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骨になるまでエージング

 新品のオーディオ機器は、しばらく使用時間が経たないと本領を発揮しないといわれる。
買ったばかりの製品は「良い音がしない」のだ。
これは現在は常識とされ、この現象にはエージングという名前もついている。

 しかしこれは嘘である。
 買ったばかりのスピーカーの音が悪く感じるのは、聴く人の新しいものに接する緊張や、細かく聞こうとする態度に原因があるのだ。時間が経てば、腫れ物に触るような緊張感が解け、粗探しもしなくなる。
 つまり買ったばかりの製品とある程度時間が経った製品は、聴き方が変わるだけだ。
これが「中古製品を導入した際にもエージング現象がある」理由である。

 「オーディオ機器の各部分、あるいは部屋の分子構造が整う」
などと物々しく書いてある文献もあるが、それは分析や測定の結果ではなく、「きっと、そうなんだろうなぁ」「そうだったらいいのになぁ」というロマンチックな想像に基づく意見に過ぎない。

「いや、それは間違っている。オーディオ製品の説明書にも「エージングが必要です」と書いてある。エージングはメーカーが認めた正しい現象だ!」
と怒る人もあるだろう。
しかしこの説明書に書いてあるエージングは、機器が物理的に本領を発揮するまでの時間のことではない。ユーザーの機器に対する態度が安定するまでに、だいだいこれぐらいかかりますよ、という意味なのだ。

 エージングされるの機器ではない。聴く側の精神である。

 エージングという言葉が作られて、広められた原因は、メーカー側の都合である。
 買ったばかりのスピーカーやアンプが望んだような音を出さないことに立腹し、返品を要求するような客に対する有効なクレーム対策、言い訳が「エージング」なのだ。
「今は悪く聞こえるが、そのうち(耳の方が慣れて)良くなりますよ」
という商人の悪知恵なのだ。
(高級な製品ほど、エージングにかかる時間が長い、とされる理由もこのへんにある)

 良い音の製品は、最初から良い音だし、悪い音の製品ならいつまで経っても悪い音だが、それを追い越して聴く側が馴染む。
(そもそも現代において「悪い音」の製品など滅多にない……というのも問題をややこしくしていると思う)

 私の知人で
「まだエージングの途中やから」
と30年ぐらい言い続けている人もいる。
つまり30年経っても不満があるが、きっと将来は、エージングが完了して素晴らしい理想的な音になるのだ……と目を輝かせて期待し続けているのだ。

これはこれで幸せであろう。

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