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はじめての愛媛③ 島民5人の島で猫とひととの忘れられない出会い
猫島オブ猫島にいざ
いわゆる猫島として一般にも名前がよく知られているのは、香川の佐柳島、宮城の田代島、そしてこの青島ではないだろうか。私が猫島めぐりをしていると人に話すと、ここには行ったか、と尋ねられるのがだいたいこのみっつの島であった。
青島といえば、画面いっぱいにひしめく何十匹という猫たちがじっとこちらを見つめる写真を見たことがある人も多いのではないだろうか。各地の猫島を訪ねても、実際にはそれほどの数の猫が一か所に集まっていることはそうそうなく、私の中で青島というのは猫島オブ猫島、特別な島であるという位置付けだった。
だが同時に、この島に行く船は小型のため頻繁に欠航する、かつ限られた人数しか乗船できないため、港まで行っても乗船できないことも多いという話をあちこちで見かける。そのため猫島の中でも訪問難易度の高い場所として、なんとなく後回しになっていた。まずは行きやすいところから、と、アクセスが比較的容易な島をめぐり、田代島と佐柳島は2023年に、そのほかのもっと情報の少ない島も24年にあちこち訪ねるようになって、満を持して青島訪問を計画したというわけである。
しかし実際に訪ねると決めて調べていると、青島の猫の数はかなり減っていることがわかった。
猫島といわれる場所は過疎や高齢化が顕著なところが多い。また保護活動ののひとつであるTNR(捕獲して不妊手術を行い元の場所に戻す)を全頭に施した島も多く、たった1年で島の様子や猫たちの数が大きく変わることも少なくない。
猫島を訪ねるなら早いほうがいい
そういうわけで、猫の島を訪ねるなら、できるだけ早いほうがいい(2024年に猫島に行きまくったのには、そういう理由もある)。
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さて、青島の港に着くと、数匹の猫の姿は見られたが、事前の情報のとおり、かつてあったような無数の猫に取り囲まれるような光景はもうなかった。地元の方がおしゃべりをしていたり荷物を運びこんだりという、港でよく見かける様子もない。地面には、地元の方が設けた立ち入り禁止を示す青いラインが引かれている。さらに以前は入れた小道にもバリケードが置かれ、先に行けないようになっていた。島民の方に訊いてみると、民家があるので、今はこちらには入れないようになっている、とのことだった。つまり、港に面した海沿いの道と、その先にあるエサ場(このエサ場でのみ観光客が猫に食べ物を与えることができる)までが、猫に会うことができるエリアということになる。かなり狭い。
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以前は港そばの神社にたくさんの猫があつまる様子が見られたようだが、バリケードの向こうにあるため、現在はそちらに行くことができない。
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エサ場の先に廃校になった小学校へ続く階段と、島の内陸に向かう小道があるが、こちら側には猫はいないと思ってよさそうだった。
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さて夕方までどうしよう……
よい天気で、ひなびた景色も美しいが、1日2便のみで朝8時半ごろ着くと帰りは16時過ぎまで船がないこの島。猫たちも高齢なこともあってか、じっと横になっている子が多く、遊んだりじゃれあったりすることもない。さてどうやって過ごそうかと密かに途方にくれたのだが、人との出会いがここでの半日を、忘れられない特別なものにしてくれた。
朝、高浜の港にタクシーでやってきた女性はキャサリンさんといった。島に着いて早々に彼女のレンズフィルターが割れてしまい、変形してねじが回らなくなったフィルターをなんとか外そうと、島の人や観光客が代わる代わる回してみたり、ペンチを出してきたりとひと騒ぎあったおかげで、なんとなくいる人同士に気易い雰囲気が生まれた。
話してみるとこのキャサリンさん、日本に滞在中のベルギーのアーティストで、いくつか進行中のプロジェクトのひとつが、この青島に関するものだという。青島というと、猫についてのプロジェクトかと聞くと、猫の島としての青島ももちろん興味深いが、むしろそれ以前、かつてたくさんの人が暮らしていた島の歴史や、その後現在5人にまで人口が減り、環境やインフラの厳しさからゆくゆくは無人島になることが予想される運命まで、そのすべてに興味があり調べているのだという。青島にはもう何度も来ているそう。島民の何人かとは顔見知りで、取材に協力してもらっているようだった。
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実は、青島の人口が現在5人であることは、キャサリンさんから聞いて初めて知った。島には水がないため定期船で運んでいること、赤穂浪士で有名な赤穂藩から移住した人々によってはじまった島で、盆踊りには赤穂浪士の装束で踊るのがならわしだったことなどを教えてもらい、自分があまりに何も知らないまま呑気に猫島などといってのこのこやって来ていることに恥じ入ったのであった。
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人との関わりで旅がもっと面白くなる
彼女のおかげで、つたない通訳を兼ねて島の方とたくさんお話をすることができた。風のよくとおる小路に腰掛けて涼んでいた高齢の女性は、盆踊りについて尋ねると、次々と記憶が呼び起こされたようで、見る間に表情がいきいきとしていく。懐かしそうに子どもの頃の話を語り、もう忘れた、といいながら、盆踊りのさわりも踊ってくれたのだった。なんだか思いがけずひとの深いところに触れたような気がして、胸がじーんとした。
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船で一緒だったファミリーとも仲良くなった。子どもたちはお兄ちゃんと女の子ふたり。幼い子どもを嫌がる猫は多いが、この子たちは自宅でも猫を飼っているそうで、接し方がやさしい。少しあぶなっかしい抱っこを猫たちも受け入れて、これまたやさしい。連れだって島の少し奥まで探検に行ったとき、末っ子ちゃんをおんぶした感触が、まだあたたかく私の背中に残っている。
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お昼を食べた待合所には、寄付として猫のえさを置いていけるところがある。わたしも忘れずに持参した餌を置いてきた。
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島には「猫のおかあさん」と呼ばれる女性がいて、猫たちのごはんのお世話をされている。猫のおかあさんもご高齢のはずだが、エネルギーの塊のような方で、姿や声も若々しい。常にくるくると立ち働き、ほかの人の世話を焼いていた。頭数が減ったとはいえ未だ60匹ほどは餌を食べに集まってくるそうで、その量もかなりのものだ。そのため全国からキャットフードが送られてくるのだという。
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帰りの船が近づいたころ、猫のごはんの時間がやってくる。普段は立ち入れないエリアでの餌やりに、特別に入らせてもらった。猫のおかあさんが、子どもたちに手伝ってもらいながら、バケツいっぱいのドライフード、ウェットフードをあげていく。船の乗員さんに甘えている子も多い。
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この時は30~40匹ほどだったろうか、かなり減ったとはいえ他ではなかなか見られない密集ぶりだった。観光客が来ても来なくても続く、これが島の毎日の風景なのだ。
最後は二人旅に
島の方たちにお礼を言って青島に別れを告げ、船に乗り込んだ。長浜の港でファミリーとはお別れ。キャサリンさんは私と同じく空港に向かうとのことで、松山への電車、そこから空港までのバスは二人旅となった。電車が遅れ、乗り換えの特急に間に合うかふたりでドキドキしたが、なんとか間に合った。日本の交通機関は時間に正確なはずではないのか、というキャサリンさん。いやいや田舎の電車はなかなかハードコアな遅れ方するんやで。
道中、それぞれの生活の話、仕事の話、日本とベルギーの違いなど、いろんな話をした。わたしは決して英語が流暢なわけではない。つっかえつっかえ、頭を振り絞って伝えたいことを英語にしていく。言いたいことの、よくて半分くらい。それでも伝えたければなんとかなるのだ、ぜんぜん完全でなくても。
キャサリンさんとはその後も連絡を取り合い、彼女の東京での展覧会を観に行ったりもした。ブリュッセルに誘ってもらったので、いつか訪ねられたらと思う。あと青島にもまた行くそうなので、私も時期を合わせて行けたらいいな。
私らしい旅って、こういうことかな
初めての愛媛は、抱えきれないほど盛りだくさんな体験の旅となった。憧れの温泉に入り、たくさんの猫に会い、過疎・高齢化という日本の社会の問題の一端にも触れて考え込まされたし、ある場所から人がいなくなるということは、同時にそこで紡がれてきた文化も途絶えるのだという現実を、初めてリアルにイメージした。そして何より、人と関わりあうことで旅がもっともっと面白くなるということを再確認したのだった。私らしい旅ってこういうことかな、と、なんとなく思えた一泊二日だった。