基礎自治体訪問記19.名古屋市中川区〔令和3年2月25日(木)〕
災害図上訓練を視察させていただいた。
■中川区の概況
中川の名は中川運河(大正15年)から。名古屋市西部に位置し全域が平坦。ほとんどの地域が海抜ゼロメートルで、海水面より低い地域も多い。区の西側は市内でも有数の田園地帯が広がっているが、近年になって宅地化が進んだ。
区のシンボルマークは、中川区の「中川」の文字をデザイン化し、川が多いという区の特徴をイメージしたもの。このシンボルマークの示す通り、災害の最大の対象は、水害。
人口220,435人、世帯数世帯(2020年4月1日現在)。
中川区荒子は金沢100万石加賀藩の始祖、前田利家の生誕地である。
■平成2年度災害図上訓練
状況認識:時間外に大規模災害が発生した場合は、限られた条件下、参集した人のみで対応していく必要がある。場合によっては、役職に関係なく判断を迫られる。
目的 :起こる可能性のある事象に対し、実際に判断することによる「職員の判断力の強化」及び「想定される事象・対応の共有」を目的とする。また、4班で同一事象に対応し、さまざまな判断を確認・検証することによって、「よりよい初動対応の形式」を学ぶことを目的とする。
訓練想定:平日夜間に南海トラフ地震が発生した際の「発災~24時間以内」の初動対応。
〈2/25 AM2:00 三河湾沖でM8.5の地震が発生。市内では最大で震度6強が観測された。発災から2時間後、あなたたちは一番最初に参集し、区本部長より、これから区本部を立ち上げ、安定するまでの間の司令塔を任された。次々と起こる課題に対応しながら、実施方針(内容)を定め、参集する職員に指示を与えていってください。〉
実施要領:ワークショップ形式
・約8名×4コGp
・6つの課題に対して、Gp毎、実施方針を討議、決定。
・最後に、討議内容、教訓を発表。
■所見
① 現実に起こりうる、“混乱状態”を想定した大変面白い想定です。
② 想定やワークショップ形式の実施要領は、極めてシンプルで、分かりやすい。
③ 皆さん、大変熱心に討議されていたので、目についた数人の方にお話しを伺うと、東海豪雨の経験者の方々。ちょうど、当時管理者として災害を経験した方々が、定年退職を迎える時期で、それ以降は災害経験者がいないとのこと。災害経験が失われてしまうことを心配されていた。
※東海豪雨は、2000年9月。東海地方(静岡県・岐阜県・愛知県・三重県)で10人が死亡し、経済的被害は2700億円超。1959年の伊勢湾台風以来の水害となった。
どこの基礎自治体も同じ悩みを抱えているが、被災した自治体への応援活動を通じて、災害経験を蓄積し、役所内に広めていく研修システムを作るのが良いだろう。
④ 課題発表を聞いた所見が二つ。
一つは、個人として真剣に考えて意見発表していたが、指揮官である「区長ならどう判断するか、どうしなければならないか」という視点で考えると、大局的な視点から発想することができる。
もう一つは、市民が市役所に避難してきて対応しなければならない状況での判断。
最優先すべきは、安全の確保。しかし、それでもできないことはどうやってもできない。そのとき、考えなければならないことは「信頼をつなぐこと」です。
市民は無理を言っているのではなく、できることをやってもらいたいだけだと信じて、最善を尽くしていることを理解してもらい、信頼をつなぐことが重要です。
どんな市民であっても、クレーマー扱いしてはいけません。
信頼は、素早い復旧、そして将来につながります。
⑤ 今後取り組むべきは、予想される“混乱状態”を“混乱状態”ではない状態にする努力、約束事を決めて、少しでも確実に計算できる状況を作り出す努力です。
その第一は、非常参集及び非常勤務態勢の見直し。
第二は、立ち上がり当初の環境や物の整備。
第三は、非常勤務態勢時の権限の委任。
そのうえで、このような訓練をすれば、さらに効果的だと思いました。