深夜のトランジスタラジオ
子どもの頃。
夜中、電波の空いた時間。
枕元に置いてあるトランジスタラジオのアンテナを、最大限に伸ばす。
このラジオは、生まれた時から家にあった古いもので、当時でももうトランジスタなんて使ってなかったから、勝手に自分のものにしていた。
ここからが楽しい時間。
ベッドに寝ころんで、
ゆっくりとダイヤルを回していく。
昼間にはキャッチしない、隣国の放送が雑音に混じって聞こえてくる。
例えば唐突に、中国語の歌が (内容は全く分からない) 。
またクリスマスには、ロシア語圏のミサ的な歌が (内容は全く分からない) 。
あるとき韓国語が聞こえてきて、
内容は全く分からないけれど、キャスターらしき人が何かの専門家らしき人の話を聞いている。そのキャスターが、
「ネ。ネ。クレー。」
韓国語は全く分からなくても、それが相づちで、
「ええ。ええ。そうですか~。」
だということは分かった。
その声の響きが、
なんとも優しかった。
こんな素敵な音を発する韓国の人たちは、きっと素敵な人たちに違いない。
私はひとり、深夜にうっとりした。
今でも思い出すと、幸せな気分になる。