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猫とからすと水牛とやもり② 竹富島

竹富が本気を出す夕刻

竹富は夕方からが本番ですよ、と島の人が言う通り、最後の船が出た後は島が静かに穏やかになって、なんだか自分だけの特別な場所のように思える(完全に勘違いなのはわかっている)。散歩をする地元の方の姿もようやくちらほらと(昼間は本当に観光客しか出歩いていない)。日も傾いて涼しい風が吹き、黄金色の光に照らされてあらゆる眺めが一層神々しい。

静かな浜からの眺め

浜へと向かって、うっすら不安になるほど人っこひとりいない道を自転車で進んでいくと、西日を浴びて輝く水牛が唐突に視界に入り驚いた。草地で食事をしていたところなのだろうか、体が小さいから、まだ子どもなのかな。近くに人はいない。道端に立つ私を見て、一頭が何歩か近づいてきたので一瞬身構えたが、かわいらしい瞳をしばらく向けた後は関心を失ったようだった。

瞳がかわいらしい

翌日、仕事中の水牛たちを見かけた。三線の音色が聞こえる中、石垣の道をゆっくりと進んでいく島らしい眺めは素敵だったが、今も思い出すのはむしろ、あの静かな夕刻の水牛たちの姿だ。

夜明けに合わせて自転車で早朝の港へ

カラスがひとまわり小さい

八重山のカラスは東京で見かけるのと少し種類が違うようだ。体も細くひとまわり小さい。オサハシブトガラスというらしい。わたしはカラスが好きなほうだが、東京のハシブトガラスは至近距離ではちょっと怖い。その点竹富のカラスは数は多いが威圧感はなかった。その辺の枝にとまってよく鳴いているので、私も返事がしやすい(まわりに誰もいないときはけっこう返事をする。カラスにえっと戸惑ったような反応をされることもある)。

コンドイ浜のカラス

昼間、あまりの暑さに通りがかりのお店でかき氷をいただいたのだが、このお店のご夫婦は島に移住して6年ほどだということで、面白いお話をたくさんうかがった。あまり楽しくて次の日も行ってしまったくらい(1泊なのに)。話していると、空け放した入り口からカラスが滑空してきて、かあと鳴きながら店の奥にとまった。迷い込んじゃったのかと思ったが、雛のときに巣ごと地面に落ちてしまったのを助けたのが縁で、家族のようになついている子なのだという。早朝の散歩中にお店の脇を通った時にも、中からかあと声が聞こえてほほえましかった。

お店のバネッサさんとカラス。慌ててうまく撮れなかった…
お店は「マドモアゼル民具」。暑い日のかき氷はさいこうだった。バネッサさんのオススメはグレープフルーツ味。さっぱりした酸味が暑さでだれた体をしゃきっとさせてくれる。

ヤモリの鳴き声はじめて聞いた

集落を抜けて浜に向かう道は、両脇が緑深い木立になっている。中から、いろんな生き物の声が聞こえるのだが、何なのかまったくわからない。鳥なのか、獣なのか、虫なのかさえ判別ができない。こういうのに詳しかったらもっと面白いだろうなあと思う。伊豆大島では森の中から猿に威嚇の声を浴びせられたし、千葉でキャンプしたときは、夜遅くまでサギの騒ぐ声が聞こえていた。相手の正体がわかればなんでもないことでも、そうでないと場合によっては(暗いときとか、ひとりきりのときとか)かなり気味が悪いと思う。
竹富の森から聞こえる声は、そんなに大きそうとか強そうな感じではなかったので、怖くはなかった。あとで宿の人に聞こうと思って鳴き声を覚えたつもりだったが、戻るとすっかり忘れて聞けずじまいだった。あれはなんだったんだろう。

ゆんたくの最中に、近くで「キッキッキッキ」という感じの、森で聞こえたのとは別の声がした。民宿の方に尋ねると、やもりの鳴き声ですよ、と教えてくれた。やもりが鳴くことも知らなかったのでびっくり。けんかのときに出す声?らしい。やもりってかわいいよね、という話題でしばらく盛り上がった。つぶらな目とか、指とか、さわりごこちもやわらかくて好きだ。
やもりはかわいいというくせに、夜道に小さいうみうしくらいのなめくじが這っているのを見たときはちょっと固まってしまった。さすがにでかい。間違っても踏みたくない。

住民みずから守る特別な景観

水牛車がたくさん通る

ここ数年でいくつも島に出かけたが、どの島からの眺めもいつも胸をうつ美しさだった。しかし竹富をはじめて訪れて、なるほどここは特別な場所だと唸らされた。私たちの思い描くとおりのノスタルジックな沖縄の景観が、テーマパークのようなつくられた非日常ではなく、住民が暮らす町並みの中にある。これを守るのは並大抵のことではないだろうと思う。
そのあたりのお話も前述のマドモアゼル民具の方にうかがって、とてもとても面白かったし島への興味がますます増した。
この島は何度も長期滞在を繰り返して、島民とも顔なじみ、という旅行客がたくさんいるのだという。すごくわかる、と思った。ゆらゆらと、何日も何週間も過ごしたいと思える島だった。


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