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レンタルショップに行ったら、いつのまにか彼氏までレンタルしていた話。

月曜日の深夜、レンタルショップに向かう私は、彼氏をレンタルすることになる。

一人暮らしをしていた街で、平日公休の私は、休みの前日に夜な夜な映画を観るため、ゲオにDVDをレンタルしに行くことがあった。

チェーン店のカフェで、マネージャーとして勤務する私は、午後から閉店までの時間帯責任者というシフトが多かったのだ。

売上報告などの仕事を終えて、最寄駅に着くのは0時すぎ。明日火曜日は、休みだが予定を入れていない。ゲオに直行だ。

カフェといえど、昔ながらの考えが根付く会社のため、出勤はスーツでヒールを履くという、ザOLスタイル。はたから見たら、カフェの店員をしているなんて誰も気づかないであろう。

月曜の夜中で閑散とするレンタルショップに響き渡る、ヒールの音。疲れ切った足でカツカツと歩き、洋画コーナーを眺めていた。真剣にDVDを選んでいる私の左のほうから、なんだか視線を感じる。

チラッと目が合ったのは、同い年くらいの男性だった。同じエリアを見たいのかなと察し、全然借りる気のないお笑いコーナーに移動して、録画で見ていないバラエティに思いを馳せることで時間を潰した。

そろそろいいかなと、洋画コーナーに戻ると、またこちらを見ている誰かの視線に気づく。同じ男性だった。2回目はバッチリ2秒見つめ合ってしまった。とても気まずくて会釈なんぞしてみる。

歳も近いし、知り合いだっけ?いや、あんなイケメンに会っていたら忘れるはずないし・・・と面食いな私は、脳内一人会議を2秒くらい実施してみた。

絶対に知らない人だった。

絶対に知らないイケメンと目が合って動揺した私は、もはや映画をレンタルするどころではなかった。

時が止まった感覚ってこれのことかな、いや偶然同じエリア見ていただけか!と気持ちを落ち着かせて、何も借りずにゲオを後にすることにした。

ゲオ出口の斜め前あたりに、おしゃれなクロスバイクにまたがる人がいた。さっきのイケメンだった。出てすぐに目が合ってしまい、視線を逸らして内心アワアワする私に笑顔で話しかけてきた。

「この近くに住んでるんですか?」

イケメンといえど、都会のど真ん中でしかも深夜に、見ず知らずの男性に声をかけられるのは全く慣れていない。

しかし、接客業をしているので、仕事モードだと話すことはできる。動揺が悟られぬよう、知らない人と話すモードに一瞬でスイッチを切り替えた私は

「そうです、近くに住んでますー」

とあっさり答えてしまうのであった。もしかしたら危険な男かもしれない人に。今考えると、私はアホか!とも思うが、何を隠そうその人は人生で出会った男性で、1番かっこいいと思うほど超タイプの顔だったのだ。

「駅のどっち側ですか?」
「こっちです」
「え、俺も同じ!よかったら、途中まで一緒に帰りません?」
「いいですよー」

いいですよって言っちゃったけど、私の方が先に家に着いてしまったらどうしよう、知らない人に家バレはヤバいなと内心ヒヤヒヤしつつ、私のヒールに合わせてクロスバイクを押しながらゆっくり歩いてくれた。

本当に全く同じ方向で、全く同じ道を歩く2人。

「お仕事何されてるんですか?OLさん?」
「カフェで働いてます。お仕事は?」
「火曜日が休みの仕事です、明日休みだからゲオ行ってて」
「その見た目だと、サロンボーイってやつですね」
「正解!この髪で火曜休みじゃ、そうなりますよね。笑」

彼は、金髪で綺麗に刈り上げされたツーブロックに、眉毛まで髪色に合わせたカラーだった。見た目にここまで気を使う仕事といえば、美容系かアパレル系と察しがつく。

「ずっと同じ道ですけど、こっちなんですか?」
「こっちです!そちらこそ、こっちですか?笑」
「うん、俺の家あそこです」

毎日通勤で歩く道にあるアパートの2階だった。私の家が先に出でこなくてよかった、どうやって撒こうかと悩んだあの時間は無駄になってホッとした。

「偶然同じ街で、しかも同じ道沿いの近所みたいですし、しかも一目惚れしちゃったんで、連絡先教えて欲しいんですけどダメですか?」

確かに、同じ時間にゲオで会って、しかもこっちこそ一目惚れです!と言わんばかりの超タイプの顔面に、まさかの連絡先を聞かれるというシチュエーション。そんな漫画のような場面に酔ってしまった私は、あっさりと連絡先を教えたのであった。

数回デートをして、あっさり付き合うことになった2人だったが、東京で働く若い美容師は収入が高くない。私も入社2年目だったので、椎名林檎の歌詞で言う、報酬は入社後平行線状態だ。生活には困らないけれど、御茶ノ水で買ったエレキギターを売ろうか悩んでいたくらいだった。(実は私、元バンドマン)

2人のデートは基本的に散歩か、自転車で行ける場所ばかりだった。これといって、記憶に残っているデートは正直言ってない。

ただ、デートで鮮明に覚えていることが1つだけある。
スタバに彼が書いた絵を納品したという話を聞いて、絵を見ながらコーヒーを飲んでいたときにされた質問である。

「考えるってどういう字書くっけ?」というアホ丸出しの発言だ。

彼が書いている文章を読むと、壊滅的と言っても仕方のない文字の並びと、見たことがない字が書かれている。

「これって、なんて読むの?」
「考えるって書いたつもりなんだけど、間違ってた?俺、漢字苦手でさ笑」

考えるが書けないって、漢字苦手のレベルを飛び跳ねるほど超えてきてるけど・・・。
私この人と付き合ってていいのかな?と思ったが、考えるという字を教え、かっこいいからまぁいいやと考えることをやめたデートが、1番の思い出だ。


ここまで読んでくださったあなたは、もう察したことでしょう。

人生で1度だけやっちまった、顔や容姿だけで付き合った経験です。

考えるを書けない彼と会話は全く通じないし、家に美容師仲間の先輩女性を「彼氏と喧嘩してるから、家に入れてあげようと思う」と悪気なく女性を家に入れる考えにもついていけず

なんで付き合ったんだろう?がいっぱいになった私は、3ヶ月で彼氏としての限界を迎えた。誕生日の前日だった。

レンタル期間3ヶ月、刺激的で全く未来の見えない物語を返却します。

返却はDVDのように"いとも"簡単で、彼との時間が無かったかのように、ヒールであの道をカツカツ歩く自分の日常に戻った。

タイプすぎる顔面と、絵が上手いところ、美容への熱さと仕事への才能に惚れただけであった。

彼も私と一緒に道を歩くのは、違うと分かっていたから、お互いあっさり別れたのであろう。

そんな彼は、今じゃ有名なヘアメイクアーティストになっている。後悔は全くないけれど、やはり顔と才能には惚れたまま、綺麗な思い出になっている。
活躍している彼は、出会ったときの金髪のようにキラキラした存在なのは確かだ。





今回は、すずノンフィクションにお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

普段とは違うテイストに、なんだコイツ!お前はハウツー記事書いとけよ!と思った人も、思っていない人も

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

顔と才能だけで付き合うと、数ヶ月しか持ちません。
彼と付き合って別れた学びは、次の出会いに活かして、次の彼とは2年半付き合っています。(急成長)

長くお付き合いをしたい方はこちらの記事に、経験からの考察を書いていますので、よろしければお読みください。

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付き合った人が、なぜか出世する

↓ そんな私の考察記事はこちら ↓


最後の婚活のはじめかた すず *

「だれかに役立ちますように」と時間をかけて書いています。 あなたのサポートは、めぐりめぐって誰かのために...♪ ぐるぐる、まわる。