンドパスではなくオーバーハンドパスが用いられる理由となります。

動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(後編)より一部改変

最後に、「コーチングバレーボール」では「重心の鉛直線上とセット目標を結んだ位置でボールをとらえ、目標に向かって両手を動かすと正確にコントロールできる」と書かれており、「重心の鉛直線上」という言葉を使っていますが、動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(後編)では単に「身体」という言葉が使われており、このONESのnoteで私は「体の中心」という言葉を使っています。

この点が実は曖昧なところで、「中心」とは様々な方向へのボールコントロールをつかんでいくうちにプレイヤーの感覚として「体のどこが『ボール→目標』のラインの起点となるか」がとらえられていくものだろうと、現時点では考えています。

関係記事

-セットアップの基本を考える-
1/5 「ボールの下」とはどこ?
2/5 「体を上げる方向に向け」ればボールは正確に目標に向かって飛ぶのか?
3/5 「どこでボールをとらえればどの方向に飛ぶか」をつかむための練習方法
4/5 注意してほしいこと
5/5 「セットアップの基本」とは?

▶︎布村忠弘のプロフィール

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バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。