参政党、敗れたり ~第50回衆院選で露呈した党の課題とは~
1. はじめに
10月15日公示/10月27日投開票で第50回衆議院議員総選挙が行われた。
周知のとおり、この選挙は自民党及び公明党が大幅に議席を減らして過半数を割り込み、また立憲民主党及び国民民主党が躍進するという驚くべき結果となった。これによって一気に政局が不安定化したことから、今後の成り行きが注目されよう。
さて、これらの大政党の明暗を尻目に筆者が注目していたものは、衆院選に初挑戦し南関東、近畿及び九州の3つの比例ブロックで各1議席、合計3議席を獲得した参政党である。
前提として、同党は今回4議席の獲得を目標に掲げており(1) 、更に「#参政党は5議席獲得」なるハッシュタグを党の公式X(旧Twitter)が使用する等(2) 、この目標を上回る議席数すら目指していた模様である。そしてこの目標に達しなかった以上、参政党がこの選挙において敗北したことは間違いない。
だが情勢調査によっては現有の1議席の維持すら確実でないとされていた点(3)を踏まえると、同党の結果は正確には「健闘しながらも敗北した」と言うべきものであろう。
そこで本稿では、何故参政党がこの衆院選において「健闘しながらも敗北した」のかについて考察する。
まず第2章では、党が意外なほど「健闘」できた要因を探る。ここでは「健闘」の伏線が、選挙の直前に開催された政治資金パーティー「参政党フェスin神戸 2024 ~SUPER CONCENTRATION!」(以下、「政治資金パーティー」)で張られていたことが分かる。
次に第3章から第4章にかけて、逆に党が敗北した理由を検討する。ここでは今年4月に行われた衆議院東京15区補選(以下、「衆院補選」)で筆者が見出した2つの課題を、党が解決できたかがヒントになるであろう。
そして第5章では、今回の衆院選を一つのきっかけとして顕現した「参政党指導部の権威の強化」と、それが生み出した新たな問題を明らかにする。
最後に第6章で本稿の議論を振り返りつつ、党の今後の展望について述べる。
またこの作業にあたっては、筆者による同党の選挙運動等についての「取材」に基づく定性的な分析を中心とし、必要に応じて各種の報道や資料を参照するものとしたい(4) 。
※第1章 註
(1) 時事通信、2024年10月25日 「国民目線、全国で訴え 参政党・神谷宗幣代表【党首奮戦記】」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024102500137&g=pol(2024年10月30日閲覧)
(2) 例えばX「参政党【公式】」(@sansei411)、2024年10月17日午前10時55分の投稿
https://x.com/sansei411/status/1846731666515190060(2024年10月30日閲覧)
(3) 例えば毎日新聞、2024年10月16日 「自民が単独過半数の維持うかがう 毎日新聞・衆院選序盤情勢調査」
(4) なお本稿において、特記の無い写真は全て筆者の撮影である。
2. 「健闘」を支えた党支持層 〜政治資金パーティーの狙い〜
本章では、参政党がこの衆院選で「健闘」した要因について考察するが、その前に「今の参政党には勢いがない」という点は強調しておきたい。
まず衆院選の前には、党が特に重点をおいていたとされる近畿にて前述の政治資金パーティーが開催されたのだが(5) 、それは3千人ほどが入れる会場に2千人以下しか参加せず、尚且つ参加者が熱狂するイベントがほぼない、という活気に欠けるものであった。
また選挙戦が始まっても、例えば10月18日に神谷宗幣代表らが吹田駅前にて実施した街宣の聴衆は、神谷氏への「抗議活動」をするために参加した20名ほどの集団を含めても100名もおらず、同駅前にて100名以上の支持者らを集めた昨年4月22日の吹田市議選でのそれに大きく見劣りしていたのである。
そしてこれらの光景を実際に見た筆者は、「参政党の統一地方選までの勢いは全く失われた」と感じたのである。
この厳しい状況下で、何故参政党は健闘できたのであろうか。
要因としては、例えばかつて拙稿で指摘し(6)今回の選挙戦でも確認された、ボランティアを組織して街頭で地道な活動を繰り広げる「ドブ板選挙」であったり、或いは高い視聴数を記録した動画コンテンツ(7)等が考えられるだろう。しかし筆者は最大の理由として、「党の支持層を固めることに成功したこと」を挙げたい。
日本テレビ系列と読売新聞社が行った出口調査(8)によれば、ふだん参政党を支持している人で今回、比例で同党に投票した人は83%にも上るが、これは、公明党や日本共産党といった強力な組織政党の支持層がそれぞれの支持政党に投票した割合と比べても遜色のない数字であり、参政党支持層が同党への投票にほぼ固まっていたことがよく分かるだろう。
これと対照的なのが前述の衆院補選である。拙稿で述べた通り、この選挙では参政党支持層が同党の公認候補への支持に固まらず、情勢調査で勢いがあるとされた日本保守党の候補者に流出した結果、党は「完全敗北」を喫している(9) 。
そして今回の総選挙の情勢調査で、日本保守党の初の議席獲得の可能性が幾度も取り沙汰されていた点を見るに、「注目の集まった日本保守党に参政党支持層が流れる」という補選と同じ事態が生じることは十分あり得たであろう。
しかし結果としては、参政党支持層の中で日本保守党に投票した者は、前述の出口調査によれば僅か4%にとどまり、補選の再来とはならなかった。小選挙区制と比例代表制とでは有権者の投票行動は当然異なるとはいえ、これは参政党が衆院補選と比べて「自党の支持層を固める」という点を改善した、との評価を可能にする結果と言えよう。
さて、実は参政党が既存の支持層を固める方針を採っていたことは、政治資金パーティーの時点で感じることができた。
このパーティーでは、複数の登壇者が「神谷代表を喪失すれば、参政党のことは全て夢になる」、「正直な人が正しいことを言えば勝つ。叩かれてもひるむな」、或いは「一人ひとりの力を信じ考えよ。皆が配信者、『フリーダムファイター』になれ」等と、個々の支持者による主体的な組織防衛の重要性を何度も強調していた。
またこのイベントは「超濃密」と称し、党員らが運営する物販や屋台、金魚すくい等のブースが過去最大の規模で設けられ、なおかつ1時間ものインターバルの間に参加者同士でコミュニケーションを取ることが推奨される等、とかく支持者間の交流、換言すれば「仲間とのふれあい」が重要視されていたように見える。
これらを見て筆者は、同党が「『参政党』というコミュニティー」のかけがえのなさ、居心地の良さを支持者に実感させて彼らを党につなぎ止めようとしているのではないか、そしてそれによって彼らが党を守るために熱心に活動するよう仕向けているのではないか、と推測することができた。
そして、その2か月後の衆院選の結果は、筆者が推測した党の方針が確かに存在し、そしてそれが成功した、と解釈することを可能とするものであろう。
以上の通り、今や勢いを失ったはずの参政党は、政治資金パーティー等を通じて支持層を固めたことで、筆者が衆院補選を見て必要だと指摘した「他党との競争に耐えうる安定した支持層」 (10)に彼らを組み込み、補選の二の舞を回避したのである。
他方、筆者が選挙戦前後を見て感じたことは、「衆院補選で露呈した党の課題が何ら解決されていない」というものである。そこで次章からはこの点について考察する。
※第2章 註
(5) なお、筆者は実際にこのパーティーに参加して人数や雰囲気等を確認し、詳細をウェブライターの黒猫ドラネコ氏からのインタビューにて述べている。「黒猫ドラネコ【トンデモ観察記】」、2024年8月15日 「漫才コーナーや「波動水」販売も!参政党の政治資金パーティーin神戸、潜入してきました【特別インタビュー企画】」
https://kurodoraneko15.theletter.jp/posts/9e934b00-57f1-11ef-9a5f-63da0d6feb68(2024年10月30日閲覧)
(6) 2023年10月28日 「参政党が失った「追い風」とは 〜三春充希 『【特集】第26回参院選(2022年)参政党』前半部分と、それへの感想を基に〜」
https://note.com/saiiki6111/n/n3d18ff312e44
(7) 参政党を含む各党のデジタル戦略を分析したものとして、中村佳美 「国民民主はなぜ強い?SNSが原動力か【与野党デジタル戦略をデータ分析】」 「BUSINESS INSIDER」 2024年10月30日
https://www.businessinsider.jp/post-296109(2024年10月31日閲覧)
(8) 日テレNEWS NNN、2024年10月27日 「【速報・出口調査】無党派層は自民より立憲に投票」
https://news.ntv.co.jp/category/politics/22fbf621435d4ae9b1082808de8eb6b1(2024年10月31日閲覧)
(9) 2024年5月5日「【選挙徘徊記】2024年 衆議院・東京15区補選 感想」
https://note.com/saiiki6111/n/n451ce8ebd4d0
(10) 同稿
3. 敗因① ~候補者達の乏しき魅力~
さて、筆者は衆院補選で惨敗した参政党を見物した際、同党は今後「高い実力や固有の魅力を持つ候補者を発掘すること」と、「党の名声を『支持者の狭いコミュニティ』を超えて広めること」を通じて、前述の「安定した支持層」を獲得する必要がある、と結論づけた(11) 。そこで本章ではまず、党が今回の選挙で前者の課題を解決できたのかを検討する。
予め結論を述べるのならば、少なくとも筆者の確認した限りではそのような理想的な候補者は全く存在しなかった。
筆者は今回の選挙戦において複数の選挙区の参政党候補を実際に見物したが、彼らのほとんどは「日本が危機にあること」と「それを憂う自分の純粋な気持ち」、そして「参政党の素晴らしさ」といった主観的・抽象的な話をするだけの人物であり、他党の候補者と比べると何の個性も魅力も感じられなかった。また念のため、ネットで他の候補者も調べたものの、いずれも似たり寄ったりの人物であった。
例外としては京都6区から立候補した元職の安藤裕氏や、比例近畿から立候補した知名度の高い和泉修氏らを挙げられるが、実のところ彼らでさえ、ある日の合同街宣で20名前後の聴衆を集める程度にしか注目されていなかった。したがって、他の無個性な候補者の街宣に聴衆が誰一人いなかったことは至極当然であろう。
そして「候補者個人の魅力の乏しさ」を象徴したものが、10月20日に大阪1区内の大阪市立南小学校にて行われた、宮出千慧候補の個人演説会であろう(12) 。
この演説会は「日曜日の夜に開催」「選挙区が、一般に注目度が高いとされる、いわゆる『華の1区』」「知名度のある和泉氏が応援弁士として参加」という好条件に恵まれたものであり、宮出氏の陣営も80名以上が参加することを想定した設営をしていた。にもかかわらず、蓋を開ければ参加者は僅か13名前後にとどまったのである(13) 。
そしてこの惨状を受けて狼狽した宮出氏陣営は、急遽個人演説会を参加者との座談会に変更したのだが、その時間で参加者は専ら、和泉氏に対し党全体のことや彼自身のことを質問しており、このイベントの主役である宮出氏にはほとんど話が振られなかった。これらの参加者は明らかに大半が党の支持者であったのだが、上記の様子から彼らが如何に宮出氏個人に関心がなかったかが分かるであろう。
今回参政党が、小選挙区に当選の見込みがない多数の候補者を擁立したのは、彼らによる党の宣伝を通して比例区における票の掘り起こしを狙うという戦略だったと思われる(14) 。だが実際のところ、候補者が上記のように支持者にすら関心を持たれない程度の魅力や個性しか持ち合わせないのなら、彼らの話を聞き、彼らと党に投票しようと考える有権者はなかなか現れなかったのではないだろうか。
結局、人材の発掘を怠ったのが原因なのか、参政党がかくの如き無個性な党員ばかりを小選挙区に擁立せざるを得なかったことは、票の掘り起こしに限界をもたらしたであろう。
※第3章 註
(11) 前掲拙稿、2024年5月5日
(12) 因みに、この個人演説会は誰でも無料で参加が可能であり、また写真撮影もできるという公開性の高いものであった。したがって筆者としては、この演説会の内実を記述することは何ら問題は無いと考えている。
(13) なお、宮出氏はXにて、この個人演説会の参加者やスタッフとの集合写真を投稿している。X「宮出ちさと」(@3COmIr42HP6yxpc)、2024年10月21日午後1時54分の投稿
https://x.com/3COmIr42HP6yxpc/status/1848226369601466716(2024年11月21日閲覧)
(14) 実際、筆者が見物した参政党候補のほとんどは、自身の名前よりも「参政党」の名称を強調する傾向にあった。
4. 敗因② ~「知名度?独自性?知るか!そんなもん!」 ~
本章では、筆者が挙げたもう一つの課題「党の名声を『支持者の狭いコミュニティ』を超えて広めること」の達成状況について検討する。
拙稿でのこの指摘について、今となっては「名声」や「コミュニティ」等の意味するところが明らかではなかったと反省する次第であるが、ここで改めて説明するのなら、これは「党の知名度や独自の魅力を高めることで、既存の支持層だけでなく無党派層や他党支持層からも投票先として選ばれるようになること」を指している。
そして、実は神谷氏は選挙前に、まるで筆者の指摘に応えるかのように「自民党員や無党派層」をターゲットにすることを表明していたのである(15) 。
だが出口調査によれば、党は今回無党派層の5%、自民党支持層に至ってはその3%未満からしか票を得られなかった(16) 。これは即ち、神谷氏の作戦が失敗に終わったということを意味しているであろう。
ではこれの原因を考察するのならば、やはり党に「知名度」も「独自の魅力」も不足していたから、と言わざるを得ないだろう。
まず「知名度」についてだが、少なくとも党としては「知名度が足りない」ということは認識していた模様である。
例えば筆者が話を聞いたある党の候補者は、「誰も参政党の存在を知らないこと」を第一の課題としており、「『党を初めて知った』という人にアプローチするしかない」と自身の選挙戦略を語っていた。
また神谷氏も、選挙期間中に「参政党を知ってもらえれば(衆院選に)勝てる」と述べ、時事通信から「知名度不足はなお否めない」と指摘されている(17) 。加えて彼は選挙後の記者会見において、選挙戦の序盤を振り返った際に「参政党という党を認知させることがすごく遅れてしまった」と反省の言葉を発していたのである(18) 。
これらから分かる通り、党は自らの知名度不足をしっかりと認識していた。だからこそ彼らは選挙前後に開催された公開の討論会への参加を執拗に求めていたのであろう(19) 。
とはいえ実際のところ、党は以前から公式動画の切り抜きや街宣での動画撮影に規制を設ける(20) 、公式動画の一部を党員及び有料チャンネル限定にする(21) 、支部のSNSでの発信を中止させる(22)等、自らの知名度を向上させるどころか寧ろ発信力を下げて党を有権者に認知させる機会を減らすかのような動きを見せていた。
また党が大々的に宣伝した政治資金パーティーも、前述の通り支持層固めの場と化しており、筆者には党が最早支持の拡大を諦めているかのようにすら感じられたのである。
これを踏まえると、参政党が国政政党になって2年が経過しながらなおも知名度が低いのは、党のこういった支持者以外の有権者に対する消極的な活動が原因と言わざるを得ないだろう。
また「独自の魅力」について、これはつまるところ他党との違いをアピールできるかにかかっているが、その点でも党は失敗していた。
一般的に、他党との差別化がしやすいものの一つとして「政策」が挙げられる。ここでいかに独自性を発揮して有権者から注目されるかが、党の存在感を高め、ひいては得票の増加につながるであろう。
そこで参政党は今回、第一の政策を「積極財政と減税」とした(23) 。また前述の個人演説会で和泉氏が語ったところによれば、これを採用した背景には「勝ち方よりも、とにかく選挙に勝たなければならない」という神谷氏の方針転換があった模様である。
だがこの政策は実のところ、今回躍進した国民民主党(24)やれいわ新選組(25) 、或いは党と競合関係にある日本保守党(26)が掲げたものとほぼ同一の内容だったのである。
管見によれば、そもそも参政党は2022年の参院選で「反ワクチン政策」という独自性が高く、かつ有権者に対し当時は一定程度の訴求力を持った政策を掲げ、彼らから「何か新しいことをしてくれそう」という期待感を集めた結果、初めて議席を獲得し国政政党となっている。
そのような歴史を持つ参政党が、いくら選挙戦略を見直す必要があったとはいえ、今更「他党と同じような政策」を重点的に掲げたところで、前述の諸政党との間で埋没することは必然だったのではなかろうか。
付言するならば、第三の政策である「食料自給の改善」も、自民党(27)や立憲民主党(28)のそれと類似していることから、これと同様に評価することが可能であろう。
また他の政策を見ると、「反外国資本・移民」や「国家アイデンティティの確立」、そして「創憲」は、対照的に独自性の高い保守的な政策と評価できる。こういった政策の比重が大きいことは、保守系の言論人が多く登壇した政治資金パーティーと共通する傾向と言えよう。
だが、そもそも保守的な政策に集票力がさほど期待できないことは2014年の衆院選で当時の「次世代の党」が証明している上に(29) 、これらが日本保守党の政策と正面から競合することは明白であった。
結局、参政党の政策は以上の欠点のあるものを除けば、「反ワクチン政策」と「選挙制度改革」しか残らない。だがこれらはいずれも有権者の関心が高いとはお世辞にも言えないであろう。
そして、筆者はこれらの有権者へのアピール力に乏しい7つの政策を見た際、「参政党は政策の設定を誤った」と感じたのである。
そして、党の政策を俯瞰すればより重要なことが分かる。即ち今回の参政党には「目玉」と呼べる政策が存在しなかった、ということである。
参政党はこれまで、「攻撃対象となる政府の施策」を設定した上でそれに対抗する政策を高々と掲げることで、支持者の憎悪をその施策に向けさせて彼らを熱狂させ、選挙運動における士気を高めていた。それは例えば参院選での「新型コロナワクチン」であり、また2023年頃の「LGBT法」である。
だが今回、そのような政策は何一つ明確に提示されず、党が選挙戦を通じて何を目標としているかすら終始曖昧なままであった。またその候補者は街頭演説において、「隠謀を張り巡らせる勢力」と「それに気が付かない大衆」という抽象的な存在を非難していることが多いように思えたのだが、もしかするとこれは党としての攻撃対象が不明瞭だったことの影響があったのかもしれない。
そしてこの事態は、ほとんどの登壇者が「グローバリストの陰謀が進行している」という怪情報を異口同音に延々と語るのみで、具体的かつ「憎悪すべき」政治課題を一切提示しなかった、政治資金パーティーの退屈極まりない惨状から十分予想可能だったのである。
結論を述べよう。参政党は今回の選挙で勝利するためには本来、党の知名度や独自の魅力を高めることが求められた。だが彼らは大多数の有権者に名前を売り込む機会を自ら手放し、また彼らへの訴求力に欠ける政策ばかりを掲げた当然の結果として、他党支持層や無党派層に浸透することに失敗したのである。
即ち、今回彼らの健闘を支えた前述の「安定した支持層」は、実際は専ら既存の支持者を結集するという、筆者の指摘とは真逆の工程によって製造したものだったのである。
もっとも「独自の魅力」について、党は政策ではなく別のアピールポイントを宣伝することで他党との差別化を図っていた模様である。そしてこれは同時に、党の支持層に重大な影響を与えたと言えよう。次章ではこのアピールポイントである「『神谷代表』という『党の顔』」と、その権威について取り上げる。
※第4章 註
(15) 時事通信、2024年10月11日 「自民党員・無党派の支持拡大 神谷宗幣参政党代表―衆院選【各党インタビュー】」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024101000885&g=pol#goog_rewarded(2024年11月20日閲覧)
(16) 日テレNEWS NNN、前掲記事
(17) 時事通信、2024年10月25日 「国民目線、全国で訴え 参政党・神谷宗幣代表【党首奮戦記】」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024102500137&g=pol(2024年11月19日閲覧)
(18) YouTube 「参政党」、2024年10月28日 「【LIVE】参政党定例記者会見ライブ配信!10月28日(月)15:00~」
https://www.youtube.com/watch?v=JMvYdP8SvtA(2024年11月20日閲覧)
(19) 例えば神谷氏は選挙後、参政党を討論会に呼ばなかった記者クラブや民放に対して一社ずつ抗議をし、裁判が必要なものは裁判に臨む意向を示している。「選挙ドットコム」、2024年11月11日 「参政党・神谷宗幣代表が語る!少数政党の存在価値&今後の戦略とは?!選挙ドットコムちゃんねるまとめ」
https://go2senkyo.com/articles/2024/11/11/103414.html(2024年11月30日閲覧)
(20) YouTube 「参政党」、2023年12月6日 「広報部よりお知らせ「YouTube、SNS、街宣のガイドラインについて」 【参政党からのお知らせ2/3】」
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&si=3EWiUYDj5eBiu0q-&v=9b73h0nuYbY&feature=youtu.be(2024年11月19日閲覧)
(21) X 「神谷宗幣」(@jinkamiya)、2024年2月5日午後7時4分の投稿
https://x.com/jinkamiya/status/1754445908006318201(2024年11月19日閲覧)
(22) YouTube 「参政党」、2024年3月15日 「参政党 【LIVE】参政党緊急記者会見ライブ配信!3月15日(金)14:00~」
https://www.youtube.com/watch?v=F-0Lcfz1Yd4(2024年11月28日閲覧)
(23) 参政党HP「公約 | 第50回衆議院選挙-50th House of Representatives Election- 日本をなめるな!」
https://www.sanseito.jp/50th_hore_policy/(2024年11月20日閲覧)
(24) 「国民民主党 第50回衆議院議員総選挙 特設サイト」
https://election2024.new-kokumin.jp/#top-policies(2024年11月20日閲覧)
(25) れいわ新選組HP 「れいわ新選組 衆院選2024 # 比例はれいわ」
https://shu50.reiwa-shinsengumi.com/(2024年11月20日閲覧)
(26) 日本保守党HP 「日本保守党の重点政策項目」
https://hoshuto.jp/policy/(2024年11月20日閲覧)
(27) 自民党HP 「自民党 令和6年 政権公約」
https://storage2.jimin.jp/pdf/pamphlet/202410_manifest.pdf(2024年11月27日閲覧)
(28) 立憲民主党HP 「立憲民主党 政策集2024「農林水産」 」
https://cdp-japan.jp/visions/policies2024/27(2024年11月27日閲覧)
(29) これを分析したものとして古谷経衡、2014年12月15日 「総選挙「唯一の敗者」とは?「次世代の党」壊滅の意味とその分析」
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/cb5a983f81117fd71678e603e7e069602ff878da(2024年11月23日閲覧)
5. 「神谷宗幣の権威」がもたらしたもの ~「候補者の大量擁立」を読み解く~
さて、ここまでは「参政党が解決しなかった課題」を検証したが、本章ではこの衆院選をきっかけに進行した現象について述べたい。それは「神谷氏を筆頭とする党指導部の権威の強化」である。
前章で触れた通り、今回参政党は政策よりも、「党の顔」である神谷氏の存在を熱心にアピールしていたように見える。
例えば神谷氏は選挙期間中、全国を飛び回って候補者の応援演説を精力的に行った。また党の公式Xは選挙期間中、神谷氏の街頭演説の様子を撮影した短い動画を連日投稿していた(30) 。更に政見放送(31)も神谷氏及び彼の街頭演説の様子を前面に押し出す構成となっており、「ゴレンジャー」なる集団宣伝体制(32)を採っていた参院選とは大きく様相が異なっていたのである。
この様子から、参政党は今や神谷氏を「党の顔」と位置付けてその「魅力」に頼った党の宣伝を行う、いわば神谷氏の「個人商店」となったことが分かるであろう。
そしてただ一人の「党の顔」となったことで、神谷氏、そして彼を筆頭とする党指導部の党内における影響力、即ち「権威」が高まったことは想像に難くない。そのことは、 神谷氏が参院選での街頭演説で用いたフレーズ「日本をなめるな」 (33)がそのまま選挙のスローガンとして採用されたことがよく示しているであろう。
そして、この「党指導部の権威の強化」によって実現したものが、10月3日という選挙の公示直前の記者会見で発表された、小選挙区への候補者の大量擁立であろう。
この会見では、衆議院立候補予定者の大幅な追加、変更、取り下げが発表された。特に北関東と東海ブロックの候補者を東京、近畿、九州ブロックと全く異なる選挙区に変更させたという点は、注目に値する(34) 。
また前述の宮出氏も個人演説会において、「自分の(所属する)支部から候補者を出す、と言われたが支部にアクティブな党員がいなかったため、支部長である自分が府連会長の後押しで仕方なく出た」と告白しており、これは支部に対し党指導部やその周辺から擁立についての指示等があった、と解釈することができる。
加えて、選挙区の変更が発表されたある候補者は、筆者に対し当時を振り返って「自分も選挙区を動かないといけなくなったが、一方で党に逆らうということは筋違いである」と述べていた。ここからは、選挙区の変更が党指導部によって一方的に決まったということが推察できるだろう。
これらの証言に加え、静岡2区の提坂大介氏が選挙区を変更するか立候補を辞退するかの選択を迫られ、いずれも拒んだ結果供託金や活動費を自費から出すことになった件(35)を見れば、この大量擁立が党指導部によって強力に進められた、ということが推測できるだろう。
そしてこの決定に反発する目立った動きは、大阪3区の中条栄太郎氏が7年間活動してきた選挙区を離れることを拒否して離党したこと以外確認されなかった。この現象は、党指導部が今やこのような一方的な意思決定すら障害なくできるほどの権威ないし権力を手中に収めている、ということを示しているであろう。
さて、この強引な擁立は、確かに比例票の掘り起こしによって党の「健闘」に貢献したのかもしれない。実際、選挙プランナーの松田馨氏はこの擁立戦略を、「候補者を移動させてまで…比例票の掘り起こしを丁寧に行い、『風』ではなく、積み上げで票をたたき出した、戦略的勝利」 と絶賛している(36) 。
だが一方で、この決定は党員をいたく動揺させたのではないだろうか。
そもそも、これほど急に立候補することとなった候補者は、選挙戦に向けた準備が当然不足しているため、その選挙運動のために費やさなくてはならない労力が過大なものとなったと思われる。
また選挙区の変更を強いられた候補者がこの党指導部の決定を、「自分のこれまでの活動実績を無意味なものにする、極めて理不尽なもの」と捉えることは自然であろう。実際、前述のある候補者は「ずっと元の選挙区で活動をやっていて、応援してくれる方もいらっしゃるのに、いきなり『他の選挙区に行きます』と言うことはおかしいのではないか」と、党の決定への不満を滲ませていたのである。
他方、候補者を支える各支部の党員としても、その選挙区での候補者としての活動実績に乏しい人物、ことによっては昨日まで顔も知らなかった人物が突然候補者となっても、彼/彼女を全力で支えようとする士気はなかなか上がらないのではないだろうか。
そして何よりも、今回の一方的な決定によって、党指導部が候補者を「比例票のために自由に出したり引っ込めたりできる駒」程度にしか認識していないことが露呈した。党指導部のこのような決定に、「党員が主役」という党のコンセプト(37)に賛同して入党した党員が納得することは、極めて困難と言わざるを得ないであろう。
まとめると、衆院選をきっかけとして、ただ一人の「党の顔」となった神谷氏が代表する党指導部の権威は今や最高潮に達した。そしてその権威があったからこそ、今回の大量擁立が可能であったのであろう。
しかしこのような、個々の党員の事情を斟酌しない強引な擁立は、ミクロ的には急な立候補や選挙区の変更を強いられた候補者や、馴染みの薄い候補者の応援を押し付けられた党員に党指導部への不満を抱かせ、マクロ的には「主役」のはずである党員の心情を蔑ろにした党指導部に対する、党員の不信感を増大させたのではないだろうか。実際、次章で触れる通り、党指導部に不満を抱いている党員の姿は複数名確認されているのである。
そして最終的に、参政党がこの戦略を採用しながら敗北したことは、党の前途に不安を抱かせることとなったであろう。この点は次章で検討したい。
※第5章 註
(30) 例えばX「参政党【公式】」(@sansei411)、2024年10月19日午後6時の投稿
https://x.com/sansei411/status/1847563346041852141?s=46&t=mB9n8U5k4O6zREQyrzQbMA(2024年11月24日閲覧)
(31) YouTube 「参政党」、2024年10月18日 「【第50回衆院選】参政党 政見放送」
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=UDx0RfyNgpI&pp=ygUW5pS_6KaL5pS-6YCBIOWPguaUv-WFmg%3D%3D(2024年11月24日閲覧)
(32) この体制とそのメリットについて、詳細は選挙ウォッチャーちだい、2022年5月18日 「【選挙ウォッチャー】 参院選2022・参政党とは何なのか(#1)。」
https://note.com/chidaism/n/n8a1a81996a65(2024年11月23日閲覧)
(33) このフレーズは2022年7月9日の芝公園での街宣で使われたものである。詳細は雨宮純、2022年7月17日 「「参政党!」コールに1万人以上が熱狂~参政党の熱い夜~(2022.7.9)」
https://note.com/caffelover/n/n2559689e9fe2?magazine_key=m4a61a0a6b4c6(2024年11月23日閲覧)
(34) 詳細はフラットムーン山本、2024年10月3日 「参政党衆院選の変更まとめ10/3」
https://note.com/bm1d4b6/n/n43bccaff4226(2024年11月23日閲覧)
(35) X「さげさか大介 第50回衆議院議員選挙に出た人 今は少し面白いオジサン」(@sagesakadaisuke)、2024年10月3日午後10時56分の投稿
https://x.com/sagesakadaisuke/status/1841839658055172367(2024年11月30日閲覧)
(36) 選挙ドットコム、2024年10月30日 「【衆院選2024】国民民主党の「誰も予想できなかった躍進」の裏には何が?れいわ、参政党、保守党の戦略を選挙プランナーが解説!選挙ドットコムちゃんねるまとめ」
https://go2senkyo.com/articles/2024/10/30/103084.html(2024年11月24日閲覧)
(37) 例えば2023年7月26日の松田学代表(当時)の発言。参政党HP、2023年8月15日 「【記者会見報告】 7月26日定例記者会見」
https://www.sanseito.jp/news/8500/(2024年11月30日閲覧)
6. 終わりに ~参院選の厳しい展望について~
最後にここまでの議論を振り返りながら、神谷氏が本命と位置付ける2025年の参院選(38)の展望について考察したい。
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