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育成における留意事項#21
「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第21回です。前章までは、育成の3本柱についてまとめて解説をしてきました。本記事からは育成における具体的な留意事項について考え、まとめていきたいと思います。
標準的な成長プロセスを理解する
子どもは小さな大人ではない。
これはフランスの哲学者ルソーの言葉で、子どもには子ども時代特有の世界があり、精神的にも肉体的にも大人とは全くもって異なる存在であることを主張しています。そして、これは大人たちは子どもたちの成長プロセスをしっかりと理解した上で、そのプロセスに沿った育成をしていかなければならないということを意味しています。
PHV(Peak Height Velocity=最大成長速度)
本記事では、子どもたちの肉体的な側面から成長プロセスを理解するために、PHV(Peak Height Velocity=最大成長速度)に基づいた成長プロセスを追っていきたいと思います。
PHVについて考える際に私たちの理解を助けてくれるもの、それが標準化成長速度曲線です。
標準化成長速度曲線
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大野ゆう子,田原佳子,村田光範ほか,日小児会誌,1988
この曲線には3つの大事なポイントが存在しています。
まず1つ目が、"TOA"(Take Off Age)という点で、これは身長が急激に伸び始める年齢のことを指してします。上図を見て分かるように、直前には身長の伸びが少し緩やかになることが特徴として挙げられます。また2つ目が、一年間で最も身長が伸びるタイミングとなる"PHVA"(Peak Height Velocity Age)です。(上図の曲線がピークにくる年齢)。そして3つ目が、一年間での身長の伸びが1cm未満となる"FHVA"(Final Height Velocity Age)です。
生まれてから"TOA"までをフェーズ1、"TOA"からから"PHVA"までをフェーズ2、"PHVA"から"FHVA"までをフェーズ3、そして"FHA"以降をフェーズ4とすることによって、子どもの成長期を4つの期間に分けることができます。
次からは、それぞれのフェーズにおいてどのようなことに留意した上で育成活動を行なっていけばよいのかについて考えていきます。
フェーズ1
標準化成長速度曲線(フェーズ1)
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大野ゆう子,田原佳子,村田光範ほか,日小児会誌,1988
フェーズ1は様々な運動やプレーを経験し、多様な運動スキルやプレー動作を身につけるのに大変適した期間だと言えます。身長が急激に伸びる前段階にあるため、筋力や持久力の向上を目指す負荷の高いトレーニングではなく、遊びの要素も取り入れながら多様な運動スキルを獲得できるようにデザインされたトレーニングに取り組んでいくことが望ましいと言えます。
この時期に過度な反復練習を積み重ねてしまうことは、怪我の誘発や運動スキル獲得の阻害にも繋がることがあります。そのため、特定のプレーの精度向上よりも多様なプレー経験の蓄積に主眼を置いてコーチング活動に取り組めるとよいでしょう。また、バレーボール競技以外の他種目のスポーツに取り組むことも、長期的に見れば創造的なプレーを生み出す基礎となり得ると考えられます。
フェーズ2
標準化成長速度曲線(フェーズ2)
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大野ゆう子,田原佳子,村田光範ほか,日小児会誌,1988
フェーズ2は全身持久力を向上させるのに最も適した期間だと言えます。この時期は骨格が著しく発達し、特に身長が大きく伸び始めます。またこの時期は全身持久力が向上する時期でもあり、全身持久力強化のトレー ニングを重点的に行うことで大きな効果を得ることができます。全身持久力といっても競技によって求められる能力は違ってきます。バレーボールのゲームの中でプレーヤーにもとめられる全身持久力とは何かということを常に考えて、コーチはトレーニングをデザインする必要があります。
また、この時期はまだ筋肉は未発達であるということ、身長の急激な伸びのために全身の柔軟性が低下しているということを念頭において、プレーヤーの状態をよく観察しておくことが大切です。
フェーズ3
標準化成長速度曲線(フェーズ3)
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大野ゆう子,田原佳子,村田光範ほか,日小児会誌,1988
Phase3は筋力増強を目指してトレーニングするのに最も適した期間です。この時期は身長の伸び率が低くなっていき、それと同時にホルモンなどの影響によって筋肉量が増加していきます。筋力増強を目指して、負荷をかけながらトレーニングを行なっていくことができますが、最初からウェイトを用いた筋力トレーニングを行うのではなく、まずは自重トレーニングなどで負荷をしっかりと調整しながら取り組んでいくことが望ましいでしょう。
また最初の負荷の低い状態でトレーニングを行う時点で、正しい姿勢やフォームを身につけておくことが後々の高負荷のトレーニングにおいて効果を高め、怪我を未然に防ぐことに繋がります。
フェーズ4
標準化成長速度曲線(フェーズ4)
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大野ゆう子,田原佳子,村田光範ほか,日小児会誌,1988
フェーズ4は成人と同様のトレーニングを実施してもよい期間であると言えます。身体的な成長が一旦落ち着き、身体だけを見ればほとんど成人のプレーヤーと変わらない状況に近づいていると言えます。身体的には成人同様のトレーニングを実施する準備が整っているため、各々のプレーヤーはさらなる向上のために必要なトレーニングを重点的に行なっていくことが求めらます。コーチは各々のプレーヤーの状態をその特性や弱点、ポジション等の包括的な視点から捉え、個別にプログラムを組んでトレーニングを行っていきます。
それぞれの成長速度曲線を観察・理解する
ここまで、フェーズ1からフェーズ4から順番にそれぞれのフェーズの特徴と留意点についてまとめてきました。しかし、実際のところプレーヤーの身体の成長度合いにはかなりのバラツキがあるため、それぞれのプレーヤーをよく観察し、今どのフェーズにあって、今何をすべきなのかということを考えていくことが重要です。
各プレーヤーがどのフェーズにいるのかを知るために、各プレーヤーの発達状況と成長速度曲線を重ね合わせてみることは非常に有効です。定期的(4ヶ月に1回を目安に)に身体測定をすることでプレーヤーがどのフェーズにいるのかを知る大きな手がかりを得ることができるので、定期的に身体測定することを推奨したいと思います。
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