【選挙徘徊記】2023年 大阪府・吹田市議選 感想
4月16日告示、4月23日投開票で吹田市議会議員選挙が行われた。
今回は大阪維新の会が現有議席を大きく上回る10名の候補者を擁立した他、れいわ新選組や旧N国党、そして参政党ら新興政党も議席を獲得せんと挑戦してきた。また現職も軒並み立候補した結果、定数36を45名で争う大激戦となった。
おそらく注目した方はほとんどいなかったであろうが、結論から述べると明らかに大きな変化が発生した、非常に興味深い選挙であった。
本稿では実際に各候補者の街頭演説等を聴きに行き、その時に抱いた感想等をまとめる。
●吹田市の政治情勢の特徴
感想を述べる前に、まずは吹田市の政治情勢の特徴を3点挙げたい。
・共産党が強い
1987年から36年間、共産党は市議選において、党派別では常に最多の当選者を出し続けていた(1)。彼らの吹田での強さは、「2023年に行われた大阪府議選において、唯一共産党候補が当選できたのが吹田市である」という事実からも読み取れるであろう(※) 。
・大阪にしては維新が弱い
大阪維新の会の結党以降4回行われた吹田市長選(今年の選挙も含む)で、維新候補が当選したのは2011年の1回だけ(2)。また衆院選において、吹田市が含まれる大阪7区で維新の候補が勝利したのは2021年が初めてである(3)。
・参政党の神谷宗幣事務局長のかつての地盤
彼は吹田市議を2期務めた(4)。また彼の結成した「吹田新選会」は「吹田党」と名前を変えて現在も存続している。この点で吹田市には神谷氏が率いる参政党を受け入れる土壌が一定程度あることが推測されよう。
また吹田党の候補者には「黙食への反対」や「オーガニック給食の推進」等、参政党と似た主張が見られる。それ故私は選挙前、「吹田党と参政党で票の奪い合いが発生するだろう。そして素人たる後者が前者に勝てるはずがないだろう」と予想していた。そして見事に外した。
●納得のトップ当選、維新の林やすひろ氏
今回トップ当選を果たしたのは、維新新人の林やすひろ氏である。
彼は衆議院議員秘書を務めていたこともあるとはいえ、元はただの会社員であり、実際選挙戦では「『普通の人』が選挙に挑戦する」をウリにしていた。
では、その「普通の人」をトップ当選に導いた戦術は何か。答えは徹底したドブ板選挙である。
彼は選挙期間中、乗降者数の多い駅に立ち、ひたすらビラを有権者に渡していた。
これだけでは「それがどうした?」と思われるかもしれない。しかし注目すべきなのは、彼はほぼ毎日、長時間にわたってこれを行っていた点である。特に最終日にはおそらく1日中同じ駅に立ち、1日中ビラを撒いていた。
想像していただきたい。あなたはこれほど根気のいる作業を連日行えるだろうか?
また彼は街頭演説をほとんど実施しなかったが、その代わり通りすがった人に話しかけられた際には積極的に話を聴きつつ、自分の政策を訴えていた。
そして驚愕したのは、林氏が彼らに「自分にはまだ至らない点があるだろうから、皆様との対話を通じて勉強したい。だから質問があるのならどんどんしてほしい」と言っていたことである。
再び問いたい。彼のように自分から有権者に質問を求める候補者が、果たして他にいるだろうか?
彼自身は「維新のマインド」をひたすら賛美し、「身を切る改革」や「大阪市と同じ取組の実施」ばかりを訴える「典型的な維新の候補者」である。それ故選挙期間を通じて、私は彼の主張に1ミリも賛同できなかった。それでも、連日駅で必死にビラを配り、真摯に市民の話を聞いていた彼を、私はどうしても嫌いになることはできなかった。
そしてこの印象は、彼を見かけた多くの市民も抱いたはずである。この「真剣なる青年」が初挑戦の市議選においてトップ当選できたのは、全くもって当然ではないだろうか?
●医師と教師が参政党公認で当選
今回の結果で私が最も絶望したのは、参政党の候補者2名が両者とも当選したことである。「参政党が複数人を公認した市議選で、吹田市のみ全員が当選した」と聞けば、その深刻さがお分かりだろう。
まず1人目の候補者・中西勇太氏はあろうことか現役の脳神経外科医である。聞けばこれまでも吹田市に請願書を提出したり、勤務先の病院で「真実」を発信したりと積極的な活動をしていた模様である。
彼の街頭演説は極めてお粗末であった。それはフワッとした話の中に「真実」「反政治家」「子どもへの義務」等の最早聴き飽きた単語が登場するだけの代物であり、インパクトは皆無。また話し方も無理に声を張り上げる、聴いていて痛々しく感じられるものであった。それ故か聴衆の反応も鈍く、演説中に欠伸をした者も複数名が確認された(なおうち1名は私である)。
また、演説では「待機児童の解消」や「愛国教育の実施」といった、教育に関する政策を中心に訴えていた。しかし騙されてはいけない。上記の通り彼はSNSでは反ワクチンの主張を露骨に展開しているのだ。もうヤダこの先生。
そしてこれを全面には出さず平和な雰囲気を醸し出しながら選挙戦を展開した点は、ある意味非常に狡猾だったように感じる。
もう1人のくぼ直子氏。こちらも嘆くべきことに数か月前までは教師だった方である。当時から真実に目覚め、学校の管理職に自分の「考え」を訴えていたというから、無垢な子ども達への悪影響が心配される。
彼女の演説は「子ども達への思い」が溢れ出ているのか、感情が自然にこもっており、聴衆の反応も中西氏に比べれば悪くはない。
他方訴えは凄まじい振り切れ具合であった。特に力を込めて語っていたのは「GHQによって歪められた今の教育」。曰く「大東亜戦争」とやらは本当は「アジア解放のための戦争」であり、この真実を伝えなくてはならないらしい。もうヤダこの先生(2回目)。
この使命感に駆られているのか、彼女からはある種の「必死さ」が伝わってきており、最終日のある演説時に至っては「狂気」すら感じることのできそうな絶叫が聞こえてきた。
他にも演説で「外資の土地簒奪」「気づき」「情報誘導」に言及する等、中西氏とは異なり「参政党らしさ」を全面的に押し出すスタイルであった。
さて今回は2名とも当選したわけであるが、筆者が上記の覚書で述べた通り、参政党の2023年統一地方選での得票数の、2022年参院選でのそれらからの減少率は平均値-35.64%、中央値-52.01%であるところ、吹田市は-23.01%と好成績であった。
私としては彼らが候補者として特に魅力的であるとは感じられなかったのだが、やはり前述の通り神谷事務局長の地盤だからこそ、良い結果が出たのであろうか。
また得票は中西氏がくぼ氏を上回っていた。私としては両者合同のマイク納めの際、事前のアナウンスや司会は中西氏が担当していたことから、参政党の選対が「中西氏のほうが落選の可能性が高いから、積極的にアピールさせなくてはならない」と判断したのではないかと推測していたため、この点は意外であった。表面上は「普通の人」の如く振舞った中西氏のほうがより支持を集めやすかったのだろうか。これらの点は今後検証したい。
●現職が4名落選した衝撃
今回は新人候補が多数当選した選挙だったが、対照的に現職が4名も落選するまさかの事態が発生した。また落選した新人の中にはベテランの無所属議員の後継者も含まれており、これも踏まえると一気に世代交代が進んだと言えよう。
一体彼らがなぜ落選したのか。様々な要因はあるであろうが、私は「従来の支持層が弱体化していたのではないか」という仮説を示したい。
例えば、落選した現職の1人であるいけぶち佐知子氏。「ずっと無党派」等をウリとし、完全無所属ながら当選回数は6回を数えたベテラン議員である。ここから、彼女には強力な後援組織があったことが推定されよう。
だが今回の選挙戦において彼女の選挙スタッフとして活動していたのは明らかに高齢者がメインであった。
いくらかつては強力な集団であったとしても、高齢化が進んだ彼女の陣営が、これまでの選挙の時ほどは活発に活動できないであろうことは容易に想像可能である。スタッフの高齢化によってこれまでのようには有効な選挙戦を展開できなかった可能性は高いのではないだろうか。
同じく落選した現職のある1人。彼の陣営の様子を見るに、彼はあまり選挙カーでの活動は行わず、支援者巡りをメインとしていた模様である。
もしも彼の支持組織(労組等)が依然として強い集票力を持っていれば、その戦術で当選できたかもしれない。だがその組織の力が衰えていた結果、票がこれまでのようには集まらず、活発な選挙活動を展開した新人議員らに競り負けたのではないだろうか。
無論これらは所詮選挙のワンシーンを見ただけの私の仮説である。またいけぶち氏については準備不足も大きな要因だったようである(5)。
しかしながら、既存の集票マシーンの集票力が低下していることはすでに様々な選挙で指摘されている。その影響がついに吹田市にも及んだと考えるのは自然ではないだろうか? 吹田市議会における急激な世代交代を目の当たりにした今、私はこの仮説を今後も考察していきたい。
●その他印象に残った場面
ここでは、上記以外に印象に残った場面を箇条書きでまとめる。
●総括 ~懸念されるべき地殻変動~
選挙結果は次の通りである(6)。
維新は候補者10名全員が当選し、改選前の4議席を倍以上にして議会第一党の座を共産党から奪取した。参政党も初挑戦ながら全員当選を果たし2議席を獲得した。
また共産党と吹田党は現有議席の維持に成功。公明党は現職1名が引退しながらも、残った6議席を死守した。
他方自民党は現職の里野よしのり氏が得票を前回から半減させて落選した結果、議席を6から5に減らした。
それ以上に悲惨なのが立憲・連合系(7)で、候補者5名のうち2名しか当選できず、しかも無所属(連合推薦)のかじ川文代氏が当選後、会派「市民と歩む議員の会」に参加した結果、系列の会派である「民主・立憲フォーラム」の議席は4から1に激減した。
その「市民と歩む議員の会」自身も、前述のいけぶち氏が落選した結果、あわや1議席になりかけた。
そしてれいわは山本代表が直々に応援に来たにもかかわらず敗北。旧N国に至っては下から2番目の順位となる大惨敗となった。更に前述のベテランの無所属議員・生野秀昭氏の後継者である村尾たくや氏が落選した結果、吹田市議会においては完全無所属の議員が姿を消してしまったのである。
また、上記の「主要な政党・候補者の得票と前回からの増減」にも着目したい。ここから、既成政党やベテラン議員らが軒並み得票を減らし、逆に維新や吹田党らの得票が著しく増加したことが読み取れるであろう。
この結果を一言で表すなら「地殻変動」であろう。前述の通り現職らが5名落選した半面、定数の4分の1にあたる9名(維新7、参政2)の新人候補が初当選を果たした。この急激な世代交代を見るに、吹田市民は市議会に対し「変化」を求めたと言えるのではないだろうか。
しかしながら、私はこの変化に対しては悲観的に捉えている。
例えば晴れて第一党となった維新だが、初当選を果たした議員は誰も彼も、選挙中は維新の崇高なるスピリッツを語るばかりであり、吹田市政に対する何かしらの信念があるようにはお世辞にも見えず、彼らが吹田市民のために真剣に働く気があるのか全く確信を持てなかった。
参政党に至っては議会という神聖な場で陰謀論を語る可能性が極めて高く、市議会の権威の低下が危ぶまれる。
無論この選挙結果こそまさに「民意」であり、尊重されるべきものである。ならば1人の有権者の義務として、今後は新人議員を中心として、当選した議員が果たして吹田市民のために4年間必死に働くのか、注意深く観察したい。そしてもしも職務を果たさない議員がいたのなら、彼ないし彼女が次の選挙で落選するよう、必要な務めを果たしていきたい(8)。
※註
(1) 「大阪府議会議員選挙・大阪府知事選挙吹田市議会議員選挙・吹田市長 選挙結果調べ 〔平成31年4月〕」(吹田氏選挙管理委員会、2019)
(※) なお、吹田市史編さん委員会編『吹田市史 第三巻』(吹田市役所、1989)によれば、吹田市には①大正時代に激しい小作争議が起こった歴史、②辰巳経世(吹田在住の著名なマルクス主義者)の青年活動家への強い影響、③横田甚太郎(共産党所属の衆院議員)らが戦前から展開した住民密着型の左翼運動、④共産党吹田細胞集団らによる戦後の活発な活動、等が存在する。吹田市における共産党の強さは、これらの歴史的経緯が関係していると思われる。(2023/7/6追記)
(2) 選挙ドットコムより筆者確認。https://go2senkyo.com/local/jichitai/2386
(3) 選挙ドットコムより筆者確認。
(4) 神谷宗幣公式HPより「プロフィール」http://www.kamiyasohei.jp/profile/
(5) いけぶち佐知子公式HPより「【2023.4.24】吹田市議会議員選挙に落選しました」https://ikebuchi.voicejapan.net/blog/news/4609/
(6) 吹田市HPより「令和5年4月23日執行 吹田市議会議員選挙及び吹田市長選挙」https://www.city.suita.osaka.jp/shisei/1019095/1026210/1028313.html
をもとに筆者作成。
(7) 立憲公認・連合推薦が2、立憲・連合推薦が1、無所属・連合推薦が2。
(8) なお、今回の選挙においては吹田党が得票を急増させたことが目を引くが、この要因は私としては不明である。また選挙を経て「後藤圭二市長の与党の議席数」や「保守系会派とリベラル系会派の勢力比」に変化が訪れた可能性があるが、私にとってこれらは今後の議会の様子を見なくては判断が難しい。このように研究課題が残る感想文となってしまったが、可能であれば今後これらについても検証していきたい。