大人のための童話
いつものように乗った小田急線。
新宿に向かってたはずの電車が
いつの間にかイベリア半島を走る列車に変わり、名も知らぬ駅で人々と共に下車。
列車を降りると
ロータリーには
3、4 メートル程ある巨大な植物が待ち構えていた。
強烈なオレンジ色の花に
輝くオパールグリーンの葉。
見たこともないこの植物に
宇宙的イメージを重ねて
数人の人々と共に
見上げ その様相を観察する。
そこで何故か千春は
ポルトガル方向に向かってるのだなと感じ
そのロータリーを後にする
船着き場の方に向かう
どうも河をこの小型船で横断して
向こう岸に渡ると
ポルトガルの領地に入るようだ。
ということはここはスペイン。
パスポートを探してモゾモゾしてる自分。
ちょっともどかしい感覚と共に夢から目覚める。
代々木公園の南に位置する千春のアパートからは、しっかり新宿高層ビルの赤い灯りが見えて、日本に居るのを確認する。
1980年半ば、20代をバブルの東京で過ごしていた千春に、そろそろこの街から別の世界への移行を促して来るサインが、ここ数カ月続いていた。
ある夜更け、やはりオレンジ色の閃光が
入口のドアの覗き穴から差し込んでぐると
一人暮らしの1LDKの私の部屋に凄い勢いで拡がった。
千春はオレンジの光の波に包まれ、一瞬
"ついに来たか"という思いがよぎる。
緑のカーペットの私の部屋。
天井あたりで浮遊して
ベットで眠る自分を確認。
電磁波エネルギーが充電された感覚と共に
もっと飛べることを認識し
思いっきて上空に昇る。
目眩するような高度にあるのに
普段の怖がりの千春は消え
益々上昇 天空を突く。
幽体離脱、夢か幻か、などなど余り深く考えず、何となく受け取っていたものの、人生はやはりそっち方向へと舵を取っていった。
スペインへの旅立ち。
巨大なオレンジ色の植物を探しに、
スペイン、ポルトガルの国境付近を散策。
一ヶ月のスペイン語学校期間を終え、いざイベリア半島の旅路に出発。
スペインの南を電車とバスで周る一人旅である。あのオレンジ色の花の意味するものは何なのだろう。あのインパクトの強さ、目覚めた後のただならぬ余韻、色付きの夢を見る事は度々あっても、あの色艶の強烈さには唖然とするものがあった。
スペイン南部の街々、マラガ、コルドバ、セビージャを周り、ポルトガルに渡る時、なんと夢と同じように存在した小型船で河を横断しての国境超え。
不思議な感覚が蘇ってくる。
千春の人生の転機はここから始まった
あれから10年程イベリア半島に住むことになった千春。
このスペインでの10年の年月、色々な場面や舞台が繰り広げられたが、未だあの宇宙的波長を発する植物の不思議にしっかりと寄り添い究明していないことに気づいた。
ここからの新たなる旅、それは内なる宇宙への旅であり、地球的には地中海と瀬戸内海を重ね、太平洋と大西洋を繋ぐ旅。