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いい文章とはなにか
〈はじめに〉
※これから語られる言葉は少し長いかもしれませんが、なんども読み返してください。
※できれば声に出して読んでください。文章のリズム、語感がしぜんと身につきます。
いい文章とは、どんな文章でしょうか。
読者を感動させる文章。読んでいて、つい引き込まれる文章。情景が浮かぶ文章。癒される文章。格調高い文章。言葉づかいが美しい文章。ユーモアがある文章。フィクションなのにリアルな文章。あるいは、ある一文だけが心にぐさっと突き刺さる文章。みなさんの頭に浮かんでくるのは、おそらく、好きな作家、好きな作品、好きな一節だと思います。そこで、あらためて、問いかけてみてください。
いい文章とは、具体的に、どんな文章のことでしょうか。
これから文章の書き方を学んでいきますが、その前に、再確認しておくべきことがあります。スキルを身につけるには、具体的な方法論を知ること。目に見えるやり方で、納得しながら進む必要がある、ということです。反対から言うと、検証可能な方法によらない学びは、身につかない(つきにくい)のです。
どうしてこれがいい文章なのか。どうしてこれがわるい文章なのか。一つひとつはっきりと、どうしてそうなのかがわかれば、正しい判断ができるようになります。なんとなく、とか、センスで乗り切れる人はそれでかまいません。しかし、ふわっとした感覚的なものは、たしかに、時には役に立つものですが、いつでも頼りになるわけではありませんから、やはり、たしかな方法を身につけておくことが、けっきょくはたしかな実力につながるのです。
【自分にとって文章とはなにか】
それでは、先ほどの問いに答えてみましょう。ただし、一つ質問を加えて、こんな聞き方をしてみます。みなさんはどんな言葉を入れるでしょうか。
読者とは、本を〔 〕人。
いい文章とは、読者が〔 〕文章。
みなさんの書き入れた言葉は、どんなものでしたか。本を「読んでくれる」人、本を「好きな」人、本を「大切にする」人、などなど。読者が「読んでくれる」文章、読者が「読みたくなる」文章、読者が「感動する」文章、などなど。もちろん正解がひとつに決まるような質問ではありません。ただ、大事なことは、本や文章を、自分の生活の中に、どのように位置づけているのか。自分は本や文章とどういう関わり方をしたいのか。自分にとって文章とはなにか。そのことを、自分の心の中で、整理してほしいのです。みんながみんな、文章のプロフェッショナルになる必要はありません。生活とは関係のない、「いい趣味」であっても、いっこうにかまいません。大事なことは、自分の気持ちをはっきりさせること。それが、いい文章を書くための第一歩です。
わたしが書き入れた言葉はこうです。
わたしにとって読者とは、本を〔 買ってくれる 〕人。
わたしにとっていい文章とは、読者が〔 買ってくれる 〕文章。
身も蓋もない言葉だと思うかもしれません。でも、言葉を商売にして生きているプロフェッショナルとしては、自分の文章を買ってもらわないことには生活できません。ですから、わたしにとって読者と言えるのは、本を買ってくれた人。立ち読みですませる人や他人から借りて読む人のことは(冷たい言い方ですが)読者だとは思っていません。
もっとも、書き手がそんなにエラいのかといえば、まるっきり反対です。たとえば、値段のつく前の文章というものがあります。本になる前の原稿とか、記事になる前の誌面とか。そういうものは、たいてい身近な人に読んでもらって、感想を聞きます。実際のところ、「読んでもらう」というのがぴったりな言い回しで、こちらからお願いして読んでもらうわけです。だから、読み手がつまらないと思えば、読んでもらえないし、気に食わない箇所があれば、けちょんけちょんにけなされます。
実に、書き手としては心に傷を負うわけですが、その試練を乗り越えたからこそ、世に作品を問う心の準備ができるのです。自分の書いたものが世に出るころには、開き直っていると言ってもいいかもしれません。だからこそ、買ってもらう価値のある文章だという自負もあるし、買ってもらえるような文章を書きたいと思う。そういうものです。
●(プロにとって)読者とは、本を買ってくれた人のこと。
●自分にとって文章とはなにかをはっきりさせることが大事。
【文章を書くときの心得】
いい文章とは何か。この問いに、具体的に答えていくことにしましょう。いい文章というものを積極的に定義しようとすると、これは、かなりむずかしい。いい文章は時代や場所を超えてたくさんあるからです。
ホメロスの叙事詩はいい文章です。清少納言のエッセイはいい文章です。シェイクスピアの劇作はいい文章です。夏目漱石の文明批評はいい文章です。村上春樹だって、サリンジャーだって、いい文章です。
どうすれば、彼らのような文章が書けるようになるか。数限りない世界中の名文を集めてきて、それをひとつの方法論にまとめて語るのは、むずかしい。ですから、初心にかえって、わたしたちがやるべきことは、もっと具体的で、目に見える形で、いい文章の定義をすることです。
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