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一票の格差問題とシルバーデモクラシー問題は相似形

奥日光湯元温泉から帰ってきて、今日は家でAbemaプライムのアーカイブがYouTubeに上げられているのを見ながらのんびり過ごしていました。

ネット上で賛否両論はありつつも、多くのフォロワーを抱えるひろゆき氏が出ている動画の再生数が多く、私も何本か動画を視聴しました。

印象に残ったのは「一票の格差」をテーマにしたこちらの動画でした。

自民党の稲田議員が地元福井県の声をもとに、地方の声が国政に届いていないと主張し、それに対してひろゆき氏が一票の格差で票の価値が低いのはむしろ都会のほうだと反論、そこに更に宇佐美氏や乙武氏らが自説を重ねて議論を進めていっている内容です。

簡単に結論の出るようなテーマではないので当然番組の中で何か結論が定まったわけではないのですが、討論番組というのはこのようなものでしょう。

私がハッとさせられたのは、稲田議員の意見についてです。

というのも、個人的には、基本的にこの「一票の格差」問題はひろゆき氏の主張していた通りのシンプルな話で、一票の価値が平等であるべきだというのは最高裁も是正すべきと述べている問題であり、事実として一票の価値は都会ほど低いので、不当に多い地方の議員定数を削減していく方針で進めるべきだという話だと疑っていなかったからです。

一見もっともだと思われる意見に稲田議員は、「民主主義的に、平等主義的に考えると当然そうなのだが、それに任せていると地方は消滅してしまう」と反論を述べるわけです。

(この意見自体には乙武氏から、国会議員は本来は国民全体の代表であり、地元の利益の代弁者ではない、という反論も行われているのですが、実態として地元への利益誘導が存在していることは概ね異論がないことでしょう)

これを見ていて私は、タイトルにも書いた一票の格差問題とシルバーデモクラシー問題は相似形であるという示唆を得ました。

1.シルバーデモクラシーの問題


シルバーデモクラシーとはざっくりいうと、少子化・高齢化が進み選挙における有権者に占める高齢者の割合が増すことで、高齢者層の政治への影響力が増大する現象のことです。

有権者全体のなかで高い割合を占める高齢者向けの施策が優先される政治のこと。日本ではとくに2000年代後半に団塊の世代が定年退職の時期を迎え、有権者に占める高齢者の比率が上昇した。しかも20~30歳代の有権者の投票率が低いことから、政治家も高齢者の声に耳を傾けがちになり、「高齢者の声が通りやすい政治」が現出した。

国政の場よりも深刻なのが地方自治体で、保育園の増設、小学校の耐震補強などの予算よりも、高齢者向け文化センターの建設、高齢者向けイベントへの支援金措置などが優先される事態が頻発している。

シルバー民主主義の問題点は、若年層の福祉を意図的に軽視することである。たとえば、正社員としての就職がかなわず短期の派遣社員として不安定な生活を送る若者に対し、「本人のやる気不足」「親の教育の問題」といった精神論でかたづけ、構造的問題としてとらえることを避けようとする。これが日本の活力をそぎ、長期にわたる経済の低迷を招いていると指摘する識者も多い。

シルバー民主主義の蔓延(まんえん)を避けるためには、若年層を含むすべての有権者に投票を義務づけること、一票の格差を完全になくし都市部で働く若年層の声が政治に反映されやすくすること、などの対策が考えられる。

引用元:コトバンク

因果関係のロジックに多少ツッコミどころは存在しますが、高齢者の意見ばかりが通る世の中では、社会保障費や医療費の面で若者が相対的に割を食うことになり、生活に困窮した若者は子供を産まなくなり少子化が進むというのは幅広く指摘されている意見です。

以前に書いた記事の結論に詳しく書きましたので、そちらも読んでいただければと思います。該当部分を下記に引用します。

子供を産まない選択肢を取るということは薄給のサラリーマンにとって合理的かつ、容易な選択肢です。しかもそれは、数十年後の未来の納税者の芽を刈り取るという意味で、会社組織などよりもっと大きな、国や社会に対するストライキ・ボイコットになり得ます。

事実として日本では出生率は2を下回って久しく、人口ピラミッドは大きくゆがみ、労働市場では慢性的な人手不足、納税者も不足して赤字国債はとどまるところを知らず、先に挙げた年金制度は破綻もささやかれる有様です。

確実に国と社会にダメージが入っている証左でしょう。

(中略)

個々人の合理的な「子を産まない」選択が国や社会に対するストライキ・ボイコットとなり、国や社会自身の持続可能性の危機として跳ね返ってくるわけです。

引用元:子供を産まない社会は持続可能性が無い

シルバーデモクラシーの何が問題なのかというと、若者の声が政治に通りにくいということももちろんそうなのですが、それによって若者が人口再生産を行わなくなり、国や社会といった共同体そのものが破滅に向かうこと、すなわち社会で決めたルールが社会の衰退を引き起こしてしまう、誰も悪いことをしていなくても社会が破滅に向かってしまうという、自由で民主的な社会制度の致命的なバグという点がより深刻な問題であるように思います。

2.一票の格差の問題


目次の前で、一票の格差問題とシルバーデモクラシーの問題に相似形があると書きました。

何が相似形かというと、ここまで読めば皆まで書かなくても察しが付く方もいらっしゃると思いますが、「自由で民主的な社会制度は大事だけれど、すべてそこに任せていても自ずから調和が生まれるわけではなく、格差の拡大や少子化といった問題によって共同体が衰退していくことがある」という部分です。

自由で民主的な社会制度が世界の調和を生むというのは、自由競争が調和を生むとする国富論における神の見えざる手の発想にも似ています。資本主義社会の自由競争を称える神の見えざる手という考え方は、世界恐慌などのイレギュラーによってその完全性を否定されました。

思うに、神の見えざる手と同じように、自由で民主的な社会制度があればそれに任せておけば共同体に自然と調和が生まれ、存続できるというのは甘い考えなのでしょう。

自由で民主的な社会制度は、地方から都会への人口流出を発生させました。資本主義の競争社会では、地方で生まれた若者もグローバル経済の大海原で戦ってゆかねばなりません。だからこそ、戦う知識をつけるため、戦う仲間を探すため、競争社会で勝てる組織の一員になるため、若者は都会に出ていくわけです。それぞれの若者にとって、社会制度に適応的で合理的な考え方でしょう。

しかし一方で、そうした合理的な選択が集まった結果、地方は衰退し、消滅の危機を迎えているわけです。まさに誰も悪いことをしていなくても社会が破滅に向かってしまうという、自由で民主的な社会制度の致命的なバグの好例と言えるでしょう。

社会のルールとして、民主主義的・平等主義的に考えるなら、一票の格差は当然当たり前に是正する必要があるという結論になるのでしょう。

しかし一方で、国の目線で共同体の存続を考えるなら、シルバーデモクラシー問題に際して例えば「若者の投票に重みづけをしてはどうか」などと検討するのと同じように、一票の格差問題に際して「地方有権者の投票に重みづけをする」などというのも、一つの発想として実は合理的なのではないか、と思い至った日曜日でした。


補足:少子化が導く人口減少が共同体の破滅を導くというのはほぼ自明であるのに対し、地方自治体が衰退し田舎がなくなっても、日本という国は生き残ることができるかもしれないという点は頭の片隅に置いておく方が良いかもしれません。同じくAbemaプライムの動画ですが、こちらの動画が参考になりそうと思いましたので、貼り付けておくことにします。


日曜日にもかかわらずかたい話になりましたが、本日は以上です。

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それではまた次回。

2022.2.20 さいとうさん


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