【アクタバ】導入自治体インタビューvol.1 岐阜県下呂市
本シリーズでは、当社が開発した耕作放棄地診断システム「ACTABA(アクタバ)」の導入自治体へのインタビューを通して、負担が大きい農地調査にどのような変化が生まれたのかという声をお届けしていきます。
第一回となる今回は、全国初のアクタバ導入自治体となった岐阜県下呂市の農林部農務課主任主査・山下角英様にお話をうかがいました。
下呂市の地形は南北に長く、調査が必要なエリアは40~50kmに及びます。調査対象農地は4万5千筆で、地図は虫眼鏡で見なければならないほど細かく、大変な作業です。どのようなアクタバ導入の経緯や導入後の変化があったのでしょうか。
ーそもそもどうやって当社を知りましたか?
サグリ株式会社の田中さん(当社取締役CTO)が下呂市の農家さんと事業をしていまして、農務課の職員を介して田中さんと坪井社長を紹介していただいたことがきっかけです。
そこでサグリが提供している(アクタバの)システムの話を聞いて、直感的に「これはいけるな」と感じました。2点ほど確認させていただいてその場で「全然OKです」という流れでとんとん拍子に話が進みました。
ーアクタバ導入に至った背景を教えていただけますか?
どこの自治体もそうだと思いますが、農業委員さんが大きなポスターくらいのサイズの地図を何枚も持って農地に足を運び、何ページにもわたる農地台帳(農地一覧)に鉛筆で記入するよう体制があります。
事務局では農地の地図を作成するのにも手間がかかっていました。また農業委員さんが鉛筆で記入した結果をエクセル入力して農地台帳システムに登録する必要があります。そうした事務作業は、準備で1〜2ヶ月、結果入力で1ヶ月かかっておりかなりの業務量だったんですね。
このように多くの労力がかかっている状況をなんとかしたいとずっと思っておりました。農業委員さんのほうからも、農地パトロール時には軽トラで2人1組で行く状況のなか、狭い車内でポスターサイズの大きな地図を広げて何ページも探さなければならないことが非効率だから、もう少しなんとかならないだろうかという話をいただいていました。
サグリさんのお話を聞いて、業務効率の悪さを解消できそうだったので導入を試みた次第です。
ー岐阜県下呂市は、アクタバを全国で初めて導入した自治体となりましたが、不安はありませんでしたか?
市町村の農地パトロールにはガイドラインがあるものの、最終的な判定結果は農業委員の判断次第な面があり、実質的に均一性がない状況でした。アクタバを導入することで整合性も取れるし、判定結果について「AIによる第三者的な基準を持っています」と言えるようになると思いました。
ただ確認が必要なことが1点ありました。それは判定結果をCSVなどにして現在使用している農地台帳システム「ソリマチ」に簡単に取り込むことはできるかという点でした。その点が前向きなお返事をいただけたので、「じゃあやります」という流れになりました。
「判定結果データのシステム取り込み」という点について、すぐに解消できたことが大きかったですね。
ー実際にアクタバを導入してからの変化はいかがでしょうか?
1〜2ヶ月かかっていた地図作成作業も、データを渡すだけなので1日でできるようになりました。農業委員さんの農地パトロール自体も、日数自体はそれほど変わらないものの、「やりやすくなった」という声をいただいています。
下呂市ではもともと4万5千筆くらい調査が必要な農地があり、1年間に1万5千筆ずつ見て3年間ですべてを調査し終わるというサイクルで調査を実施していたんです。アクタバを導入した際に明らかな農業放棄地と農地は地図から調査対象から除外することが可能なり、残った農地がちょうど1万5千筆で例年1年間に調査する農地と同じだけになったんです。
そのため日数自体は変わっていないのですが、1年間で調査が必要な農地を見られるようになりましたし、タブレット端末を使用するのでもう狭い車内で大きな地図を広げる必要もありません。鉛筆で記入したものをエクセルに入力する手間もなくなり、データを渡すだけになったのも大きく手間を削減できました。
ー業務効率化が実現できてよかったです。できた時間はどのように活用されているのでしょうか?
視察の誘致に力を入れています。下呂市はアクタバを全国初導入した自治体となりましたが、もともと下呂温泉が有名な街なんですね。そのためアクタバ導入をきっかけとしてほかの市町村の農業委員会の視察を積極的に誘致して、農業委員会が観光業に寄与するようなかたちをつくっています。
もちろんアクタバを紹介することでサグリさんの認知も広がり、WIN-WINな状況がつくれていると感じています。
農業委員さんにもアクタバを見て「耕作地」か「荒廃農地」かの2択で判定し、判断がつかない場合のみ「遊休農地」としてもらうようにお願いしています。
去年の時点で2択にして、判断がつかなかったのが「17.8ヘクタール」だけだったんですね。そのため今年の調査は「17.8ヘクタール」のみを対象にすればいいので農地パトロールの日数や時間がさらに短縮されるかと思います。
ーなるほど。去年よりさらに調査対象が絞られたということですね。
その通りです。ただそこは、アクタバが優れていることはもちろんですが、農業委員会の考え方にもよると思います。
アクタバと下呂市農業委員会の考え方がマッチしたので、効果的な活用につながり、業務が大変楽になったと実感しております。
ー農業委員さんは高齢の方が多い状況があると思いますが、アクタバの導入に関して問題はありませんでしたか?
農業委員のみなさんはスマホを使い慣れていたので、そこまで抵抗はありませんでした。アクタバそのものの使い方というより、タブレットの使い方の説明のほうが大変でしたね。
あとは、アクタバのデザインの部分でたとえば文字が大きくできたりとか、お年寄り向けのらくらくフォンのようなイメージで使えるといいなと思います。
ーありがとうございます。ほかに「もっとこういう機能がほしい」などはありますか?
去年アクタバを導入したからこその要望だと思うのですが、過去の判定結果などを活用した複数のフィルターでスクリーニングできるといいなと思います。
現状では、各市町村が設定した割合の農地だけを地図上に出すことができるんですよね。たとえばうちの場合は、耕作放棄地率が35%以下なら耕作地、それを超えると荒廃農地という判断をしています。そのため去年は農業委員さんに「耕作放棄地率が36%から59%」の農地を調査してもらうよう指示しました。そして今年調査すべき農地を「17.8ヘクタール」まで絞っているので、本来ならそこだけ見ればいいはずです。
ただ今年のフィルターのかけ方が去年のままで「耕作放棄地率が36%から59%」の農地が調査対象として表示されるんですね。そのためフィルターを追加できるようにして、去年のデータをもとに判定結果のフィルターをかけたものを表示できるようにしていただけるとありがたいです。
実質的に遊休農地が耕作地に復活するケースはほとんどないため、去年の時点で遊休農地だったところもまた調査対象になってしまうと「また調査しなければならないのか」と非効率に感じます。
農地パトロールってそもそも何のためにやるの?と考えたときに、耕作放棄地をこれ以上増やさないため、農地を守るためじゃないですか。でも農地パトロール自体に大きな手間と時間がかかっていては、本来やらなければならない農地を守る活動にまで農業委員会の手が回らないんですよね。
だからこそ、農地パトロールはAIを活用したシステムの導入で効率化して、そのぶんの手間や時間を使って自分たちは農地を守るために何ができるかを考えることが大切じゃないかと思います。
企画 樋脇誠治
取材・執筆 木下麻衣
岐阜県下呂市とサグリの連携事例についての記事
▼日本経済新聞 電子版
人工衛星で農地を分析 荒れた田畑を洗い出せ(2022/8/20 5:00)
▼中日ビズナビ
衛星活用し農地管理 下呂市農業委、兵庫の企業と実証実験(2022年8月5日 05:00)
▼読売新聞オンライン
農地調査にAI活用 下呂農業委 衛星データ使い省力化(2022/02/02 05:00)
サグリ株式会社(代表 坪井俊輔)
サグリ株式会社は、「人類と地球の共存を実現する」をビジョンに掲げ、2018年6月に兵庫県で創業したスタートアップ企業です。2019年にはインド・ベンガルールに子会社を設立しました。衛星データ×AIで世界の農業と環境課題の解決を目指しています。2021年6月にはリアルテックファンドなどから総額1.55億円の資金調達を発表しました。また、ひょうご神戸スタートアップファンドの第一号案件の出資となりました。令和3年度農林水産省 農林水産技術等大学発ベンチャーに認定され、近畿経済産業局より、J-Startup-KANSAIに選出。環境省スタートアップ大賞事業構想賞受賞や東洋経済2021すごいベンチャーに選出されました。
サグリ株式会社 公式サイト
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