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バレーボールにおけるLTAD#2
「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第2回です。
前章にて、LTADモデルについて理解が進んだところで、本章ではバレーボールにおけるLTADモデルについて考えていきたいと思います。
LTADモデルにおいて、バレーボールは早期導入 (Early Engagement)、遅い特化(Late Specialization)が推奨されるスポーツだと言えます。エリートプレーヤーを養成することに主眼を置くのであれば、身体発達の観点から男女差はありますが目安として6歳〜9歳の時期にバレーボールを始めてボールコントロール技術や状況判断能力を向上させることが重要です。
ただ一方で、この時期にバレーボールだけに特化するべきではなく、バレーボールへの特化時期は身体発達の観点から男女差はありますが、16歳〜17歳の時期を目安とするのが良いとされています。この一つの根拠として、LTADモデル発祥の国でもあるカナダバレーボール協会(Volleyball Canada)が2006年に発刊した『VOLLEYBALL FOR LIFE』というものがあります。『VOLLEYBALL FOR LIFE』はLTADを軸とした育成モデルについてまとめたもので、男性(Males)であれば17歳、女性(Females)であれば16歳を目安にバレーボールに特化(Specialization)する時期であるとの記載があります。
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日本の学校システムで考えるのであれば目安として中学生期までは、バレーボールだけではなくその他のスポーツや運動にも積極的に取り組むことが望ましいと言えます。
導入(Engagement)時期と方法について
それでは、もう少し詳しく導入時期について考えていきたいと思います。バレーボールは早期導入 (Early Engagement)が推奨されるスポーツであると先にも書きましたが、導入の「方法」については非常に慎重に行われるべきであることを強調しておきたいと思います。
競技特性を考える
まず、考えるべきことはバレーボールの競技特性だと言えます。バレーボールはネットを挟んでチーム内の3回以内のヒット(ブロックコンタクトは含まない/1プレーヤーによる連続ヒットはできない)で相手コートにボールを落とす(自コートにボールを落とさない)というゲームです。
言い方を変えれば「ボールを保持できない」「床にボールを落とせない」「1プレーヤーが連続でヒットできない」といった非常に制約の多いゲームだと言えます。それ故、バレーボールの本来の通りのルールに則って(縛られ)早期導入してしまうと、バレーボールの最大の醍醐味であるラリーの楽しさや相手との駆け引きの楽しさを知る前に「バレーボールは面白くないスポーツだ。」という第一印象をプレーヤーに植え付けてしまう危険が孕んでいます。また、6歳から9歳といった年齢の子供にとっては大きくて、硬い、そして重いバレーボールを自身の腕や手でヒットしてコントールするというのは非常に難しく、さらには痛みや恐怖心を抱く可能性も高いと言えるでしょう。
こうしたことからも、バレーボールの導入方法については対象となる子供の年齢が低ければ低いほど、様々な要因を考慮して慎重に検討する必要があります。
環境・制約変更によって導入をスムースにする
では、どのようにすれば年齢の低い(6歳から9歳)子供たちが最初からバレーボールを楽しむことができるのでしょう。その答えの一つとして、プレーする環境や制約を変更することが挙げられます。
例えば、プレーに使うボールを変えるということが真っ先に思いつくでしょうか。柔らかく、軽いもので、浮遊時間が長いボール(例:ビーチボール)を使ってみるとどうでしょう。痛みに対する恐怖心は和らぐでしょうし、浮遊時間が長くなることでラリーも続きやすくなることが想像できます。
また、1回目のボールタッチはキャッチしてもOKというルールにしてみてもよいかもしれません。そうすれば、ラリーをより楽しむことができるようになるでしょう。
こうした環境や制約の変更を段階に行うことで、低年齢かつ初心者であっても、バレーボールの醍醐味を感じられるゲームの好例としてオランダで開発されたスマッシュボール(Smashbal)があります。下記の記事に詳しく解説されていますのでぜひご覧ください。
環境・制約を調整する方法といっても、その方法は無数にあります。そのため、バレーボール初心者にコーチングを行うコーチは常に学び、試行錯誤をし続ける覚悟を持たなければなりません。バレーボール初心者に出会うコーチは他のどのカテゴリのコーチよりもある意味で大きな責任を持っているとも言えます。
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