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深呼吸する言葉を・ビート

語彙

わたくしという現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です

宮沢賢治 春と修羅 序

宮沢賢治の詩におかれた語彙は東北言葉をふくめて
奇をてらったものではなく彼の身についていた言葉であって
農学校の教師である東北人として自然なことではなかったかと思います。

人にとって 食事をするという行為は不可欠です
そして 食べた後から 再び食べ始めるまでの間
 その間
それぞれがじつに多様なことをしているのだと思います
農民だったり 大工だったり 兵士だったり
掃除 洗濯 子育て 介護 散歩 料理
ぼくのようにブラブラしている人も 
うずくまっているひとも
いると思う
その様々な有り様のなかで 身についたからだの感覚、
言葉には力があります

慣れ親しんだ道具に触れるだけで
その道具を手にもつだけで
起きる幸福がある
あるいは不幸もある
だから ペンを捨てて 括弧に閉じて
顎で 胃袋で 肝臓で 筋肉で
包丁で 鍬で ナイフで 車イスで ハンマーで
筆で

書けばいいと思います

 げっぷ (抜粋)

 私は 
降りかかる霜に赤く染まる
 木の葉のかなしみを食べた
背中の皮をむかれるような裏切り
はじき出されたひとすみの
 凍る孤独やめろめろとした愛
欲や野心やさむいくらし
これら
粗暴に投げ込んだものを
そしゃくする口のにがさ
のみこんだ腹の重さ
それでも
いちども
味あわずにのみ込むことをしたためしがない
・・・・・・
・・・・・・・
でも
もういいなんて言うもんか
ほんとうに甘いものだってくるかもしれないのにと
思うほど
ひもじいひとところのために
食べて 食べて
重い腹からつきあげる
得体のしれない怒りに
地震のような
   げっぷをはく
         塔 和子 「未知なる知者より」

   土地

そこからが膝であるく土地
膝だけであるく土地だ
そこからが
足うらの役たたぬ土地
すべて直立するものが
こころを入れかえる土地だ
そして忘れるな ここからが
肘と膝とであるく土地
すべて僧侶があゆみ捨てる土地だ
いわば 遺言の
所在のごとき土地
肘と ただ膝がしらで
悔悟のように杭を
打ってまわる土地だ
そして忘れてはならぬ
かつてどのような兵士でも
この姿勢でしか
前進を起こさなかったのだ

石原吉郎 「いちまいの上衣のうた」より

ビート

韻を踏まなくても七五調でなくとも
言葉を対置するとビートが生じます

すべてが わたくしの中のみんなであるように
みんなのおのおのの中の すべてですから
 宮沢賢治

学而不思即罔
思而不学即殆
学びて思わざれば即ちくらし
思いて学ばざれば即ちあやうし
 孔子

Aber wåhrend der Schatzbildner nur der verrückte Kapitalist, ist der Kapitalist der rationelle Schatzbildner.
しかし貨幣蓄蔵者が狂気の資本家でしかないのにたいして
資本家のほうは合理的な貨幣蓄蔵者である
 マルクス

躁のなかに見果てぬ鬱があり
鬱のなかに底抜けの躁がある
 橘川幸夫

ビートというのは何かというと
推進力です
ロックです

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