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地元人材は減る一方・・・でも、本当に見るべき人はそこじゃない

奥です。
地方企業が抱える大きな課題のひとつとして、「地元の人材が足りない」という問題があります。
事実として、少子高齢化の進行や都市部への若者の流出、地元教育機関の数や規模の限界など、地方の企業が置かれた状況は年々厳しくなっています。

実際、「これ以上、地元の若手はもういない」「地元に残っている人材は少ないし、スキル面でも希望通りではない」という声が経営者や人事担当者から多く聞かれます。

しかし、本当に“地元の若者”だけが人材確保の唯一の選択肢なのでしょうか? 
実は、視野を広げると、地方企業にとっても大きな可能性を秘めた人材層が存在します。

本記事では、「地元人材が枯渇した」と嘆く前に、地方企業が本当に見るべき人材層はどこにあるのか、具体的な事例や取り組みを交えながら解説していきます。



1. 地元人材が枯渇する背景

①少子高齢化と若年層の流出

日本全国で進行している少子高齢化は、地方において特に深刻です。若年人口が減少しているだけでなく、大学進学や就職を機に都市部へ移住する若者が後を絶たないため、地方ではますます若手人材が不足します。
また、地域に残る若者が少ないため、企業同士の人材獲得競争も激化し、採用難が加速するという悪循環が生じています。

②地元教育機関の限界

地方では大学や専門学校の数が限られています。
特定の専門分野に関する教育機関が近隣に存在しない場合、学生は自然と都市部の大学へ進学するため、地方に残る若年層の人数やスキルがさらに限られてしまうのです。

③都市部企業との待遇格差

一般的に、都市部の企業のほうが給与水準やキャリアパス、福利厚生などの面で魅力的に映りやすいという現実があります。
地方企業が魅力的な待遇や成長機会を提示できないと、そもそも「地元に残ろう」というモチベーションが若者の中で育ちにくくなります。


2. 「見るべき人」は地元だけじゃない:多様な人材プールへのアプローチ

地方企業が生き残るためには、地元の若者だけをターゲットにする従来の採用戦略を見直し、多様な人材プールに目を向けることが不可欠です。以下では、具体的にどのような層が“新たな採用源”として注目されているのか、いくつかの切り口から紹介します。

①Uターン・Iターン・Jターンの人材

地元を離れて都市部で働いていたものの、家族の事情やライフスタイルの変化を機に地元や地方へ戻りたいと考えている人は少なくありません。近年はリモートワークの普及や地方移住ブームの影響もあり、Uターン(生まれ育った地域に戻る)Iターン(都市部出身者が地方へ移住)、Jターン(地方出身者が都市部を経由して別の地方に移住)といった形で地方へ目を向ける人が増加しています。

実例:IT企業がUターン組を積極採用

岡山県に本社を置くあるIT企業では、東京の大手企業で働いていた地元出身のエンジニアをターゲットに、積極的にUターン採用を進めました。
地元に戻りたいと考えていたエンジニアは、家族の介護や子育てをしやすい環境を求めており、都市部の激務から離れたいという思いもありました。
そこで同社は「地方でも最新の技術に携われる」「生活コストが安く、ワークライフバランスが整いやすい」といったメリットをアピール。
結果として、複数名の優秀なエンジニアを採用し、開発チームのレベルアップにつなげています。

②海外人材や外国人技能実習生

グローバル化が進む中、海外からの人材を活用する企業も増えてきています。特に製造業や農業、介護などでは外国人技能実習生や特定技能ビザを活用する事例が増加しています。また、高度人材として外国人エンジニアや研究者を採用するケースもあり、企業の国際化やイノベーション創出に大きく貢献しています。

実例:農業法人が外国人技能実習生を活用

九州のある農業法人では、若手の地元人材を確保できず、慢性的な人手不足に悩んでいました。そこで、ベトナムから技能実習生を受け入れることに。最初は言語の壁や文化の違いもありましたが、受け入れ体制を整え、現場の社員が積極的にコミュニケーションを図ることで、外国人技能実習生が戦力として活躍するようになりました。彼らは真面目に働き、農業技術を習得しながら会社の生産性向上に貢献しています。

③リモートワーカー・フリーランス

コロナ禍以降、リモートワークが一般的になったことで、地方に住みながら都市部の仕事をこなす人が増えてきました。
この流れを逆手に取り、地方企業がリモートワーカーやフリーランスと業務委託契約を結ぶ形で人材を確保する事例もあります。
オフィスに常駐しなくてもスキルを活かせる職種であれば、地元にこだわらず全国、さらには海外の人材と協力することも可能です。

実例:地方デザイン事務所のフリーランス活用

四国にあるデザイン事務所では、都市部のフリーランスデザイナーと協業し、クライアントワークを効率化。
地方ではなかなか見つからない専門的なスキルを持つ人材を、リモートでうまく活用することで、事務所全体の案件対応力が向上しました。
プロジェクトごとにフリーランスを増減できるため、固定コストを抑えながら事業拡大を進めています。

④シニア・主婦・ダイバーシティ人材

「若手=正社員」という既存の採用イメージにとらわれず、シニア層や主婦層、障がい者など、多様な人材を活かす取り組みも注目されています。定年退職後も元気に働きたいシニアや、子育てが一段落して再就職を考える主婦など、潜在的な労働力はまだまだ大きいのです。

実例:地元スーパーがシニア・主婦層を積極採用

東北地方のあるスーパーでは、地域の高齢化と若者の流出に伴う人手不足に悩まされていました。
そこで、シニアや主婦を積極的に採用し、働きやすい環境を整備。短時間勤務や週数回のシフトなど柔軟な働き方を提案し、地域コミュニティに密着した雰囲気づくりを行いました。
その結果、長期的に働いてくれるスタッフが増え、接客品質も向上。さらに、顧客である地元住民とのコミュニケーションも円滑になり、リピーターも増加する好循環が生まれました。


3. 地方企業が多様な人材プールを活用するためのポイント

地方企業が「地元人材」以外に目を向けるといっても、ただ闇雲に募集をかければ良いというわけではありません。
多様な人材を採用し、定着させるためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

①企業の魅力を明確に発信する(採用ブランディング)

地元以外の人材を呼び込むには、「なぜこの会社で働くべきか」という理由を明確に伝える必要があります。
企業のビジョンやミッション、具体的な業務内容、働く環境、地域の魅力などを整理し、SNSや採用ページ、各種メディアを通じて発信することが大切です。
特にUターンやIターン、Jターンの人材は、「地元や地方で働くことの意義」や「都市部にはない魅力」を求めているケースが多いので、そこをしっかりアピールしましょう。

②柔軟な働き方の導入

リモートワークや時短勤務、フレックス制度など、ライフスタイルに合わせた働き方を選択できるようにすることで、都市部や海外在住の人材、主婦やシニア層など幅広い層を取り込むことができます。逆に、通勤や勤務時間に厳格な制限を設けてしまうと、多様な人材を活かすことは難しくなります。

③受け入れ体制の整備

外国人技能実習生やUターン・Iターンの人材を受け入れる際には、生活面や文化面でのサポートが必要になることがあります。
例えば、住居の確保や行政手続きのサポート、地域コミュニティとの交流機会の提供など、企業が率先して動くことでスムーズな定着につなげられます。
また、シニア層や主婦層を雇用する際にも、健康管理や家庭との両立支援など、配慮すべき点が多数あります。そうした受け入れ体制を整えることで、人材のミスマッチや早期離職を防ぎ、長期的な戦力として活躍してもらえる可能性が高まります。

④社内風土の改革と意識共有

多様な人材が集まると、必然的に価値観や働き方、文化的背景が異なる人々が同じ職場で協働することになります。
そこで必要なのが、社内風土の改革と意識の共有です。管理職や既存社員が新しい人材を受け入れやすい環境を作り、定期的にコミュニケーションの場を設けることで、衝突や疎外感を最小限に抑えられます。


4. 実際に成功を収めた地方企業の事例

①「海外人材×地元大学連携」で新製品開発に成功した製造業

ある地方の精密機器メーカーは、地元大学との連携を進める中で、交換留学生として来日していた外国人エンジニアに注目しました。実習やインターンシップを通じて会社との親和性を高め、そのまま正社員として採用。彼らが持つ海外の技術情報やネットワークを活かし、新製品開発や海外市場への進出を加速させることに成功しました。

この企業では、外国人エンジニアのために日本語学習支援や社内研修制度を整備し、社内コミュニケーションの円滑化に取り組んだ結果、他の社員からも「彼らの視点は新鮮で、製品の発想が広がる」と高評価を得ています。

②「リモートワーク×フリーランス」で新規事業を立ち上げたベンチャー

地方のITベンチャー企業が新規事業を立ち上げるにあたり、必要なスキルを持った人材を地元では確保できずにいました。
そこで、クラウドソーシングやSNSを活用して、全国のフリーランスとリモート契約を締結し、デザイナー、エンジニア、マーケターなど、多様なスキルを持つ人材を集めることに成功しました。

プロジェクト管理にはオンラインツールを活用し、定期的にオンラインミーティングを実施。結果として、スピード感のある新規事業の立ち上げが可能となり、会社の収益基盤が拡大。
地元では採用が難しかったハイレベルな人材も確保できたため、企業としての競争力も飛躍的に向上しました。

③「シニア×主婦×学生インターン」で地域スーパーがV字回復

経営難に陥っていた地方のスーパーが、人件費削減や若手採用の失敗で店舗運営に支障をきたしていました。
そこで、シニアや主婦層を中心に再度求人をかけると同時に、地元高校や専門学校の学生インターンを受け入れる仕組みを導入。
短時間勤務やシフト調整に柔軟に対応し、各世代が無理なく働ける環境を作りました。
シニアスタッフは豊富な接客経験を活かして常連客とのコミュニケーションを強化し、主婦スタッフは売り場づくりや家庭の知恵を活かした商品提案で売上アップに貢献。
学生インターンはSNS運用やPOPデザインなど、新しいアイデアを店舗に取り入れました。結果的に、売上が前年比20%増加し、地域住民からの支持も高まりました。


5. まとめ:地元人材の枯渇はチャンスに変えられる

「地元人材が枯渇した」と嘆く地方企業は少なくありません。
しかし、実際には視野を広げれば、地方企業が活用できる人材プールは多種多様です。
Uターン・Iターン・Jターン、海外人材、リモートワーカー、シニア・主婦層など、それぞれが持つスキルや経験、ライフスタイルのニーズを理解し、受け入れ体制を整えることで、企業は新たな活路を見いだすことができます。

もちろん、多様な人材を受け入れるためには、従来の働き方や社内制度、意識を変革しなければなりません。
例えば、リモートワークやフレックス制度の導入、住居支援や語学サポートなど、企業にとっては追加のコストや手間が発生する場合もあるでしょう。しかし、その投資が長期的には企業の生産性やイノベーションを高め、地域の活性化にもつながります。

また、こうした多様な人材の確保は、採用難を解消するだけでなく、企業が新しい価値観やビジネスチャンスを得るきっかけにもなります。
都市部や海外の知見を取り入れたり、経験豊富なシニアのノウハウを活かしたり、家庭と仕事を両立している主婦の視点を商品開発に反映させたりすることで、地方企業が持つ可能性は大きく広がるのです。


6. 今後の展望とアクションプラン

①採用ブランディングの強化

地元以外の人材を惹きつけるためには、企業としてのブランディングが欠かせません。企業の理念やビジョン、具体的な業務内容、働き方、地域の魅力などを整理し、魅力的に発信することが重要です。SNSや動画プラットフォームなど、多様なメディアを活用し、定期的に情報発信を行いましょう。

②社内制度の整備と柔軟化

リモートワークや時短勤務など、多様な働き方を取り入れるためには、就業規則や評価制度の見直しが必要になります。管理職や人事担当者を中心に、実際に働く社員の声を拾い上げながら、少しずつ制度を整えていくと良いでしょう。

③地域コミュニティとの連携

Uターン・Iターン・Jターン、外国人技能実習生などを受け入れる際には、地域の行政やNPO、大学などとの連携も大きな力になります。住居や生活支援、言語学習など、企業だけでは手が回らない部分を地域全体でサポートできる体制が整えば、定着率は格段に上がるはずです。

④社員の意識改革と研修

多様な人材が加わると、職場の価値観やコミュニケーションのあり方が変化します。新しいメンバーを受け入れるためのマインドセットや、チームビルディングの研修などを行い、既存社員と新規人材がスムーズに協力できる環境を作りましょう。


おわりに

「地元人材は枯渇した」という言葉は、地方企業にとって大きな危機感を煽るフレーズです。
しかし、そこにとらわれすぎると、本来見えているはずの大きな可能性を見落としてしまいます。
Uターン・Iターン・Jターンの人材、海外人材、リモートワーカー、シニア・主婦層など、多様な働き手が実は存在しており、その人々と出会い、共に働くことで、地方企業は新たな成長の扉を開くことができるのです。

地元にこだわる必要がないというわけではありません。
地元の若者や住民が大切な戦力であることに変わりはありませんが、それだけでは限界があるのも事実です。
視野を広げ、柔軟な働き方や受け入れ体制を整えることで、今まで接点のなかった人材が企業に興味を持ち、新しい風を吹き込んでくれる可能性が高まります。

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