電気刺激療法の生理学的メカニズムを改めて勉強しようと思った結果
どうも、サギョウ先生です!
今回は、タイトルにあるように、改めて電気刺激療法の効果を生理学的なメカニズムの視点から勉強しようと思いました!
物理療法を実施する上で、避けては通れない生理学的なメカニズムを論文レビューを通してわかりやすく解説していきますので、ぜひ最後まで見ていってください!
てことで、今回は「Electrical Stimulation of Muscle: Electrophysiology and Rehabilitation.」で得られた情報とこれまでの僕の知識を織り交ぜながらサギョウ先生解釈で書いていこうと思います‼️
ちなみにFREE記事なので以下⬇️から読むことができますよ😆
本題に入る前に、僕の思いを聞いてください🙇♂️
僕は作業療法が大好きでして、特に対象者の「ひととなり(ナラティブ)」を意識して、心から身体を変えていくという点が好きです!
一方で、臨床や学校教育の中で、ナラティブに目が行きすぎてしまい、メカニズムやエビデンスに弱い部分も感じていました、、、
そこで、作業療法士がナラティブだけでなく、科学的なメカニズムやエビデンスを身につけるための一助となるように情報発信を始めました!
「自分の介入に自信がない」「他職種の話についていけない」「患者さんに説明できない」と感じてる作業療法士はぜひ僕と一緒に勉強しませんか🦍🔥
では、さっそく本題にいきましょ〜う!
概要
昨今、脳卒中後の運動機能回復において注目を集め、脳卒中治療ガイドライン2021でも推奨されている「電気刺激療法」。
でも、この生理学的なメカニズムは曖昧という人も多いのではないでしょうか?
この記事では、特に神経筋電気刺激(NMES)と経皮的電気神経刺激(TENS)を中心に、その生理学的メカニズムから臨床応用までを詳しく解説しています!
(特にNMESがメインの論文となっていますので、この記事はNMESをメインに解説します)
電気刺激療法は、筋力増強、痛みの軽減、感覚機能の改善など、様々な効果が期待できます。
例えば、脳卒中後の上肢機能練習で、麻痺側の筋肉にNMESを使いながら、グー・パー運動を練習すると、一般的な練習をするよりも筋肉が動きやすくなることがありますよね。
これは、電気刺激が筋肉の収縮を助け、運動学習を促進するからです。
また、TENSは、痛みを感じている部位の神経を刺激して、痛みを和らげる効果があります。
これらの知識を深めることで、患者さん一人ひとりの状態に合わせた、より効果的な治療を提供できるようになります!
この記事を読んで、明日からの臨床に役立てていきましょう!
↓概要に関しては、Instagramでも解説しています↓
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
日々、患者さんの機能回復をサポートする中で、「電気刺激療法って、結局何がどう効いているんだろう?」「もっと効果的な使い方があるんじゃないか?」と感じることはありませんか?
お恥ずかしながら、僕自身も臨床で電気刺激療法を使う中で、その効果を実感する一方で、そのメカニズムや最適な刺激条件については、まだ理解が不十分だと感じていました。
この神論文(ちなみにこのレビュー論文は、なんと163本の論文をベースとしています)は、そんな電気刺激療法の基礎的なメカニズムから、臨床応用までを網羅的に解説しており、日々の臨床における疑問を解消するヒントが詰まっていると感じました!
また、最新の研究知見も盛り込まれているため、より根拠に基づいた治療を提供できるようになると思い、今回この論文をベースに深く読み解いてみることにしました。
ぜひ一緒に内容を確認していきましょう。
この論文の目的
この論文の主な目的は、電気刺激療法が運動機能や感覚機能に与える影響を、生理学的メカニズムに基づいて明らかにすることです。
具体的には、以下の点に焦点を当てています↓
電気刺激が筋肉や神経にどのように作用し、筋収縮や感覚変化を引き起こすのか?
NMESとTENSは、それぞれどのようなメカニズムで効果を発揮するのか?
刺激パラメータ(電極の位置、電流の強さ、周波数、パルス幅など)は、効果にどのように影響するのか?
電気刺激療法は、どのような臨床症状に対して有効なのか?
これらの点を理解することで、作業療法士をはじめとしたセラピストの皆さんが、電気刺激療法をより効果的に活用し、患者さんの機能回復を最大限にサポートできるようになることが期待されますね!
電気刺激療法の生理学的メカニズム
ここからは電気刺激療法の生理学的メカニズムについて解説していきますね!
運動単位と電気刺激の基本原理
電気刺激療法を理解する上で重要な概念である運動単位について説明します。
運動単位とは、単一の運動ニューロンとその支配下にある筋線維の集まりのことであり、神経系からの電気的活性化信号が筋肉の収縮活動に変換される最終的な共通経路です。
1843年から人間の神経と筋肉に電流が存在することがわかっており、1900年代初頭には筋肉の電気的活動と神経の活動電流が記録されました。
その後、神経系が筋肉の力を制御するために使用する活性化信号が、「活動電位」と呼ばれる単位的な電気的イベントであることが明らかになりました。
電気刺激は、この活動電位を人工的に筋肉や神経で発生させることで筋肉の収縮を誘発します。
つまり、
電気刺激による筋収縮の主なメカニズムは、筋肉内の軸索(神経線維)で活動電位を誘発することです!
電気刺激は、皮膚に装着した電極(表面電極)や筋肉内に挿入した電極(筋内電極)を介して行われます。
筋肉内神経の分岐
大前提として、電気刺激での筋収縮は神経筋接合部に向けて行われているので、各筋肉の神経の分布を理解することはかなり重要です!
上図は、下腿の3つの筋肉(前脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋)における筋肉内神経の分岐パターンを示しています。
この図からわかるように、筋肉内の神経は広範囲に分布しており、大きな筋肉では複数のモーターポイントが存在します。
したがって、筋肉全体を活性化するためには、複数の電極(大きな電極パット)が必要になる場合があります!
電気刺激の空間的分布
電気刺激によって活性化される筋肉の範囲は、電極の位置、電流強度、刺激パラメータに大きく依存します!
皮膚に装着した電極の場合、電流密度は筋肉内で距離とともに減衰し、深部筋線維よりも表層筋線維を優先的に活性化する傾向があります。
MesinとMerlettiの解析モデルでは、皮膚から10mm離れた位置では電流密度が皮膚表面の10%にまで低下することが示されています。
また、Petrofskyらの研究では、皮膚から2.5cm(筋肉内0.5cm)の深さの筋肉で検出された電流は、皮膚電極に適用された電流のわずか1%程度だったそうです。
ただし、表面刺激でも筋肉の深部領域を活性化できるという報告もあります。
電極に関しては「刺激パラメータの効果」で解説しますね!
随意収縮と電気刺激収縮における運動単位の動員順序
随意収縮と電気刺激によって誘発された収縮中の運動単位の動員順序の違いについてです。
随意収縮では、より低い閾値の運動単位から順に動員されており、サイズの原理に基づいた動員順序が見られます。
↓サイズの原理↓
一方、電気刺激の場合、その動員順序は、電流の強度や刺激パラメータによって異なり、随意収縮時とは異なる動員順序になる場合があります!
Feiereisenらの研究では、電気刺激によって誘発された収縮時に、28~35%の運動単位ペアで動員順序が逆転することが示されました!
つまり、、、
電気刺激による筋収縮は、随意的な筋収縮の様式とは異なるため、その点を考慮した上で刺激方法を検討することが重要となります!
電気刺激による筋収縮の特性
電気刺激によって誘発される筋収縮は、随意収縮とは異なる特性を持っています。
例えば、電気刺激では、より強い電流でより多くの運動軸索が活性化されますが、随意収縮に見られるような低周波の力の変動の振幅は変化しません。
これは、随意収縮が、運動ニューロンへの共通のシナプス入力の分散の増加に起因するのに対し、電気刺激は、活動電位の筋肉への到達時間の変動が少ないためと考えられています!
随意収縮と電気刺激収縮における力の変動
随意運動と電気刺激(今回はNMES)では、筋収の差異があります!
それぞれの確認をしていきましょう↓
随意的収縮
目標とする力レベルが上がると、変動も大きくなる傾向がありました。
この要因は、より大きな力を発揮しようと、運動ニューロンへの共通するシナプス入力の変動が増加し、筋線維への活動電位の到達時間のばらつきが大きくなるためとされています。
つまり、神経系の制御が重要な役割を果たしているため、力の変動が大きくなるということです。
電気刺激による筋収縮
目標とする力が変化しても、力の変動の幅はほとんど変化しませんでした。
この要因は、電気刺激が運動ニューロンを直接的に活性化するため、シナプス入力の変動が少なく、筋線維への活動電位の到達時間のばらつきが少ないためとされています。
つまり、電気刺激では、神経系の関与が少ないため、力の変動が比較的安定するということです。
このことから、、、
電気刺激が、筋肉の再教育や筋力増強に役立つ可能性を示唆しています。
特に、随意的な運動が困難な場合や、筋肉の制御を改善したい場合に、電気刺激が有効な手段となる可能性がありますね!
電気刺激による中枢神経系の反応
電気刺激は、感覚軸索を活性化し、中枢神経系にフィードバックを提供します。
このフィードバックは、脊髄レベルだけでなく、大脳皮質レベルでも変化を引き起こす可能性があるそうです。
電気刺激の強度が低い場合、感覚軸索(特にIa群線維)が活性化され、運動ニューロンに興奮性後シナプス電位を誘発し、脊髄反射経路を介してH反射を引き起こします。
電流強度が増加すると、運動軸索が活性化され、直接的な運動反応(M波)が生成され、H反射を抑制します。
電気刺激によって誘発される感覚フィードバックは、脊髄内ネットワークと上行性経路に分散されます。
これらの経路の変調は、随意運動と電気刺激による運動では異なり、電気刺激による疲労性の収縮は、筋肉由来の求心性線維が関与する短潜時および中潜時反応の変化を引き起こしませんが、皮膚受容器からのフィードバックにより長潜時反応を増強させます。
もう少し詳しく説明すると、、、
随意運動では、筋肉の収縮に伴い、筋肉内の感覚受容器(筋紡錘など)からのフィードバックが活発になります。これにより、短潜時反応(脊髄レベルでの反射)と中潜時反応(より高次の脳領域が関与する反射)が生じます。
ちなみに、これらの反射は、運動の微調整や安定化に寄与します。
電気刺激による運動では、筋肉の感覚受容器からのフィードバックは随意運動ほど強くないことが多いです。そのため、疲労性の収縮が起こっても、短潜時・中潜時反応は随意運動の場合のように大きく変化しません。
( 疲労を伴う随意運動では、筋肉からの感覚情報が減少し、短潜時および中潜時反応が抑制されることがあります)
一方で、電気刺激は皮膚の感覚受容器も刺激します。特に、高頻度の電気刺激は、皮膚からのフィードバックを増強させ、長潜時反応(さらに高次の脳領域が関与する反射)を増大させます。
(電流強度が増加すると、運動軸索が活性化され、直接的な運動反応(M波)が生成され、H反射を抑制します)
これは、皮膚からの感覚情報が、電気刺激による運動に影響を与えることを示していますよ。
さらに、電気刺激は、シナプス入力を介して、補助筋や対側の同名筋を支配する運動ニューロンの活動を変調させることもできます。
例えば、一方の腕の筋肉に電気刺激を行うと、対側の腕の筋肉の運動単位の活動を変化させることが報告されています。
NMES後の大脳皮質の反応性の変化
上図は、NMESを100Hz、1000μsにて総腓骨神経(前脛骨筋)、正中神経(短母指外転筋)に40分適用した時のMEP振幅の変化をみたデータです。
結果は、前脛骨筋は45±6%、短母指外転筋は56±8%もMEP振幅(%Mmax)が増大しました。
このことから、NMESが刺激された筋肉を支配する皮質領域の興奮性や皮質脊髄路の興奮性を高めることが示唆されました!
また、MEP振幅(mV)の変化としては、隣接する脚の筋(ヒラメ筋)と離れた脚の筋(内側広筋)の療法でMEP振幅が42±4%増加しました。
一方、手の筋肉ではMEP振幅の変化は見られず、NMESが脚の筋肉に関連する皮質領域に広範囲な影響を及ぼすのに対し、腕の筋肉(隣接する筋:第一背側骨間筋、離れた筋:尺側手根伸筋)に対してはより局所的な影響しか及ぼさないことは示唆されました!
つまり、上肢に関しては、リハビリ効果を狙いたい筋肉に対してターゲットを絞った電気刺激をしっかりと行う必要がありそうですね!
全膝関節置換術後のNMESによる筋機能の回復
TKA後の患者を対象に、標準的なリハビリを行なった群と大腿四頭筋へのNMESを併用した群の筋の機能回復を比較した研究の結果です。
NMESは50Hz、250μsm、最大許容強度、2回/日、6週間で実施したそうです!
NMESが初期の筋力低下を抑制し、長期的な筋力回復を促進する可能性が示唆されました。
また、興味深いことに、ハムストリングス(貼付していない筋)も同様の効果が得られ、NMESが局所的な筋だけでなく、関連する筋にも影響を与える可能性があることが示唆されました。
さらに、NMES群では歩行持久力も有意に向上し、NMESは筋力だけでなく、機能的な能力も改善する効果があることが示唆されました!
ただ、この結果は下肢のものであり、上肢でも同様の効果が得られるかは疑問が残ります。。。
ここまで、生理学的なメカニズムはいかがでしたでしょうか?
初めて知ったことや復習できたことがあったのではないでしょうか?
では、次の見出しでは、より実践的な電気刺激のメカニズムについて解説していきます!
NMESとTENSの違い
NMES(神経筋電気刺激)とTENS(経皮的電気神経刺激)は、どちらも電気刺激療法ですが、その目的と作用機序には明確な違いがありますので、それぞれ確認していきましょう!
NMESとは?
NMESは、皮膚に装着した電極を通して筋肉に電気刺激を与え、筋肉の収縮を引き起こすことで、リハビリテーション効果をもたらす電気刺激療法です。
主な目的は、筋肉の収縮を誘発し、筋力増強、筋肉量の維持、運動機能の改善が挙げられます。
刺激強度は、運動閾値以上の電流を使用し、目に見える筋肉の収縮を誘発することが主となります!
NMESは、筋肉の強化だけでなく、感覚情報を脳に伝え、中枢神経系の可塑性を促進する効果も期待されています。
近年では、脳波(EEG)や筋活動(筋電図:EMG)をトリガーとして、電気刺激を制御するクローズループシステムも開発されています。
NMESのメカニズム
NMESには大きく「脊髄レベルの効果」「大脳皮質レベルの効果」「感覚フィードバックによる効果」があるので、それぞれ見ていきましょう!
脊髄レベルの効果としては、以下の4つが挙げられます。
1.運動ニューロンの興奮
運動ニューロンを直接的に興奮させ、筋収縮を引き起こします。
また、神経筋接合部の機能を改善し、神経から筋肉への情報伝達を円滑にする可能性があります!
2.Ia筋線維求心性経路の活性化
筋紡錘からの感覚情報を伝えるIa群線維求心性経路を活性化し、脊髄を介して脳の感覚運動野に信号を伝達します。
この感覚入力は、運動野の興奮性を高め、シナプス可塑性を誘導することで、運動機能の回復を促進すると考えられています!
3.H反射の誘発
NMESの強度を調整することで、H反射を誘発し、脊髄の反射活動を変化させることが可能です。
ちなみに、H反射(Hoffmann反射)とは、末梢神経に電気刺激を与えることによって人工的に誘発される単シナプス反射のことで、主に感覚神経(特にIa群求心性線維)神経伝達経路の機能を評価するための重要な指標として用いられています。
4.筋線維の特性変化
筋線維のタイプを変化させ、筋線維の構造やタンパク質の発現にも影響を与える可能性が示唆されました。
具体的には、筋タンパク質合成系に関与するインスリン様成長因子(IGF-1)を増加させるようです。
さらに、筋タンパク質分解系に関与するユビキチン-プロテアソーム系の活動を抑制するとのことです。
また、筋再生系に関与する筋内のサテライト細胞の増殖を促し、筋線維の増殖を刺激します。
これに加えて、電気刺激による運動単位の動員順序も考慮しておきましょう!
(詳細は「随意収縮と電気刺激収縮における運動単位の動員順序」)
大脳皮質レベルでの効果としては、主に3つ挙げられます!
1.皮質脊髄路の興奮
TMSを用いた研究で、MEP振幅が増加することが確認されており、皮質脊髄路の興奮性を増大させることが示唆されました。
これに関しては、すでに述べていますので、「NMES後の大脳皮質の反応性の変化」を確認してくださいね!
2.運動皮質の可塑的変化
運動皮質の可塑性を変化させ、運動学習を促進する可能性が示唆されています。
「随意収縮と電気刺激収縮における力の変動」でも述べたように、電気刺激は運動ニューロンを直接的に活性化し、シナプス入力の変動が少ないため、筋線維への活動電位の到達時間のばらつきが少ないというのも要因かもしれませんね!
3.皮質抑制の低下
皮質内抑制を低下させ、皮質興奮を促進する可能性が示唆されました。
NMESは、筋収縮によって感覚受容器を刺激し、中枢神経系に感覚フィードバックを送ります。
その結果、大脳皮質からの下行性入力を増大させ、筋出力を増加させます。
つまり、感覚フィードバックは、運動制御を改善する可能性が示唆されています!
感覚閾値での電気刺激をPNS(とくにSES)といい、運動学習への効果が期待されていますよ⬇️
NMESの臨床での利用
刺激強度
筋肉の収縮を直接的に誘発することを目的とするため、運動閾値以上の電流を使用することが多いです。
パルス幅
α運動ニューロンを刺激する必要があるため、比較的長いパルス幅(例:250μs~1 ms)が用いられることが多いです 。
周波数
低周波から高周波まで様々な周波数が用いられますが、筋力増強を目的とする場合は、20~100Hz程度の周波数が用いられます 。
最近では、35Hzよりも50Hzの方が筋力強化には効果的と報告されています!
電極配置
ターゲットとなる筋肉のモーターポイントや筋腹に電極を配置し、特定の筋肉群を刺激します。
特に上肢は局所的な効果になりやすいので、しっかりと狙っている筋肉に貼付できる必要がありますね!
NMESのプロトコル例
ここではいくつかの例を見ていきましょう!
大腿四頭筋の筋力回復(膝関節全置換術後)
頻度: 1日2回
期間: 6週間
電極: 大パッド電極を大腿四頭筋上に装着
刺激パラメータ: 50 Hz、250μs、二相性対称パルス
強度: 最大耐容強度
反復回数: 15回の誘発収縮
収縮時間: 15秒ON、45秒OFF
運動: 椅子に座ってリラックスした状態
高齢者における運動機能改善
頻度: 週に数回(具体的な回数は研究によって異なる)
期間: 6週間
刺激パラメータ: 100 Hz、1 ms、または 50 Hz、260μs (研究により異なる)
強度: 運動耐容強度
運動: 歩行、バランス運動など
慢性腰痛の改善
頻度: 週1回
期間: 12週間
刺激部位: 8~10の筋肉群に同時刺激
刺激パラメータ: 80 Hz、350μs
強度: Borgスケールで「ハード」と評価される強度
収縮時間: 6秒ON、4秒OFF
運動: 最小限の随意活動を伴う6つの動作
TENSとは?
筋肉の収縮を最小限に抑えつつ、主に感覚神経を刺激する電気刺激法です。
皮膚上に電極を貼付し、皮膚下の末梢神経を電気刺激することで鎮痛を図ることが主な目的です!
鎮痛に関しては、ゲートコントロール理論や内因性オピオイドシステム、下行性疼痛抑制系の主に3つのメカニズムからなるとされています。
TENSの鎮痛効果の神経生理学的メカニズムはこちら↓
副作用はほとんどなく、運動療法に組み合わせて実施することが望ましいと言われています。
また、近年は鎮痛のみでなく、脳の可塑性を促進し、運動機能や感覚機能の改善にも貢献することも示唆されています。
TENSのメカニズム
NMESと同様には大きく「脊髄レベルの効果」「大脳皮質レベルの効果」「感覚フィードバックによる効果」に分けてそれぞれ見ていきましょう!
脊髄レベルでの効果としては、主に3つ挙げられます!
1.痛みの抑制
痛みを伝える細い神経線維(Aδ・C線維)よりも直径の太い神経線維(Aβ線維など)をTENSで刺激することによって、脊髄後角において、痛みの情報を伝える神経細胞の活動を抑制するゲートコントロール理論に基づいた鎮痛効果をもたらします。
2.内因性オピオイドの放出
内因性オピオイドの放出を促し、痛みを抑制する効果があります。
TENSを実施することで、内因性オピオイドが放出され、中脳水道周辺灰白質(PAG)や吻側延髄腹内側部(RVM)などの中枢神経系のオピオイド受容体と結合することで鎮痛が生じます。
刺激する周波数によって活動するオピオイド受容体が異なります。
1〜4Hz前後の低周波TENS時には、μオピオイド受容体が活動し、βエンドルフィンやエンケファリンの脳脊髄液内の濃度が上昇します。
一方、40〜200Hzの高周波TENS時には、δオピオイド受容体が活動し、ダイノルフィンの脳脊髄液内の濃度が上昇します。
200Hz以上の高周波TENSでは、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が鎮痛に関わっているようです。
低周波、高周波を同時に実施した方が、脳脊髄液内のオピオイド物質濃度が増大するとの報告もあるので、迷った時にはどちらの周波数も同時に実施するのがおすすめですね!
3.中枢性抑制経路の活性化
中枢性の痛みの抑制経路を活性化することで、鎮痛効果を発揮します。
低周波TENSでは、下行性疼痛抑制経路によるセロトニン放出増大、PAGやRVM経路によって鎮痛されます。
この場合には、オピオイドやGABA、セロトニン、ムスカリン受容体を活性化させるようです!
高周波TENSでは、オピオイド受容体、ムスカリン受容体、GABA受容体などを含めた内因性抑制メカニズムを活性化して鎮痛すると考えられています。
fMRIでTENS実施時の脳活動を解析すると、痛みに特異的な脳領域の活動が有意に減少していることが分かりました。
大脳皮質レベルでの効果としては、主に3つ挙げられます!
1.皮質内抑制の低下
皮質内抑制を低下させることが報告されており、これはGABA作動性神経伝達の関与が示唆されています。
2.感覚運動皮質の活動変化
感覚運動皮質の活動や結合性を変化させ、運動機能や感覚機能を改善する可能性が示唆されています。
3.皮質の可塑的変化
大脳皮質の可塑性を変化させ、運動学習や感覚学習を促進する可能性があります。
感覚フィードバックに関しては、NMESと同様の効果が期待されています。
少し脱線しますが、 TENSは反対側肢にも効果が生じるとされており、創傷処置などで疼痛部位周辺に電極を貼付できない場合には、反対側肢へのTENSも検討するの良いかと思います!
このあたりの内容もこちらの記事で詳しく解説しています⬇️
TENSの臨床での利用
刺激強度
運動閾値以下の電流を使用し、筋肉の収縮を最小限に抑え、主に感覚神経を刺激することを目的とします 。
パルス幅
比較的短いパルス幅(例:50μs~1 ms)が用いられます 。
周波数
低周波(1~10Hz)から高周波(50~150Hz)まで幅広い周波数が用いられますが、痛みの緩和を目的とする場合は、高周波が用いられることが多いです 。
さらに言うと、低周波と高周波を同時流すとより効果的です。
電極配置
疼痛部位や末梢神経の走行に沿って電極を配置し、感覚神経を刺激します 。
または、ゲートコントロール理論を反映させるために疼痛部位の周囲や疼痛部位と同一の皮膚分節領域、神経支配領域に電極を貼付します。
TENSのプロトコル例
多発性硬化症患者の運動機能改善
頻度: 各テスト実施中に連続的に適用
刺激部位: 足関節背屈筋および大腿前面の筋
刺激パラメータ: 50 Hz、200μs
強度: 運動閾値のわずか上
脳卒中患者の上肢機能改善
頻度: 週5日、1日40分
期間: 4週間
刺激部位: 肩、肘、手首の関節周辺
刺激パラメータ: 20 Hz、250μs
強度: 運動閾値のわずか上
運動: 肩、肘、手首の標準化された運動(100~150回)
脳卒中患者の手指機能改善
頻度: 1日に1回のセッション
期間: 数日間~数週間
刺激部位: 麻痺側上肢の末梢神経(正中神経、橈骨神経、尺骨神経)
刺激パラメータ: 10 Hzのバースト刺激(5パルス、各1 ms)
強度: 運動閾値以下または以上
時間: 2時間
脳卒中患者の感覚運動機能改善
頻度: 1日に1回のセッション
期間: 10セッション
刺激部位: 麻痺側の手指
刺激パラメータ: 20 Hz、200μsのバースト刺激(1.4秒ON, 5秒OFF)
強度: 感覚閾値より上
時間: 45分
刺激パラメータの脳・神経系への影響
ここまでのメカニズムと合わせて、刺激パラメータがどの様に筋活動や神経系に影響するか見ていきましょう!
この項目は上図を参考に読み進めてくださいね!
(記事または動画で各パラメータについては今後解説します)
また、S-D曲線もみながら読むことでより理解がしやすいかと思います!
パルス幅(μs〜ms)
パルス幅は、電気刺激の持続時間を指します。
パルス幅が増大すれば、少ない強度で運動神経を脱分極させることが可能となります。
しかし、同時に感覚線維も刺激することになり、筋収縮量を増大させるが痛みも引き起こしやすくなります。
また、パルス幅の増大は抵抗を増大させることになり、痛みや熱傷、皮膚症状のリスクが高まります。
短いパルス幅(例:50μs、250μs)は、主に感覚神経を刺激し、痛みを軽減する効果があると考えられています 。
長いパルス幅(例:1 ms)は、運動神経を刺激し、筋収縮を引き起こすのに有効です。
筋力増強効果に関しては、複数の研究で、パルス幅が筋力増加に与える影響は大きくないことが示されています 。しかし、感覚フィードバックを介した筋力増強を目的とする場合、パルス幅は重要な要素となり得ます 。
運動単位の動員において、パルス幅は運動単位の選択性に影響を与える可能性があり、短いパルス幅ではより選択的な動員が期待できます。
末梢神経損傷のある萎縮筋や廃用性筋萎縮を含む中枢性の運動麻痺筋ではパルス幅が小さいと筋収縮が得られない場合があるので、その際は、パルス幅を増大する必要があります。(S-D曲線参照)
電流強度 (mA)
電流強度は、電気刺激の強さを指し、mA単位で測定されます。
神経線維にある程度の電流強度で通し、閾値を超えると感覚神経の場合は感覚入力が惹起され、運動神経の場合は筋収縮が起こります。
神経幹のように多数の閾値の違う神経線維を含んでいると、電流強度を上げることによって興奮する神経線維の数が増加し、感覚入力や筋収縮力も強くなります!
TENSとNMESには、それぞれ感覚レベルで実施するものと運動レベルで実施するものがあります。
低い電流強度は、主に感覚神経を刺激し、痛みを軽減する効果があります。
運動閾値以下(感覚閾値)の電流強度では、感覚神経を活性化し、中枢神経系を介した間接的な筋活動の増強が見られることがあります !
高い電流強度は、運動神経を刺激し、より多くの運動単位を動員し、筋収縮を強くします。
電流強度を増加させると、より多くの筋肉の体積が活性化され、より大きな筋力を発揮することが可能になります!
周波数(Hz)
周波数は、1秒間に送られる電気刺激のパルスの数を指し、Hz単位で測定されます。
神経が活動電位を起こすかどうかは、パルス幅や刺激強度に依存し、周波数は直接関与しません。
しかし、周波数が増えることにより活動電位の頻度が増加し、頻度の増加によって荷重が生じることで強縮が起きます。(下図)
低い周波数(例:20-30 Hz)は、筋疲労を軽減する効果があるとされています 。
高い周波数(例:50-100 Hz)は、筋収縮をより効果的に引き起こし、筋力増強に有効であるとされています 。
感覚フィードバックの増強においては、100 Hzの周波数が最も効果的であり、25 Hzや200 Hzと比較して大きな筋力増強効果をもたらすことが示されています。
中枢神経系の興奮性に影響を与える場合も、周波数が重要な要素であり、特定の周波数(例:100 Hz)での刺激は、皮質脊髄路の興奮性を高めることが示されています。
また、筋の疲労と関係があり、高頻度刺激はより速く疲労を引き起こす可能性があります。一方で、低頻度刺激は疲労を引き起こしにくいとされています。
TENSの項目でも触れましたが、周波数によって活動するオピオイド受容体が異なるので、鎮痛を目的とする場合には調整が必要になります!
電極の位置(サイズ・貼付位置)
電極の位置は、電気刺激の効果に大きく影響します!
貼付の方法には単電極法と双電極法があり、単電極法はモーターポイントや神経上に関電極を貼付し、筋の走行上に不関電極を貼付します。
双電極法は、2つの電極でモーターポイントを挟んで刺激する方法です。
単電極法は局所的に強い刺激を送ることができ、双電極法は筋全体を刺激したい時に用いられることが多いです!
モーターポイント に近い位置に電極を配置すると、より効率的に筋肉の運動神経を刺激し、強い筋収縮を引き起こすことができます。
ちなみに、神経刺激の場合、解剖学的に運動神経が表層を通る部位に小さい電極を貼付し、目的とする筋のモーターポイント周辺に大きい電極を貼付すると筋収縮が得やすいです!(これは単電極法ですね)
電極間の距離が長いほど電流がより深部を流れるとされているため、治療目的を考えて貼付しましょう。(例えば、深層筋を狙う場合には電極間の距離は長くする)
ただし、上肢の場合は大きな電極や電極間の距離を開けすぎると目的筋以外の筋または神経を刺激する可能性があるので、刺激中に反応を十分に観察してくださいね!
電極のサイズに関しては、電流密度が関係しています。電流密度は電極の面積に依存するので、痛みが強い場合などには電極を大きくするのも効果的です。
皮膚表面に電極を配置するTENSは、深部筋肉の刺激が難しい一方で、神経幹に電極を配置すると、より広範囲な神経活動を誘発できます。
神経幹に電極を配置すると、感覚神経の活性化がより強くなり、H波のような反射反応を誘発しやすくなります 。
皮膚上の電極配置は、電流の分布に影響を与え、表面に近い筋肉線維が優先的に活性化される傾向があります 。
複数の電極を使用することで、広範囲の筋肉を活性化することが可能になります 。
電極の配置は、感覚フィードバックにも影響を与え、適切な位置に配置することで、より効果的なリハビリテーションが可能になります。
刺激のタイプ
持続的な電気刺激と断続的な電気刺激があり、断続的な刺激の方が疲労を起こしにくいとされています。
刺激のタイミングも重要であり、運動課題と同期させることで、より効果的な運動学習が可能になります 。
(最近は、筋活動や脳波などをトリガーとして電気が流れるものも存在しますね)
単一パルスと複数パルスによる刺激があり、複数パルスによる刺激は、より強い筋収縮を引き起こすことができます。
この論文の限界
この論文では、電気刺激療法のメカニズムや臨床応用について、詳細に解説していますが、いくつかの限界点も指摘されています。
研究の限界を知ることは結果を知ること同じくらい大切なことなので、一緒に確認していきましょう。
対象疾患の偏り
この論文で紹介されている研究の多くは、脳卒中や多発性硬化症などの特定の疾患を対象としています。
そのため、他の疾患に対する電気刺激療法の効果については、まだ十分なエビデンスが不足しています。
刺激パラメータの多様性
電気刺激療法の効果は、刺激パラメータによって大きく変化しますが、この論文では、すべてのパラメータについて詳細に議論されているわけではありません。
最適な刺激パラメータについては、今後さらに研究が必要とされます。
個人差
電気刺激療法の効果には、個人差が大きいことが知られています。
この論文では、個人の特性が電気刺激療法の効果にどのように影響するのかについては、十分に議論されていません。
長期的な効果
この論文で紹介されている研究の多くは、短期間の電気刺激療法の効果を評価したものです。
長期的な効果については、まだ十分なデータがありません。
これらの限界点を認識した上で、この論文の内容を臨床に適用することがとても重要です!
また、電気刺激療法には禁忌なども存在しますので、これらを理解し、医師に確認のもと利用することを強くお勧めします!
まとめと学び
ここまでお疲れさまでした!
最後に簡単にここまでの話をまとめていきたいと思います!
この論文を中心に、電気刺激療法の生理学的メカニズムを解説しました。
特に、NMESとTENSの作用機序の違いや、刺激パラメータが与える影響について、改めて理解を深めることができたのではないでしょうか?
今回の学びを臨床に活かすために、以下の点を意識していきたいと考えます。
患者さんの状態に合わせた最適な電気刺激療法を選択する
電極の位置や刺激パラメータを適切に調整する
電気刺激療法と運動療法を組み合わせる
最新の研究知見を常に学ぶ
今回の論文ではNMESとTENS(特にNMES)がメインとなっていますが、電気刺激にFESやIVES、PNSなど他にも様々な療法が存在します。
ここにとどまらず、今回触れられなかった電気刺激療法についても勉強していきたいと思います。
今回学んだことをもとに、明日からの臨床で、患者さんの機能回復を最大限にサポートできるよう、さらに研鑽を積んでいきたいと思います!
おわりに
最後まで読んで頂きありがとうございました🥹
僕のnoteではこのように最新の知見やリハビリに役立つ知見をまとめています⬇️
これからも皆さんの臨床の役に立つ情報を発信していきますので、楽しみにしててくださいね😆✨
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では、また🦍👋
参考文献
メイン論文⬇️
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