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【Vol.26 劇薬は特効薬に】家業倒産、大学中退、派遣社員から年収1600万リーマンになるまでの話
劇薬は特効薬に
旗艦店は、これまで勤務した2店舗とは特徴が異なっていた。
これまでの店舗は、地方のロードサイド店だったが、旗艦店は駅前にあり人通りが多かった。
当時、キャリアショップはどの店舗も常に待ち時間が発生する状況だった。
さらに、この旗艦店では電車が着く度に多くのお客様が押し寄せ、尋常でない待ち時間が毎日発生していた。
その多くは操作説明など、販売に繋がらない対応がほとんどだった。
駅前立地でアクセスが良い分、来店のハードルが低いことも影響していたようだ。
スタッフは、各店舗で販売実績を出した精鋭が集められていた。
また、女性陣もベテラン揃いで、対応の質は高いように思えた。
しかし、ただひたすらに目の前の仕事をこなすだけで、皆に覇気がなかった。
そして、実績の悪い店舗にありがちな、人間関係の悪さも存在していた。
その結果、実績は地に沈み、関西内350店舗弱のうち、ワースト10に入るという惨状だった
この店舗の立て直しが、僕に課された仕事だった。
優良事例として、以前の店舗での施策を持ち込むことがセオリーだろう。
しかし、来客数が圧倒的に多く、総当たりの施策を導入することは現実的ではなかった。
さらに、スタッフのモチベーションが低い状態では、新しいオペレーションを受け入れてはもらえない。
まずは、前向きになってもらうことだと感じた。
そして、「シノダについていけば、良いことがありそうだ」と思ってもらう必要があった。
その後に初めて、改善活動が実行に移せる。
そこで、二大不満要素を取り除くことにした。
一つ目h、販売チーフの男性だった。
トレイルランをしていたので、「トレメン」としよう。
かつてベテラン女子ボスが、「シノダをつぶせ」と話していた相手だ。
彼はなぜか、毎日12:00に昼休憩を取ることに固執していた。
来客の多い販売業は、休憩を交代で取るのが一般的だ。
旗艦店は常に混雑していたので、休憩が夕方になってしまうスタッフがいるのも当然で、中には休憩を取れないスタッフも日常的にいた。
そんな状況で、この謎のこだわりを貫いていた。
彼はベテランで、かつて他店で圧倒的な販売実績を残していたスタッフだった。
それゆえ、休憩の割り振りを行うフロアマネージャーも強く拒否できなかった。
かつては抵抗していたらしいが、その都度不機嫌を撒き散らし、時にはお客様にまで影響を及ぼし、大混乱を巻き起こしていたという。
それ以来、彼のワガママは通るようになってしまった。
周囲のスタッフが不満を持つのは、当然だろう。
まずはこれをやめさせることにした。
僕がフロアマネージャーの日、12:00を過ぎてもトレメンを休憩に行かせず、他のスタッフを先に行かせた。
「休憩行っていい?サーガは知らんかもやけど、俺はいつも12:00に行ってるねん。」笑顔で彼はそう言った。
「いえ、皆の負担感ができるだけ同じになるように、日によって調整しようと思っています。」
「いや、俺耐えられへんねん。」
「それって持病か何かで、医者から指示されているのでしょうか?」
「いや、そうじゃないけど力でんくなるんやわ。」
「それは皆同じでしょう。何かつまんできたらどうですか?皆そうすればいいと思います。」
僕が笑いながらそう言うと、彼は血相を変え、僕をバックヤードに連れていった。
「いきなり横暴やろ、何様やねん!」と激昂して大声を出した。
ここで引いたら終わりだ。
人間も動物であり、マウンティングを行うものだ。
「僕は副店長なので、トレメンさんに指示する資格はあります。そして、これは横暴ではないでしょう。店舗のパフォーマンスを最大化するのに必要だと思います。むしろ、販売チーフでマネージャーのトレメンさんには、率先して遅い休憩を志願してほしいくらいです。そうしますか?」
この後、罵詈雑言を浴びせられた記憶がある。
埒が明かないと思った僕は、最後にこう言い放った。
「僕に指図したいなら、店長にでもなってください。今は無理でしょ?大人しく従うか、お辞めになるかです。今すぐ辞めないなら、店頭に出ましょう。今日も混んでいます。」
結局、彼は怒りで顔を赤くしながら、黙って店頭に戻った。
この一連のやり取りを、休憩室にいたベテラン女子数人が聞いていた。
バックヤードは狭く、やり取りは筒抜けだった。
以降店の半分以上が仲間になってくれた。
「これまでのマネージャーが放置してきた悪を正す」という行為が、信頼を生んだようだ。
もちろんその効果も狙った面もあったが、店舗内で影響力のあるベテラン女子の1人が聞いてくれていたのは幸運だった。
その後、猛烈に推してくれるようになり、あらゆる取り組みがやりやすくなった。
トレメンはその後も、他のスタッフがフロアマネージャの時を狙って、12:00に休憩に行こうとしたことがあった。
しかし、逐一報告するように皆にお願いをし、都度本人に注意した。
次第に諦め、彼は皆と同じように休憩に行くようになった。
今思えば、僕も未熟だった。
もっと上手いやり方もあったはずだ。
しかし、ワースト10に入っているような店には、劇薬も必要だ。
店の半分を味方につけて、2つ目の不満要素解消を進めるのだった…
To be continued...