きみがこの記事を読もうとしている事実について、僕は何も興味を持っていないし、何かを言う権利もない。
白無地の背景の中で規則的な点滅を繰り返すカーソルは、もう1時間ほどその場に留まっていた。
時を同じくして、私の指も携帯電話の液晶からわずか1cm上空で何を書こうかと戸惑い留まっている。
これは体感の話であり、実際留まっていた時間は、ていの良い書き出しを考えるまでの5分だったかも知れないし、その後ただ片手間にSNSをぼうと2時間眺めながら書き連ねられた話だったかも知れない。
正直、書き出した時間なんて今読んでいるあなたには興味のない話題であり、暇の虫である私にとっても些細な問題である。
重要なのは、このわずか200文字足らずの中で、既に私の第一印象が決まりつつあるということだ。
『note』にしては珍妙な文章であるだとか、読点が多いだとか、位置が変だとか。概ねそのような所に落ち着くだろうと思う。
あいにく、この『note』というものと触れ合ったことも無ければ、この文体で過ごして来た生来なのでご容赦頂きたい。
つまらない言い訳はこの程度にして、徒然となにか書こうと言う訳だが、日々の感動や怒りなどには乏しいほうだと自覚がある。
そういうものを読みたい方は合わないかもしれないが、是非このページだけでも読んで頂きたい。
ではどうするかと言う話、皆々様とは別の切り口で茶を濁そうと云う算段を建てよう。
今回は本文の頭でも触れている『書き出し』である。
こだわりなんて言うものは、人それぞれであり無くてもなんとかなるものであると思うが、こと私についてはそれが『書き出し』だったという話だ。
書き出しには、その人物の作家像が透けて見える瞬間がある。たった1行での鮮やかな場面説明である事もあれば、ただ美しいの一言に尽きる文章である事もある。
果て何事かという方も居るであろうので、いくつか紹介させて頂きたい。
・「二階から春が落ちてきた。」
『重力ピエロ』(伊坂幸太郎 作)
・「三十秒で書ける天使がある。」
『いわゆる天使の文化祭』(似鳥鶏 作)
・「たとえば、バッハの『ゴールドベルク変奏曲』を弾くように毎日を思い通りに演奏することができるだろうか?」
『君が壊れてしまう前に』(島田雅彦 作)
いかがだろうか、世の中に数多とある本の中から私の独断と偏見による選択で選び出されたものであるので、興味が湧いたかどうかはまた人それぞれだろう。
春が二階から落ちてくる様なことは無いし、盛期ルネサンス時代の天使が三十秒あまりで描けるとは到底思えない。しかし、該当作品内では春は落ちてくるし、天使を三十秒で描く方法を明記していた。
つまるところ、どれも次の一文、または、その先までも気になる第一行目となっているのは確かであると考える。
このワクワクともゾワゾワとも言えるような感覚が分かるだろうか、気がつけば次のページに手が進み、ふと我に返ればページ数は三桁を超えている。書き出し、引いては1行目というものは、そこまでの悪魔的魅了をする力を持つことがある。
終わりよければすべてよし、なんて言葉があるが、文学における一部界隈では『出だしよければすべてよし』なんてのたまう事もあるほどである。
この迄少々熱くなってしまったが、本回は程々の長さとして、最後にもう一つだけ一番好きな書き出しを紹介して、締める事にする。
斯くも合うなら今後もお付き合い頂きたい。
はなまき
・「物語の一行目は重要だ。そこでは往々にして作品のテーマがすでに書かれている。」
『あさとほ』(新名智 作)
〆