母の遺言。
父の遺言はわたしがしっかり聞いてあったから、7ヶ条にまとめ、四十九日法要の席で遺された母とわたしたち4姉妹にプリントして渡し、みんなを泣かせた。
お父さんったら、死んでからもかっこいい。
もう時効だから言うけど、少し脚色をした。父はわたしにとって世界一かっこいい人だったから、母や3人の姉たちにもそう思ってほしくて、ちょっぴり脚色をした。のちの母娘旅行で酔っ払ったわたしが告白したら、みんなにバレてたけど(笑)。でも、父の遺言には嘘がなく美しいものだった。
心から大好きな末娘にすべての財産を譲る。
ってことにしようか、お父さん。って言ったら爆笑された。父は「4人とも同じだ。自慢の娘だ」そう言ってたけど。わたしと父は誰もが認める相思相愛の仲だった。や、財産の話しはジョークですけどね(笑)。
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で、母の遺言ってなんだっけ?
もうすぐ命日がやってくるからかな、最近ひんぱんに母のことを思っている。
最後に交わした会話は亡くなる前日のこと。主治医から「今日明日です」と言われた母の意識ははっきりしており、駆けつけたベッドサイドで声をかけたら、
「あら、あやちゃん、どうしたの?」って。
「明後日からパリに行くから顔を見に来たの」
「あら、またパリに行くの。いいわねぇ」
「うん、お土産買ってくるから待っててね」
「フランス語しゃべれるようになったの?」
「やだ、お母さん。血尿出るほど勉強したけど、ものにならなかったの知ってるじゃない。今回はね、通訳をお願いしたのよ」
「いいお友だちがいてよかったわね」
「違うの、通訳の人を雇ったのよ」
「あら、だったら自分で話せるようにもっと勉強しなきゃ」
「やーん、もういいよ。できる人にお願いした方がいいの。お母さんも女将さんとして、たくさんの従業員さんと一緒に働いたでしょ。できないことをできる人に助けてもらうの、お金を出して」
「あぁ、そういうこともあったわねぇ」
「うん」
「そういえば、あやちゃん。ユウスケたち(東京に住む母の初孫、長姉の息子、わたしの甥)もあとから来るみたいなんだけど、みんなが集まるほど、わたしそんなに悪いのかしら?」
小声でそう聞く母に、わたしは少し答えに困った。
「パリのお土産はエルメスのスカーフがいい?」
沈黙が怖くて大声で聞いた。
「あやちゃんは、いつも声が大きくてうるさいんだから、、、。少し眠るからあっちに行ってて」
が、母との最後の会話になった。
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つまり、母の遺言を要約するとこんな感じかな。
やりたいことをするために、自分のできることを増やしなさい。
姉たちの中にはどんな言葉が残ってるのか聞いてみよう。9月後半にやって来る母の命日に、今年こそは帰省したいがなもし。
な。