僕が個人ゲーム開発者として永遠のスランプと付き合うために見つけた幾つかのテクニック

僕はゲームを一人でつくってきた。それはこれまでもそうだし、今後も比較的そうだろう。

そして、僕が最も難しいと感じる工程はアイデア出しだ。プログラムやデザインは成功したり気に入ったりするまでトライ・アンド・エラーを繰り返せばよい。しかし、アイデア出しはそうではない。

基本的に良いアイデアなど出ない。

パッと良い発想があっても、企画書を書いている段階で雲行きが怪しくなり、意地になって企画書を完成させても明らかに面白くないのだ。


数撃ちゃ当たる

数撃ちゃ当たる。そのとおりだ。

そもそもどんなゲームが受けるかは、つくってみないとわからない。ユーザーの考えることは、制作者にはわからないのだ。

だから、ゲームを当てるためには、「数」の2乗だけアイデアを思いつく必要があると思っている。そのうち「数」だけ良い感じの企画になり、そうすれば1つぐらいは当たるゲームができるだろうというわけだ。

これは表層思考の話だ。実際には無意識下で常に大量の企画、数の3乗個を出し、ボツにする必要がある。そうでもしないと良い企画は出ないし、そういった、いわば「ゲームクリエイター脳」をつくることが大切だ。

それを養うのは簡単で、常に企画を考えるのだ。Game A Weekなども、ゲームクリエイター脳の育成にうってつけだ。

そうしてみて初めて、よくインタビューでみるような「風呂に入っているときにフッと頭に浮かんできて」という状況になる。3Bの法則などはリラックス中にアイデアが出やすいことを表しているが、決して楽な訳では無いし、1日中ベッドの上にいればよいわけでもない。常にゲーム企画を考えていて初めて、アイデアはリラックス状態のクリエイターに降臨するのだ。

※注1:3Bの法則・三上の法則
3Bの法則とは、アイデアを思いつくのはバス、ベッド、風呂の3つのリラックスできる場所だというノウハウのこと。三上の法則はそれの中国版で、馬上、枕上(寝ているとき)、厠上(トイレ中)にアイデアを思いつきやすいというもの

インプットを欠かさない

インプットをせずに、アウトプットができると思ってはいけない。

普段から、ゲームに限らずあらゆる分野の情報に関してアンテナを張り、広く浅い知識を身に着けるべきだ。

お勧めは、美術館に行くこと、新聞を読むこと、小説を読むこと。ゲームと直接関係のない分野でも、人が作ったものをみること自体、重要なインプットとなる。

ネットサーフィンもよい。と言いつつ、僕はWikipediaでリンクを飛び回る遊びをするので、「ウィキペディア・サーフィン」というのが正しい。極力今いる項目と関係ないページに移動することを繰り返すと、自ずと色々な情報に触れることになる。

常に色々な情報を手に入れ、スキマ時間があれば辞書を読む。僕は三省堂の『文豪のことば探し辞典』をよく読む。非常に面白く、ここに載っている言葉からいくつかインスピレーションを得たこともある。

あとは、集英社のナツイチの冊子など、書店の出している優れた本を集めたものもたまに見る。出版社・書店は図書に関するプロフェッショナルだ。彼らが集めた良本は紹介を読むだけで楽しいし、良さげなものを読んでみるとこれまた面白い。

もちろんちゃんと本は読んだほうがいい。以下は面白い本。ゲームとは関係なく、今思いついた良い本を載せている。プロジェクト・ヘイル・メアリーとか皆読んでるやつ載せてたらきりがないから省く。

あと便宜的にAmazonのページを載せているが、もっと安いところもあるかもしれないのでちゃんと調べて買ってほしい。

※ 長編漫画。最初は楽しめる。後半は超難解。

※ 長編。普通に面白い。

※ 短編集。レイ・ブラッドベリは天才。漫画があるっぽいけど知らん。

※ 短編集。表題作はもちろんだが、僕は『ギャルナフカの迷宮』が好き。

アウトプットを欠かさない

前項ではインプットの話をしたが、インプットばかりではなく、アウトプットもしなければならない

因みに以下の本が参考になった。

この本の筆者が働いていたゲーム会社では入社一年目の新人に「アイデアノート」を書かせていたそうだ。ノート自体は普通の大学ノートだが、必ず1日1ページ、ゲームについてのアイデアを書かなければならない。それは、1本のゲーム企画でもキャラクターに関するアイデアのような小ネタでも構わないが、人に見せられるよう分かりやすく書き、それは毎日先輩がチェックするのだ。

ゲーム会社であるため、ゲームのアイデアを溜めている新人が多く、最初は楽しく出せたりするのだが、数週間もして、やがてアイデアが尽きてくると、毎日書くことに困るようになる。

1ヶ月も経たないうちに、ほとんどの新人は何もアイデアが浮かばなくなる。だが、毎日書かないと先輩に怒られるため、ネットニュースをみたり雑誌を読んだりして、何とか1日1つはアイデアを出すことになる。

アイデアノートを続けると、常にゲームのことを考えるようになり、一年経つと、何を見てもゲームに結びつけることが習慣化された「ゲーム作る脳」が完成しているという。

アイデアノートはとてもお勧めだが、1人でやるとどうしても「先輩」のような強制力がないのでサボりがちになることも大いに考えられる。そのため、個人開発者が具体的にアイデアノートを書くべきかは置いておいて、アイデア出しの1つの例として紹介した。

まぁ絶対に必要なのは、生活の中で得たゲームのインスピレーションをメモる習慣だろう。僕も出来るだけ言葉におこして残すようにしている。そうでもしないと、目覚めてすぐの夢の記憶のように、一瞬で消えてしまうのだ。

発想法に頼るのもアリ

ただ、アイデア出しには締切があることのほうが多い。少なくともゲーム制作の現場においては絶対にだ。

ゲーム作る脳」のもとで無意識化に良いアイデアが出るのは、無意識だからこそ「常識」に囚われず、斬新なアイデアが出やすいからだ。その点で、意識的にアイデアを出そうとすると、どうしても既存の「ゲーム」の枠組みの中で捉えてしまい、「常識」の範疇にとどまったアイデアしか出てこない

そこで、「常識」という障壁をどうにか取り外すために、発想法というものがいくつか考案されている。

ちなみに、この章も出典は以下の本だ。

オズボーンのチェックリスト

これは、アメリカの実業家アレックス・オズボーンが考案したもので、発想法の中で特に有名なものだ。以下のようなチェックリストに回答していくことで、強制的にアイデアを生み出す

出典元によれば、ゲームをテーマにして質問のリストを作ると以下のようになる。

転用:「新しい使い道はないか?他の使い道はないか?」
応用:「似たものがないか?なにかの真似はできないか?」
変更:「形式や意味を変えてみたらどうか?」
拡大:「より大きく、強く、高く、長く……してみたらどうか?」
縮小:「より小さく、軽く、弱く、短く……してみたらどうか?」
代用:「人、モノ、素材、ジャンルを変えてみたらどうか?」
再利用:「要素、形、機能、順番を変えてみたらどうか?」
逆転:「反転、上下、役割を変えてみたらどうか?」
結合:「他のものと結びつけてみたらどうか?」

技術評論社『ゲームプランナー入門』p.86より、一部省略

あらかじめ用意された質問に強制的に答えることで、「常識」から離れたアイデアを生み出す。

ランダムワード発想法

これは単純で、ランダムな単語を「ゲーム」や各ゲームジャンルとかけ合わせて、新しいアイデアを生み出す発想法だ。

犬 ✕ RPG
言葉 ✕ STG
旅 ✕ SLG
本 ✕ ACT

技術評論社『ゲームプランナー入門』p.87

キーワードの獲得は辞書を適当に開いて目に入ったページでも良いし、ネットニュースで見かけた単語でも良い。

元バンダイナムコ株式会社でおもちゃの企画をしていた高橋晋平氏は、この無作為な単語を「しりとり」によって獲得するという「しりとり発想法」を提唱しているそうだ。僕自身、実際しりとりから幾つかのゲームアイデアに繋がったことがある。お勧めの方法だ。

EMS(手段目的構造)フレームワーク

これは、元バンダイナムコでゲーム部門のプロデューサーをされていた中村隆之氏が提唱する発想法だ。「ランダムワード発想法」を具体的な文章にし、ゲーム企画としての精度を高めたものと言える。

「〇〇を■■して(手段)、☓☓を▲▲する(目的)ゲーム」

技術評論社『ゲームプランナー入門』p.88

この虫食いを埋めることで、そのままゲームの構造をもつアイデアを獲得できる

発想法の注意点:発想法は質より量

発想法はとても便利なもので、何のヒントもなくアイデアを出すよりは、よっぽどアイデアを出しやすくなる。ただし、これも万能なものではなく、アイデアの量産には有効だが、その精度は必ずしも高くない

以下、発想法で出したアイデアの精度を高めるコツを紹介する

  • とにかく数を出す

  • 複数人でアイデアを出し合う(ブレインストーミング)

  • 粘って粘ってまとめる

  • まとまらないときはまとまらない

とにかく数を出す

発想法で得たアイデアの99%は使い物にならないため、とにかく数を出さなければならない。

複数人でアイデアを出し合う(ブレインストーミング)

人のアイデアを聞くことは、自分の常識を壊すきっかけになる。人のアイデアを否定せず、自分のアイデアに上乗せし、どんどん飛躍させるのが肝だ。

ちなみに、これでアイデアをパクられたら嫌だなどと思うやつは素人だ。『SAVE THE CAT』の36ページに書いてあった。

叩かれたりパクられたりするのが嫌なのはみんな同じだから、何を言ってもいいという雰囲気づくりが重要だ。間違いなく得られるもののほうが多い。

粘って粘ってまとめる

発想法で得たアイデアは「ちょっとした思いつき」のレベルだ。これをゲームとして成立する状態に落とし込むのは大変だが、簡単に諦めずに努力してみてほしい。

まとまらないときはまとまらない

どんなに魅力的に見えるアイデアでも、まとまらないときはまとまらない。粘って粘って考えてもコンセプトができないときは、一旦アイデアノートにメモでもして、別のアイデア出しに移るべきだ。いつか「ゲーム作る脳」が、そのアイデアを何か別のアイデアと足し合わせて、完璧なアイデアにしてくれる時を待つのだ。

まとめ

今回はいつになく記事らしい記事になったと思っている。

出典は以下の本が多くを占める。

非常に参考になった、面白い本だ。アイデア出し・企画書・仕様書の段階で詰まっている人、この先ゲームプランナーとして就職してみたい人などは、まず読んでみてほしい。そうでなくても、ゲームに関わるのなら、早い時期に読んでおくべき本だ。

この記事に紹介したことがすべてではないが、参考にしていただければ幸いだ。

以上。

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