「フレーバーでマッチング?」クノールが仕掛けた感情マーケティングとは
ハイネケンのキャンペーン動画「#Open Your World」が話題になったポイントとは?
オランダのビールブランド「ハイネケン」が2017年に公開したキャンペーン動画「Worlds Apart #OpenYourWorld 」をご存知でしょうか?
公開後1週間でyoutubeの再生回数が約300万回になるほど話題になったので、知っている方も多いかもしれません。
「性を変えた人々も自分の意見を言うべき」と主張するトランスジェンダーの女性と、「男性は男性らしく、女性は女性らしくあるべき」と考えている男性など、全く異なる価値観を持つ赤の他人同士である2人が3組登場し、密室で共同作業を行います。
親睦を深めたところで、お互いの主張主義を語った動画が流されます。さっきまで仲良く共同作業をしていた男性が「女性は女性らしくいるべき」と語る映像を見て、涙する女性。
映像が流された後、「部屋を出るか、一緒にビールを飲むかを選択してください」というメッセージが流れます。驚くべきことに、3組全てが一緒にビールを飲むことを選びます。
「たとえ価値観の違う相手でも、ビールを飲み交わして、議論をすれば、世界を広げていくことはできる」
そんなメッセージが込められた動画です。
日本のビールのCMといえば、芸能人が泡たっぷりのビールを美味しそうに飲む、とったビールそのものに焦点を当てたものが多いイメージです。
(このCMはビールというより、石原さとみの可愛さにしか目がいかない)
しかし、ハイネケンは商品の魅力を伝えるのではなく、「ビールでどのような世界を創りたいか」というメッセージと共に人間の感情に訴えかける広告を作ったことで、多くの人の心を動かしました。
このような生活者とブランドの間に深い絆を築くための、生活者視点の感情に訴えかける、ストーリーを重視したアプローチである「感情マーケティング」が今注目されています。
なぜ「感情マーケティング」が効果的なのか?
理由は2つあると考えています。
1.第一印象でインパクトを残せるから
あなたの目の前に2つの広告があるとします。1つは単に製品について話したもの。そして、もう1つはあなたを爆笑させるもの。どちらの広告が記憶に残ったか?と聞かれれば、後者と答えるでしょう。
人の第一印象はほんの数秒で決まると言われていますが、同じことが商品やブランドにも言えます。一日に溢れるほどの情報を浴びている生活者の記憶に残るためには、数秒の接触時間でいかに感情を動かす、インパクトのある広告を形成するか、が重要になってきます。
2.アクションを起こさせるから
イギリスの広告協会IPAが、過去30年間にコンペティションにノミネートされた1,400の成功した広告キャンペーンを対象に、感情的な訴求をしたキャンペーンと、合理的な説得力と情報を使用したキャンペーンの収益性を比較しました。
その結果、感情的な訴求をしたキャンペーンは、合理的な説得力と情報を使用したキャンペーンと比較して、2倍の収益率になったということが明らかになりました。(31% vs 16%)
また、ペンシルベニア大学の研究では、「ニュースでよく読まれるのは犯罪などの悪いニュースだが、SNSで拡散されやすいのは幸福になれるニュースやポジティブなコンテンツ」という研究結果も出ています。人間は、幸せな感情にしてくれるコンテンツを拡散したい生き物なのです。
感情マーケティングを検討する際のポイント
では幸福感溢れる広告を作れば売上が増加するのか?と言われれば、決してそうではありません。通常のマーケティング戦略を検討するのと同様に、ブランドビジョンに則った戦略を立てていくことが必要です。
私の好きな広告キャンペーン「#Love At First Taste」のケースを参考に、感情マーケティングを検討する際のポイントについて考えていきましょう。
これは日本でもカップスープなどでお馴染みのドイツの食品・飲料ブランド「クノール」が2017年に実施したものです。
少し長いですが、こちらの動画を見て下さい。
1.ターゲットを定める
どんな種類のマーケティングを実施するにしろ、ターゲットを定めることは重要です。ターゲットを定めずして、どのような種類のコンテンツがターゲットに刺さるのかを知ることはできません。
今回クノールが実施したキャンペーン広告のターゲットはミレニアル世代でした。
ママをターゲットに「料理の負担を軽くします」といったメッセージを持った広告が多かったクノールですが、今回の広告では「食」に対する情熱が強いミレニアル世代をターゲットにしました。
2.ターゲットのインサイトを深堀る
自分の食事をSNSに投稿するミレニアル世代にとって、食べ物は自分を表現する手段であり、ステータスシンボルです。
調査によると、彼らはYouTubeで食に関する動画を他の世代と比較して30%多く閲覧しているそうです。また、ミレニアル世代の76%が「料理が好き」、94%が「料理はアートだ」と回答したという結果も出ています。さらに、自分の性格やライフスタイルを説明する際に「食」を用いることがしばしばあり、初めて会った人と盛り上がる話のテーマに「好きな食べ物やお店」が挙がるそうです。
このように、ミレニアル世代にとって食べ物は「お腹を満たすもの」ではなく、「自分自身を表現するもの」「生活を豊かにするもの」という位置づけになっているのです。
3.ターゲットのインサイトにささるストーリーを考える
更にミレニアル世代について調査したところ、彼らの78%が「自分が好きなフレーバーを好む異性に魅了される」という結果が出てきました。
(実際、私自身もパートナーに望む条件の1つに「食の好みが合う」を挙げており、パートナーがどのような店、メニューをチョイスするかをデートの際にいつもチェックしていました。)
この調査結果を元にクノールは、自分自身を表現する「食」の好みが合うもの同士ならば愛が生まれやすいのではないか?という仮説を元に、「フレーバーでカップルをマッチングする」というストーリーを作りました。
こうして、「同じフレーバーを好む赤の他人である男女をペアにし、お互いにご飯を食べさせるというデートを行う」というキャンペーン動画が完成しのです。
4. 拡散しやすいコンテンツを制作し、生活者を巻き込む
感情マーケティングは、感情に訴えかけるCMやコンテンツを作って終わりではありません。むしろ重要なのはその後です。感情が高ぶったターゲットに、いかにしてアクションさせるか?その導線を構築することがポイントなのです。
クノールの場合、 先ずFacebookでシェアしやすいコンテンツフィルムを制作しました。
更に、自分のフレーバータイプを知ることができるキャンペーンサイトを制作しました。
これは、「夜ご飯に食べたいものは?」「最後の日に食べたいものは?」などの約10問の問いに答えると、自分のフレーバータイプが表示されるというサイトです。(診断結果をSNSでシェアできる)
実際にやってみて欲しいのですが、自分の結果が分かると、好きな人やパートナーが何タイプなのかを知りたくなってきます。
そしてパートナーが自分と一緒のタイプだったりしたら、興奮して「やっぱり運命だね!」なんて叫びたくなっちゃうのです。
このような感情マーケティングを実施することで、仲間意識や興奮の感情が生まれ、ブランドへの絆を構築していくのです。
5. 実際にブランドを体感できる場を構築する
ブランドへの絆が生まれたら、最後にブランドの世界観を心だけでなく身体全体で感じてもらう、これが感情マーケティングの最後のフェーズです。
クノールの場合、前述のキャンペーンサイトで、その人のフレーバータイプに合った商品やレシピを提示することで、実施に商品を口にしてもらうという流れを作っていましたが、これでは少し弱いな、と私は思っています。
キャンペーンサイトで自分のフレーバータイプが表示されたら、そのまま「同じフレーバータイプの人と交流できるパーティー」への抽選に申し込め、パーティーではクノールの商品を使用した料理が提供され、自分と同じフレーバータイプの人々と交流できる。
更に、最もフレーバータイプが似ていたカップルは、実際にキャンペーン動画で流れていた2人1組で料理を食べさせ合う体験ができる。
そんな場があれば、もっと感情を揺さぶられるのではないでしょうか。