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「貪欲であれ、愚かであれ」彼は何を伝えたのか【スティーブ・ジョブズ】

Stay hungry, stay foolish

スティーブ・ジョブズ

2005年6月。スタンフォード大学の卒業式にて。
彼のスピーチは以下のような言葉から始まった。

I am honored to be with you today at your commencement from one of the finest universities in the world. I never graduated from college. Truth be told, this is the closest I've ever gotten to a college graduation. Today I want to tell you three stories from my life. That's it. No big deal. Just three stories.

日本経済新聞(2025年1月3日閲覧)

世界でもっとも優秀な大学の卒業式に同席できて光栄です。私は大学を卒業したことがありません。実のところ、きょうが人生でもっとも大学卒業に近づいた日です。本日は自分が生きてきた経験から、3つの話をさせてください。たいしたことではない。たった3つです。

日本経済新聞(2025年1月3日閲覧)

彼の言葉を抜粋して載せても良いのだが、長いスピーチを読んで力尽きないように、敢えてリンクを張るのみとしておく。

「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 米スタンフォード大卒業式(2005年6月)にて - 日本経済新聞

また、スタンフォード大学公式にスピーチの全文(英語)が掲載されている。

Steve Jobs to 2005 graduates: ‘Stay hungry, stay foolish’ | Stanford Report

生涯

スティーブ・ジョブズ、その56歳の生涯 | WIRED.jp

1955年2月24日、サンフランシスコに生まれる。
生後すぐに、カリフォルニア州マウンテンヴューに住むポール・ジョブズ、クラリス・ジョブズ夫婦の養子となる。

高校に通いながら、ヒューレット・パッカード(現HPの前身)での講義にもよく出ていた。ついには同社の夏季インターンシップで働くようになり、そこでスティーブ・ウォズニアックに出会う。

※ヒューレット・パッカード
2015年にHPとHPエンタープライズへ分社。
2022年時点でHPはパソコン業界の世界シェア4位の巨大企業。
→ パソコン業界の世界市場シェアの分析 | deallab(2025年1月3日閲覧)

1972年にオレゴン州ポートランドのリード大学に入学するが、半年で退学
のちに価値が見いだせなかったと語っている。

ジョブズとウォズニアックは、1976年にアップル・コンピュータを創設。
最初の製品「Apple I」は単純な回路の組み合わせで、購入者がケースやキーボードを追加しなければならなかった。
そして、翌年にはそれをもとに「Apple II」を誕生させた。Apple IIは、アップルで初めて成功した大衆向けコンピュータで、使いやすさにこだわった製品でもあった。

そしてアップルは1984年、広告の傑作とされるスーパーボウルのCMで、IBMを挑発するかたちで「Macintosh」を発表し、業界を震撼させた。マウスによるGUIのコンピュータが一般向けに初めて現れた。

※スーパーボウルのCM
1984年1月22日にアップルが初代Macintosh発売を前に放映した、ジョージ・オーウェルの小説『1984』を踏まえたCM。これは、当時台頭していたIBMのコンピューターを批判し、古いテクノロジーの支配を打ち破るのがMacintoshなのだと訴えるものだった。
このCMは成功し、Macintoshは1984年内に25万台が売れることになった。 → Appleの『1984』から40年、巨大テックの支配は今も続いている | ギズモード・ジャパン(2025年1月3日閲覧)

しかし、Mac登場の翌年、CEOだったジョン・スカリーとの権力争いの結果、ジョブズはアップルを離れることになった。ジョブズは2005年のスピーチで、「わたしは落伍者となり、シリコンバレーから逃げ出すことを考えもした」と認めている。
(日経の訳「公然たる大失敗だったので、このまま逃げ出してしまおうかとさえ思いました。」)

ただやはりこの仕事が好きなジョブズは、コンピュータ企業NeXTを設立する。また、コンピュータアニメーションのチームを買収し、ピクサー・アニメーション・スタジオを立ち上げた。

一方で、ジョブズの去ったあとのアップルは低迷。株価を68%も下げ、同社は倒産寸前に追い込まれる。

1996年、アップルが当時のNeXT Softwareを買収したことで、ジョブズは自分が設立したアップルに復帰した。

その後、1998年には「iMac」、2001年には「iTunes」と「iPod」、2007年には「iPhone」、2010年には「iPad」と、アップルはヒット製品を連発。

2003年に癌と診断されて以降、表舞台から撤退。
完治が可能である稀なタイプの膵臓癌だったため、一度はこの病気を乗り越えたが、健康状態の悪化は続いた。
2011年には癌が再発し、8月にはティム・クックを後任に選びCEOを辞職。

2011年10月5日、膵臓腫瘍の転移による呼吸停止により、妻や親族に看取られながらカルフォルニア州パロアルトの自宅で死去した。

Stay Hungry Stay Foolish

まさか、文字通り「腹を空かせろ。馬鹿でいろ。」という意味ではないだろう。それを理解するために、もう一度あのスピーチを読み直してみる。

冒頭に述べたように、スピーチのはじめ、スティーブは3つの話をするといった。

まずは、点と点をつなげる、ということです。
 <中略>
繰り返しですが、将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。

日本経済新聞(2025年1月3日閲覧)

2つ目の話は愛と敗北です。
 <中略>
アップルを追われなかったら、今の私は無かったでしょう。非常に苦い薬でしたが、私にはそういうつらい経験が必要だったのでしょう。最悪のできごとに見舞われても、信念を失わないこと。自分の仕事を愛してやまなかったからこそ、前進し続けられたのです。皆さんも大好きなことを見つけてください。 <中略> 好きなことがまだ見つからないなら、探し続けてください。決して立ち止まってはいけない。 <中略> だから、探し続けてください。絶対に、立ち尽くしてはいけません。

日本経済新聞(2025年1月3日閲覧)

3つ目の話は死についてです。
 <中略>
自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです。
 <中略>
あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。

日本経済新聞(2025年1月3日閲覧)

このスピーチは大学の卒業式で行われたものだ。「Stay Hungry, Stay Foolish」の意味は学生に向けたものだろう。スピーチ全体を読むと、それが少しずつ見えてくる。

現状に満足し、希望やプライド、失敗への恐怖、他者への遠慮によって、貪欲さを失い、もしくは過去の失敗を言い訳に、学ぶことをやめてはならない。
賢くあろうとして、もしくは普通であろうとして、常識に囚われ、他者の意見に流され、自分の時間を使ってまで、自分の心と直感に抗ってはならない。

功績

バラク・オバマは声明で以下のように述べている。

By building one of the planet’s most successful companies from his garage, he exemplified the spirit of American ingenuity. By making computers personal and putting the internet in our pockets, he made the information revolution not only accessible, but intuitive and fun. And by turning his talents to storytelling, he has brought joy to millions of children and grownups alike. Steve was fond of saying that he lived every day like it was his last. Because he did, he transformed our lives, redefined entire industries, and achieved one of the rarest feats in human history: he changed the way each of us sees the world.

obamawhitehouse.archives.gov(2025年1月3日閲覧)

自宅のガレージから地球上で最も成功した企業のひとつを築き上げたことで、彼はアメリカの創意工夫の精神を体現した。 コンピューターをパーソナルなものにし、インターネットをポケットに入れることで、彼は情報革命を身近なものにしただけでなく、直感的で楽しいものにした。 また、その才能をストーリーテリングに向けることで、何百万人もの子どもたちや大人たちに喜びをもたらした。スティーブは、「毎日を最後の日のように生きる」と口癖のように言っていた。 なぜなら、彼は私たちの生活を一変させ、産業全体を再定義し、人類史上稀に見る偉業を成し遂げたからだ。

DeepL翻訳による翻訳(2025年1月3日)

President Obama on the Passing of Steve Jobs: "He changed the way each of us sees the world." | whitehouse.gov

まとめ

学生に限らず、すべての人々に、この言葉をあてはめられると思う。

常識を壊す人がいれば、常識を保つ人もいる。そして、多くの場合保つ側が圧倒的多数派だ(だからこそ「常識」なのだ)。

また一方で、常識を壊した者は新たな常識を作り出す。上に引用したバラク・オバマ氏の声明にも「産業全体を再定義」とある。

常識の崩しあい、イノベーションの繰り返しによって世界は変化する。

僕は、常識を壊し作るか、もしくは保つかならば、壊し作る方を選びたいと思う。これは直感を大いに含んだ個人の感想だが。

皆さんはどうだろうか。



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