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短編•第六話【創作】


男 性:本日はご足労をいただきまして、誠にありがとうございます。


女 性:いえいえ、ではよろしくお願いします。


男 性:よろしくお願いします。では最初に弊社の調査員がリサーチを行った結果についてご説明致します。令和現在では、件の言葉はまだ使われている方が多いことが分かりました。


女 性:本当ですか?すっかり死語は確定しているとばかり思っていました。


男 性:えぇ。私もこの結果を知って驚きました。ただ、昨今ではネガティブな意味、ひいては半ば悪口として使われていることも事実でして。そのため、私の見解ですと後10年程しか残り続けることができない可能性が高いです。


女 性:昔は「白くて綺麗な足」だったのに、今では「太い足」ですもん。意味が変わったせいで私も太ましくなってしまいました。見てください、この太鼓みたいなお腹。


男 性:あはははっ。とはいえ、平安と呼ばれたあの頃から残り続けていること自体素晴らしいものですよ。しかし、言葉を扱う人の感性というのは私でもよく分かりません。現在では「太い足」という意味でも、いつかは何かがきっかけで、本来の褒め言葉としての意味を取り戻すかもしれません。とりあえず、印象操作に関しては我々の方で行ってみますね。


女 性:本当にありがとうございます。もしこれから数年後に私が無くなってしまった場合は、契約通りに記載の方をお願いします。来年度もそちらへ伺いますので、何卒よろしくお願いします。本日は、ありがとうございました。


男 性:こちらこそ、ここまではるばるご足労をいただきまして誠にありがとうございました。来年度も再び、会えますことをお待ち申し上げております。


中国地方を旅行していた時。
とある神社へ観光に訪れると、
鳥居から社務所にかけて
老若男女の行列ができていた。


境内を竹箒で掃いていた巫女さんに
あの行列は何なのか尋ねてみたところ、
にやっと笑って拝殿から神社の中へ入って
渡り廊下を横切り、社務所の入口となる
閉ざされた引き戸の前へ案内された。


「わたしの口からは詳しくは話せないので、こっそり盗み聞きしてみてください。」


そうして、閉ざされた引き戸の向こうから
聞こえてきたのが上記の会話である。
無論、会話の内容もよく理解できなかった。
あれは一体何だったのだろう……。

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