ぽっちゃりシキザクラ
ロボットアニメが同時期に妙に集中している!という、誰かのツイートを見かけたのは放送開始少し前のこと。2021年10月クールには多くの新作ロボットアニメが放送される予定となっており、10年以上前のテキストアドベンチャーゲームの映像化、有名ゲームクリエイターによるメディアミックス作、有名ロボットアニメスタジオ(厳密にはその関連会社)による新作、存在自体が放送直前に発表された海外作品のローカライズ版。
さらには10年以上続くロボットアニメの完結編が立て続けに劇場公開されるという、ちょっとロボットアニメが密です!な状態だった。
そこに並べられていたのが「シキザクラ」だった、というお話。
結局のところ、シキザクラはロボットアニメではなく、パワードスーツを着た戦隊ヒーローが世界を救う、特撮ヒーローアニメだった。
基本的にはCGで描かれながら、必要があれば作画で対応するというスタイル。忌憚なく言えば作画対応の箇所のクオリティはやや怪しくはあったものの、CGで描かれた戦闘パートの描写や演出センスがとても光っており、王道ド真ん中というシナリオであることも相まって、そこには目を瞠るものがあった。
シキザクラは、いいぞ。
プロジェクトとしては長く時間をとっていたようで、中京テレビを中心とした「ナゴヤアニメプロジェクト!」の作品らしい。
「名古屋でアニメを作りたい!」とアニメーション製作の地域産業化を目指し、舞台となるのは東海三県、出演キャストにも地元出身の役者を起用というもの。
埼玉で育ち、東海より西の地方に進学した自分にはあまり馴染みはなく言われてもピンとはこなかったが、ちょくちょく実在の施設や風景が登場する。
せっかく大暴れさせるのなら、もっともっとドッカンドッカン派手にやってくれてもよかったな。ほら、怪獣映画で自分の会社が壊されると大喜びするという話を聞くでしょう?
そういったデータの中で目を引いた情報は「愛知県出身の佐藤二朗が出演」という点。あの佐藤二朗である。
佐藤二朗が、佐藤二朗をまんまアニメ化したような容姿のキャラクター・着ぐるみヒーローショーを見に来る市井の人「ガチ勢のおっさん」としてキャスティングされていた。
いや別に、とくべつ佐藤二朗さんのファンという訳でもないのだが、とりあえず放送開始を楽しみに待つ要因の三割くらいは彼だった。
なお、彼が登場するのは物語の中盤で、喋るのはその回一度きり。
まぁそれは横に置いといて。
語りたいのはぽっちゃりおじさんの話ではなく、ぽっちゃり親友のことなんだ。
そのためにまずは主人公・三輪翔(ミワ・カケル)の話から。ヒーローに憧れるカケルは一見して軽く、かなり明るい性格をしており趣味は人助け、と既にヒーローの片鱗を見せているが、
実は「八年前の大災害、唯一の生存者」で……という話が1話で早々にぶち込まれる。なんなら郷土資料館に「彼が発見されたときの写真」が大きなパネルで展示されている。それにしては明るい。びっくりするほど明るい。へこたれないし、凹んでも立ち直りが早い。
「唯一の生存者」設定は映えるためありがちだとは思うが、かつてここまで明るい子が居ただろうか。
主な、というか登場キャラクターたちはどれも事件に巻き込まれて出会う仲間たちであるため、彼の明るさを形作るものは物語開始以前にある。
義兄にして親友、永津吉平(ナガツ・キッペイ)だ。
同級生で、誕生日の話題はなかったように記憶しているためはっきりと兄だとは語られてはいないが、この性格でこの人格なら誕生日どうこう関係なく、兄はキッペイでしょう。
キッペイはぽっちゃり体型でイエローのオシャレメガネ、ついでに髪型はツーブロックというキャラ立ちは結構なビジュアルをしつつ、かなり強めの特撮オタク、モテたくて高校デビューを図ったものの成果はない、と属性もだいぶ派手なパーソナリティを持つ。
「兄弟だろ」「本当の兄弟じゃないだろ」というやり取りがされるのは第4話「家族/BROTHER」の出来事。
「そもそもお前ら(義)兄弟なのかよ!?」と思ったのは私だけじゃないはず。
しかし思い返してみると「第1話冒頭、カケルとキッペイが同じ部屋でゴロ寝している」+「カケルは唯一の生存者」という情報から「キッペイはカケルが引き取られた家の子」という推測が出来るようにはなっていた。
キッペイは「非日常」に身を投じることになったカケルの、守りたい「日常」の象徴である。
はじめこそ「もしかしてキッペイは追加戦士なのか? 青、いないし」と、しれっとヒーローたち“シロ組”との交流を持っていたキッペイを見て考えもしたが、彼は最後まで、あくまで一般人枠だった。
彼はとにかくブレない。最初から最後まで「自分が好きなもので自分を語る」ということに一貫しており、ヒーロー活動の詳細を語れずバイトと誤魔化すカケルを心配しつつも見守り、支え、最後には大好きな特撮ネタで後押しまでしてくれる。
この人間力(ぢから)で「モテない」というのはおかしい。
よく知らない人から「なんであんなやつがモテるんだ?」と妬まれるレベルで人間としての成熟度が高い。
あれか、特撮ネタのウザ語りしちゃうタイプか。たしかに……そんな様子はあった、かな。
ひと昔前ならば恋人や片恋相手、爺ちゃん婆ちゃんお母さんや姉や妹弟が立っていたであろうポジションに収まっているのが、オタクなぽっちゃり兄弟である。最高では?
何が言いたかったのかは未だ自分でもよく解っていないのだけれど、
間違いなく、永津吉平もこの作品におけるヒーローのひとりだったんだぜ、というお話でした。
ちなみに「三輪」さん、「永津」さんは愛知県に多い苗字のようで、調べてはいないがこれはきっと他のキャラクターたちも地元の苗字を持っているのでしょう。
余談ではあるが、この作品がロボットアニメだと誤認された原因、佐藤二朗なのではないかと疑っている。
YouTubeに上がっているPVに佐藤二朗がナレーションしてるものがあるのだが、めっちゃ「ロボット」言うのである。「ロボット」「ロボット」「かわいこちゃん」「ロボット」くらい「ロボット」と呼ぶ。
初期構想でこそロボットアニメとして作るつもりだったようだが、世に出ているものは戦隊モノに変わってからのものなはずなので、もしも佐藤二朗がパワードスーツを「ロボット」と呼ばなかったらリアルタイムには出会っていなかった可能性がある。
だって現に、観たかったロボットアニメ、全部は追えてないんだもの。
ありがとう さとうじろう。