発達段階に適した育成グルーピングの重要性#6
「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第6回です。
前章では『暦年齢』と『生物学的年齢』のメリットとデメリットについて書いてきました。本章ではそれぞれのメリットを活かしつつ、デメリットを消していくような方法について、具体的かつ現実的な方法論について考えていきたいと思います。
では、まずシンプルに考えていくために、育成カテゴリーにおける活動を『日常』と『非日常』という2つに分けて考えてみたいと思います。まず『日常』についてですが、これは具体的に言うならば日々のトレーニングになると言えます。活動時間の割合で考えるとこの『日常』がざっくり言って8割〜9割を占めると言えるでしょうか。次に『非日常』ですが、これを具体的に言うならば試合(ゲーム)と言えるでしょう。活動時間の割合で言うと1割〜2割と言えるでしょう。
さて、ここからは育成カテゴリーにおける活動をこれらの『日常』と『非日常』に区分けし、それぞれにおいてどのような工夫をすることができるのかを具体例を交えながら方法論について模索していきましょう。
では、まずは『日常』の活動において『暦年齢』と『生物学的年齢』の良いとこどりができる方法を事例を交えながら考えていきます。
『暦年齢』=目安。『生物学的年齢』=最終判断材料。
上記の表は、過去に筆者が運営していたバレーボールアカデミーの2クラス分(初級〜中級クラス/中級〜上級クラス)の概要をまとめたものです(一部、修正を加えています)。
上記表の「対象」のところをご覧いただけると分かりますが、どちらのクラスも「暦年齢◯歳〜◯歳」と記載しており、さらに注釈には「暦年齢はあくまで目安となります。」と記載しています。
このように「敢えて」記載することによって、クラブの考えとして各々のプレーヤーにとって最適な学習環境を提供したいという意志を表明することができますし、入会を検討する保護者の方とお話をする際も、クラブとしての考え方を明確に伝達することができると考えていました。
実際の運用を通じて
では、実際に上記のような運用をして何が起こったのかを参考までにお伝えしたいと思います。
暦年齢に縛られないクラス員構成となった
まず全体の結論から言うと、暦年齢に縛られないクラス員構成となりました。具体的には、中学校に入ってからバレーを始めたプレーヤーが初級者〜中級者向けクラスでプレーをするという選択が実際にありました。また、初級者〜中級者クラス向けクラスでプレーしていた暦年齢上は11歳のプレーヤーが、身体的発達やプレーレベルの向上に伴って、中級者〜上級者クラスへ移行するということも実際に起こりました。また、二つのクラスに同時並行的に参加するというケースもありました。それでは、実際に起こった上記三つのケースについてできる限り詳しく話をしていきたいと思います。
①暦年齢よりも下のクラスに入るver.
中学校に入ってバレーボールを始め、身長も低くバレーボール経験も非常に少ない中学3年生の生徒が、初級者〜中級者クラス(暦年齢目安:10歳〜12歳)のクラスで活動することとなりました。小学生の多いクラスであったため、中学生1人が同じクラスで活動することを最初は少し心配しましたが、杞憂だったとすぐに悟りました。彼ら・彼女らがバレーボールを楽しむということに暦上の年齢差は関係なかったようでした。
彼女は中学校の部活では、初心者であり身長も低いということからアタックやブロックプレーの練習はほとんどしてこない状態からクラスに参加しました。
初級者〜中級者クラスではネットの高さを小学生バレーボール用の高さ(2メートル)にしていたこともあり、ジャンプすれば十分にアタックもブロックもできるのだと自信を持てたことによって積極的にこれまでチャレンジしてこなかったアタック・ブロックプレーにも挑戦することができるようになっていきました。また、バレーボールに対する理解力の高さや思考力の高さが魅力のプレーヤーであったため、クラス中でのミーティングなどでは周りのプレーヤーのとって有益となる意見や話をしてくれるなどして、クラスに所属する他のプレーヤーにも非常に好影響を与えてくれました。本ケースについては生物学的年齢の考慮という点以外にも社会的要因などがプラスの影響を与えていたように思います。
②暦年齢よりも上のクラスに入るver.
小学6年生になって急激に身長が伸びたプレーヤーが、中級者〜上級者クラス(暦年齢目安:13歳〜15歳)のクラスで活動することになりました。彼女はバレーボール経験も長く技術的にも一定レベルまでのものを獲得していました。そうした彼女の状況を鑑みて、コーチ間でのミーティングで一つ上のクラスに上げることが彼女の成長にとってプラスの影響があるのではないかという結論に至りました。そして、本人と保護者にも話をして上のクラスの体験をする流れとなりました。その後、プレーヤーと保護者とも話をし、上のクラス活動に参加することになりました。クラスには中学3年生のハイレベルなプレーヤーも所属しており、最初こそは気後れする場面もありました。しかし、これまで少し遠い憧れの存在であった上級生と一緒に練習する機会を持つことによって、より具体的に自分自身がどんなプレーヤーになりたいのかを具体的に考える機会が増え、自律的に積極的にプレーするようになったと感じました。またプレー面では、小学生ネットだとそれほどジャンプしなくても打てていたボールが打てなくなったり、手打ちでも決まっていたアタックが決まらなくなったりする経験をすることで、助走をつかって高くジャンプすること、全身を上手につかってアタックしなければ上位のカテゴリーでは得点することができないということに自然と気がついていきました。
③2つのクラスに所属するver.
上記に2つの事例をご紹介しましたが、最後に実際に多く起こった予想外の副産物的な波及効果についても話をしたいと思います。それが、2つのクラスに所属するプレーヤーが多く出てきたという点です。先述した通り、クラブの考えとしてはプレーヤーにとって最適な環境を提供したいというものがあったので当初は「2つのクラスのいずれか最適な環境」をプレーヤー、保護者の方と一緒に選んでいきたいという思いがありました。しかし、実際に運用をしていて多かったのが、2つのクラスの所属するというパターンでした。このパターンは、学齢でいうと小学生6年生が最も多かったという印象です。初級者〜中級者クラスだとリーダーシップをとりながら自信を持ってプレーできる。中級者〜上級者クラスだと、そのクラスのトップレベルのプレーヤーに必死についていく。そんな印象です。中級者〜上級者クラスに参加し始めての数ヶ月は毎回ドキドキしながら練習に参加している様子でしたが、時間が経つにつれて上のクラスでも自信をもってプレーするようになっていきます。そして、上級生のプレーヤーに果敢にチャレンジするような姿も見えるようになっていきました。
こうしたいわゆるクラスとクラスの狭間にいるようなプレーヤーにとっては二つのクラスの環境があることが、とても有効に働くのではないかというのが私の感想です。
生物学的年齢を判断するための試行錯誤
では、実際のクラス選択にあたって生物学的年齢を医学的な観点からすべてのプレーヤーに関して判断をしたのかと言われると決してそうではありません。
実際のところは「徹底した観察」と「プレーヤー、そして保護者とのコミュニケーション」によって、試行錯誤をしながらクラス分けを行ったというのが真実だと思っています。
私が運営していたアカデミーでは、無料体験制度というものを設けていて実際にクラス活動に参加してみてプレーヤー、そして保護者の方とお話をさせていただくということ大切にしていました。こうした制度設計をすることで、生物学的年齢を判断するための「機会」を作り出すことができると思いますし、プレーヤーにとっても自分の成長にとって最も最良な環境を模索する「機会」となると考えていました。
また、制度設計という観点だと、入会金や年会費といった設定をなくし、月単位で入会・休会・退会ができるようにしていました。こうすることで、できる限りプレーヤーのその時々の状況にフィットした育成環境を柔軟に提供できるようにしたいと考えていました。実際、数ヶ月クラスに参加してみてからしばらく休会し、その後に復会するというケースもありましたし、クラスを途中で変更するということも実際にありました。育成年代のプレーヤーの成長はあらゆる面(身体的・精神的)において劇的であり、こちらで提供できる環境が常にそのプレーヤーにとってベストになり得るとは限らないと思っています。クラブ側が柔軟度の高い制度設計をすることは、各プレーヤーにベストの環境を提供する上で非常に大事だと感じます。