コロナで予定が空いて、7年サボってた抜けた歯の治療を終わらせたらメモリアルだった話
(本の出版に添えて)
「んぎぎぎぎ…」3月のある日、テレビを見ながら心を無にしてパンを食べていた私は「ガチン!」という音を聞いた。フランスパンを強く噛みちぎろうとしたあまり、下の前歯が1本、1mmほど沈んでしまったのである。通常、歯は沈んだりしない。これは仮歯だ。ブリッジの治療をする過程で抜けた箇所にはめておく、両側と接着剤で止めただけの、プラスチックの。私は何と治療をブッチし続け、7年使い続けた末にその仮歯が外れて、冒頭のような音が頭の中で聞こえた気がしたのだった。たった1mmのタワー・オブ・テラー。悲しみや驚きはなく、笑ってしまった。お縄頂戴で長年の逃走劇を終えたときの清々しい気分を知った。いったい、7年も何から逃げていたんでしょうね。
そもそも7年前に抜けた理由は、歯周病だ。私は人生で虫歯になったことがなく、慢心ゆえに、若い頃の歯みがきに抜かりがあったのは否定できない。徹夜をしたり、体調を崩すたびに、歯肉炎になった。成人してから初めて歯医者に行った以降は指導どおりに磨いた。でも、歯が痩せていくレントゲンを見ても気に留めなかった。そんなことよりもっと成し遂げたい夢や、なりたい自分が先行していたからだ。で空回りすぎて、下手な抱え方をして、ウツ病になった。休職→退職→無職、と社会から遠ざかる時期が長く続いた。
退職して一時期、軽井沢の英語学校(説明省略)の寮で生活していた。このときはまだ例の歯もあった。夜ふかししたり、浅間山登ったりして疲れが出たのか、歯肉炎はハイパーで歯みがきのたびに出血していた。ウツのストレスも作用していたかもしれない。歯医者行けって話だが、慣れない土地だったし、一人では降りられない山の上だったので、在籍期間が終わってからにするつもりだった。なお、歯科衛生的観点からのマジレスは、論点ではないのでまったく受け付けない。
で、あるとき前歯が1mmほど浮いた。このタワー・オブ・テラーは登りのほうが怖い。使って噛むと、1mm押し戻されて激痛が走る。この歯と元サヤになれそうもないのはすぐに察した。いまさら磨き方とか歯ブラシとか歯磨き粉とか、何を変えてもどうにもならない。え、前歯無くなっちゃうの。。
学校が終わってつくばの自宅に戻り、観念して歯医者に行った。「抜きしましょう。あきらめてください。」とはっきり言われた。ショックだった。仕事もなく、貯金もさみしく、ウツで生活リズムすらままならないのに、健康まで持っていかれてしまうとは。神様どうして。父さん母さんごめん。自業自得なんだけど。
抜歯はあっさりだった。なにせグラグラだったわけで。プラスチックの仮歯をはめられた。ブリッジ治療の説明を受ける。保険適用の樹脂で8万円、保険適用外のセラミックで27万円、とかそんな感じだったと思う。どちらにするか持ち帰って考えます、と判断を保留したが、私がその歯医者に戻ることはなかった。長持ちで着色しにくいというセラミックのほうが当然よかったんだけど、その税込約30万円は、いつ社会に戻れるかもわからない当時の私にとっては重すぎた。っていうか仮歯でもそこそこ使えるので、気持ちの踏ん切りがつくまでお世話になることにした。嫌なことから一旦逃げてもいいって誰かの本にも書いてあったし。決めかねること数ヶ月、宇都宮に引っ越したことで治療は正式に途切れた。
タイミングを失った私はその後も仮歯を使い続けた。佐川さんの前歯は1本だけ雰囲気ちがうなと気づいた方、ご明察。仮歯のまま治療を中断していたこと、そのまま1年以上使い続けていることを説明するのが億劫で、新しい歯医者を探せなかった。
しばらくして追い打ちをかけるように2本目が浮いてきた。右奥のほう。この悲しみと痛みのタワー・オブ・テラーは、ファストパス並みに早く帰ってきた。仕事帰りに寄れる歯医者に助けを求め、こちらは速やかにブリッジしてもらった。経済は相変わらず見通しが立っていなかったので、保険適用の、金属のやつだ。前の仮歯について説明したときはお互い苦笑いだった。が、このときも仮歯を外す気持ちになれず、お茶を濁して無視してもらった。
翌年、3本目が抜けた。蜘蛛の子を散らしたようで、口内が学級崩壊したようで、悲しかった。長年の戦友だと、ズッ友だと、思っていたのは私の方だけであった。対応は2本目に同じ。経済を犠牲にして梨園で当てのない何かを目指す代わりに、歯がメタリックになっていくさまは、力を発揮する代償に体が機械に蝕まれる漫画にありそうな設定みたいだなと思った。仮歯は使えなくなるまでとことん使ってやろうと、そこだけは開き直っていた。
4本目…とまでいかず、ここで私の歯周病の進行は止まった。歯肉炎もほとんどなくなった。さすがに入念に歯磨きするようになったのもあるが、おそらくは梨園でメンタルが癒やされてストレスから開放されたせいではないかと思っている。ストレスと歯周病の因果は後から確かめようもないが、n=1の主観的な解釈では、ストレスで歯を3本失ったことになった。
メンタルが回復してからの私は快調で、スムーズに断薬でき、日常的な支障もない。数年のあいだ地を這うようなコンディションが続き、先に社会復帰した治療仲間を羨望の眼差しで見送り続けたのが嘘のように、発病前と比べて遜色なく生きられている。プライドは雲散霧消したが、肩の力が抜けて楽になった。これだけでまず奇跡。もちろん今後の人生でぶり返さないとも限らないし、再発の多い病気でもあるから、油断はできないけど。
梨園で取り組んだことを業界に向けてアピールしてみたら想像以上の反響があり、最大出力のハロー効果で実体をはるかに超えてチヤホヤしてもらい、見えない階段を必死に登って何者かになった。そんな私が、恥ずかしい人生を晒して本を出す。奇跡の重ねがけ。歯の治療を最初にサボった頃は、散歩と料理とポケモンの厳選しかできなかった私が。
ウツは辛かった。自分のことを一番知っているのは自分のはずなのに、その認知が歪んでいると言われ、主張が受け入れてもらえなかったのが一番つらかった。じゃあ一体どうすれば。治療と自分探しが並行してしまって迷子になった。体力の無さ。社会的立場の無さ。ブランクの長さと反比例して反り立つ壁。家族や知人友人はみんな優しくて助けてくれたけど、なかなか腹の底からは笑えなかった。
農家の経営改善のための実用書に、一般人の自分語りは邪魔かもしれない。でも、なんかこの一連の蛇行運転から説明しないと、梨園に至った話が説明できなかった。良いところや強いところだけ選んで見せるよりも、人間的な弱さも知ってもらってからのほうが、何か感じ取ってもらえるのではないかと思った。書店でパッと手にとっただけの人には、この気持ちは伝わらないかもしれないから、ちょっとした賭けだ。学歴厨なタイトルと中身は真逆なのだけど、せっかちな人にはそれもわかってもらえないだろう。
コロナで仕事が吹っ飛び、出版の期日が延び、出歩けなくなったので、そろそろ年貢を納めて治療をしなければ…と考えていた矢先、仮歯が外れた。憑き物が取れた。「セミナーで登壇したときに講師の前歯がなかったら笑いをとれるかな?」と思うくらいには、性格まで明るくなってしまった。登壇の仕事には常に全力投球なので、受講者の心をつかめるならお歯黒くらいお安いご用だ。
梨園に通う日は少なくなってしまったので、近所の歯医者を新しく探した。選んだ歯医者は仮歯のことを詮索しないでくれて安心したのだが、2回目以降でいじってきたw クソーーッww この記事を読んでくれないかな。
そんなわけで私の下前歯は晴れてセラミックのブリッジになった。どうせ同額払うなら、7年早いほうが良かったわけなんだけど、そういうことじゃないんだ。あのとき30万円貯金が目減りしていたら、もっと辛かったかもしれない。等価交換は残酷だ。そして、あの仮歯は私にとってミギーであり、佐為であり、阿弥陀丸だった(世代感)。いちいち恩着せがましい歯医者が確認もせずに捨てちゃったんだけど。まさか黄ばんだプラスチック片に命が吹き込まれているとは誰も思わないだろうから、これに関しては残当。
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そんなわけで、いよいよ本が発売されます。フワッと美化された農業界の佐川くんを、実体に寄せ直しながら、親近感を感じてもらえたら嬉しいです。そして、農業とか経営改善といった本題とは別に、似たような境遇の方の何らかの励ましになることを願っています。そういう本でもあるということで。
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出版までの経緯は前回の記事をご覧ください。
無名な著者ですので、多くの方にこの本を届けるには、またもやみなさまのお力添えを仰ぐことになります。クラウドファンディングのときもそうですが、パワフルな発起人が腕力で進めるよりも、ビジネスや資本の力でこじ開けるよりも、不特定多数の共感が集まったクラウド(crowd)の力で新しい価値を世の中に提案できればと思っています。
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自己紹介、阿部梨園の知恵袋について(フッター)
ファームサイド株式会社代表取締役、阿部梨園マネージャーの佐川(@neo16tea)と申します。阿部梨園という栃木県宇都宮市にある個人経営の農園で、経営改善しまくった経験から、農業の現場はまだまだ改善の余地、伸びしろ、ポテンシャルあるよ!というメッセージを業界に向けて発信しています。『東大卒、畑に出ない農家の右腕』みたいな呼ばれ方もします。
阿部梨園で実施した小さな業務改善のノウハウを無料で公開する『阿部梨園の知恵袋|農家の小さい改善ノウハウ300』というサイトを運営しており、農業界でも生産技術以外のレベルアップ、そのためのオープンな情報共有が必要だと説いて回っています。同サイトはクラウドファンディングで支援者を募り、450万円(330人!)ものご支援をいただいて世に送り出されました。
阿部梨園の知恵袋|農家の小さい改善ノウハウ300
https://tips.abe-nashien.com
ファームサイド株式会社を設立し、農家の経営改善に関する講演活動(年間50-100件程度)、コンサルティング、企業のアドバイザリーなどを行っています。
ファームサイド株式会社 – FARMSIDE Inc.|佐川友彦|農業界の課題解決
https://farmside.co.jp
色んなメディアさんに取り上げていただいたので、よろしければ詳しくは以下の記事をご覧ください。特にホリエモンこと堀江貴文さんに取り上げていただいて盛り上がりました!
【阿部英生×佐川友彦×堀江貴文】阿部梨園編〜ホリエモンチャンネル〜 - YouTube
https://www.youtube.com/playlist?list=PLPG9JWQYcjUu2P_-rBv8vAX6i3fcky-O9
(2019.03)東大卒、デュポン、メルカリ経由で梨農園に飛び込んだ 「畑に入らない農家の右腕」の正体 (1/4) - ITmedia エンタープライズ
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1903/14/news006.html
(2019.03)直売率99%、栃木の「阿部梨園」が経営改善のノウハウを無償で公開し続ける理由 (1/5) - ITmedia エンタープライズ
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1903/18/news004.html