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翻訳と星、そしてビール半ダース

Safeology研究所の田中です。

前回のnoteにて、山川さんは「かんじんなことは、目には見えない」というタイトルをサン=テグジュペリ著『星の王子さま』から引用しています。久しぶりに読んでみようと思い、本棚を探したのですが、フランス語のペーパーバックしか見つかりません。これは、確かフランス語を学習してみようかなと思い、大学生時代に気まぐれで購入したけど、読まずに放置された一冊です。

そこで、AmazonのオーディオブックAudibleで無料だった内藤濯(ないとう あろう)訳『星の王子さま(岩波少年文庫)』を通勤中にスマートフォンで聴きました。ちゃんと読んだことが無かったのか、新鮮な気持ちで、本の世界に引き込まれました。「Le Petit Prince」という原題を「星の王子さま」と初めて訳したのは内藤さん。ちなみに、原題を変えて訳しているのは日本だけだそうです。「Petit(英語のLittle)」を入れず、「Le(英語のThe)」を「星の」と訳すなんて素敵ですよね!

Audibleで聴いた後、kindle unlimitedで無料だった浅岡夢二訳『星の王子さま』を少し読み始めました。日本語訳がいろいろと変化していて、とても興味深いです。たとえば、内藤訳の「ウワバミ」は浅岡訳では「大きなヘビ、ボアというヘビ、大ヘビ」、内藤訳の「子どもだったころの」は浅岡訳では「インナー・チャイルド」。イメージが全く異なりますよね。
他の翻訳版としては、作家の池澤夏樹さん等がいます。

そういえば、高校から大学にかけて、村上春樹さんの著書が大好きだったので、彼が翻訳した本も、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、C・D・B・ブライアン、ジョン・アーヴィングと順番に読みました。正直言って、別の人が翻訳した他の本を読んだことがあったのは、フィッツジェラルドだけでした。

そのように考えると、翻訳された時代の違いもありますが、一人ひとりに好きな日本語の言葉や言い回しがあるので、好きな翻訳家で海外文学に触れると安心感がありますよね。

以前noteで引用した『風の歌を聴け』を高校時代に読んで、村上春樹推しになったのですが、成人した私が大学時代に実現した文章がその中にあります。

僕たちは近くの自動販売機で缶ビールを半ダースばかり買って海まで歩き、砂浜に寝ころんでそれを全部飲んでしまうと海を眺めた。素晴らしく良い天気だった。

村上春樹『風の歌を聴け』

そう、大学生の私は一人、安売りの酒屋で6本のハイネケンを購入して、読みかけの本を持って海に行き、灼熱の誰もいない砂浜に置いたサマーベッドに寝ころび、読書しながら酔っ払いました。

文/田中洋一(Safeology研究所研究員/仁愛女子短期大学教授)

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