各発達段階におけるトレーニングの在り方(STAGE4:Learning to Compete)#12
「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第12回です。
前章ではLTADモデルの発達段階におけるトレーニングの在り方『STAGE3:Training to Train(トレーニングすることを訓練する)』について8項目に沿って解説をしてきました。本章では『STAGE4:Learning to Compete(闘争することを学ぶ)』について解説をしていきたいと思います。
STAGE4:Learning to Compete(闘争することを学ぶ)
まずは、LTADモデルにおける第四ステージである『Learning to Compete』について考えていきましょう。"Learning to Compete" とは日本語に訳すならば「闘争することを学ぶ」となります。
このステージにおけるアスリートは大会への参加を通じて「闘争すること(試合でプレーすること)」を学んでいきます。そして、アスリートは試合で勝利するために必要な専門性を高めるトレーニングを実践し、試合でプレーすることによって学びを深めていきます。
このステージにおけるキーワードは「専門化」であり、それぞれのプレーヤーの身体特性や能力特性、性格特性、プレースタイルなどを鑑みながら、各プレーヤーの長所が最大限生かされるプレーロール(役割)やポジションを割り当てていくことが重要だと言えます。そのため、コーチにはプレーヤーのあらゆる特性をよく把握し総合的に判断した上で、慎重にプレーヤーのプレーロールやポジションを決定していくことが求められます。
それでは、次からは8つの項目に沿って第四ステージ『Training to Compete』を深掘りしていきましょう。
Overall Goal(総合的ゴール)
第四ステージでは、二つの主たるゴールが提示されています。バレーボールスキルの統合と身体能力の向上です。
第三ステージでは、バレーボールの「スキルの向上」が強調されていましたが、このステージでは「スキルの統合」といったようにさらに踏み込んだ内容が一つのゴールとして設定されています。第三ステージにおいては、プレーヤー間やプレー種別(例:アタック・レセプション)によってスキルの習得度合いのレベルにばらつきがあることが前提としてあるため「スキルの向上」をゴールとして設定しています。しかし、第四ステージではすべてのプレースキルをある程度のレベル以上にまで引き上げること(統合)がゴールとして設定されているのです。また、身体能力の向上は第三ステージに引き続き、ゴールとして設定されています。第四ステージにおけるプレーヤーの身体は大人の身体に近づきつつあるため、トレーニングの負荷もそれまで以上に高めることができると言えるでしょう。
第四ステージでは、これまでのステージとは違い、大会に出場して試合でプレーすること(闘争すること)が重要視されています。そのために、コーチはプレーヤーが試合でしっかりとプレーできる(闘争できる)ようになるためのトレーニングを計画し、実践していく必要があります。そして、プレーヤーはまさに「闘争する(試合でプレーすること)」を通じて、バレーボーラーとしてさらにもう一段上のステージに向かって成長していくのです。
Chronological Ages(暦年齢)
日本の学齢で言うと、だいたい高校1年生から高校3年生の間の子どもたちが第四ステージに該当します。ここでも男女の発達段階の違いから暦年齢には違いがありますが、暦年齢はあくまでの目安と考えてください。また、第三ステージよりは身体発達が急激に進むことは少ないですが、やはり発達時期にはばらつきがありますので、コーチは引き続き個々のプレーヤーの筋骨格系の発達状況を定期的に計測し、観察していくことが求められます。
Focus(焦点)
先述の第四ステージ概要説明の際にキーワードとして提示しましたが、第四ステージではプレーヤーの「専門化」に焦点が当てられています。第三ステージまでとは、正に逆の考え方であると言えるかもしれません。第三ステージまではバレーボールスキルも身体能力も「全般的に」向上させていくことを重要視してきました。しかし、第四ステージではプレーヤーの特性をしっかりと見極めながら「専門的に」プレーヤーのスキルや身体能力を向上させていくことが重要視されます。
Skill Development(スキル発達)
第四ステージにおけるプレーヤーには個人特性がプレースタイルにより一層表れるようになってきます。また、これまで磨いてきたスキルが熟達に向かっていくことで、複雑な局面においても高いパフォーマンス発揮を維持することが安定的にできるようになってきます。しかし一方で、強いプレッシャーを受ける局面や経験の少ない状況での高いパフォーマンス発揮はまだ安定的だとは言えず、パフォーマンスの質が下がるということもしばしば起こります。
コーチは、プレーヤーの特性をよく観察しながら、そのプレーヤーにあったプレースタイルを尊重する態度を持つことが大切だと言えるでしょう。また、高いパフォーマンスの発揮が難しくなる局面がどのようなものかを解像度高く理解し、トレーニングの中でそうした局面を再現して、プレーヤーが試行錯誤できる環境を適宜提供することが求められます。
第四ステージでは、それぞれのプレーヤーのストロングポイントの強化や、プレーヤーにあったプレースタイルの確立を支援するという態度がコーチには強く求められます。そのためには、しっかりとした観察に加え、それぞれのプレーヤーと丁寧に対話を重ねていくことが重要になるでしょう。
Goal(ゴール)
先述した通り、第四ステージの焦点は「専門化」にあります。そのため、具体的なゴール設定において「バレーボールに特化した」や「ポジション別の」といった言葉が使用されています。第三ステージまでに獲得してきたベーシックなスキルや戦術をそれぞれのプレーヤーの特性やプレースタイルにあった「専門的な」スキルや戦術へと昇華させていくのがこの第四ステージだと言えます。
「専門化」を推し進める第四ステージ。ここでは、プレーヤーの特性やプレースタイルをしっかりと見極めるということがコーチの大きな仕事の一つとなります。この際、コーチは一方的にプレーヤーの特性やスタイルを「決めつける」のではなく、プレーヤー自身と話し合いを何度も重ねていくことで、そのプレーヤーの特性やプレースタイルを最大限活かすことのできるプレーロールやポジションを選択することができるようになっていくことでしょう。
Discipline Integration(専門分野の統合)
第四ステージは「闘争することを学ぶ」ステージではありながらも、初めて「専門化」に焦点を当てるステージとなります。たくさんの大会に出場するということだけではなく、プレーヤー個人の特性やプレースタイルを見極めた上での「専門化」を促進させ、プレーヤーの個を尖らせていくことに注力することが大切です。そのため「闘争することを学ぶ」ためにも、ただたくさんの大会に出場して試合経験を積むこと以上に、闘争するための準備、つまりここでは専門性を高めるためのトレーニングを重要視する必要があります。
Periodization(期分け)
第三ステージ同様、試合での勝利を最優先して、細やかな期分けを行っていこうとする考え方は第四ステージにはありません。あくまで「専門化」を促進するためのトレーニングをベースにして大会に出場するというスタンスです。
Training to Competition Ratios(トレーニングと試合の比率)
第四ステージでは、第三ステージと比較し、トレーニングの割合が「10%」減少し、試合の割合が「10%」増加します。第四ステージのネーミングにある通り「闘争すること」が重要なステージです。普段のゲームライクなトレーニングからは得ることができない学びを、公式の大会に出場し、大きな緊張感やプレッシャーのある中でプレーすることで得ることが大切だと言えます。大会の中で、それぞれのプレーヤーが磨いてきた「専門性」を発揮しながらプレーし、闘争することを学ぶことが第四ステージでは大切です。