夕陽の侵略者

微妙に不思議な話。

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最近の記事

人喰いライオンとカニ男

 映画「グレート・ハンティング」が公開されたのは1976年の春だった。 「偶然撮影されたライオンが人を食う映像」というのが売りの残酷ドキュメンタリー映画で、結構な評判になっていた。  私は中学生の映画少年だったが、こうしたキワモノ映画は軽蔑しており、全く関心がなかった。 ライオンのシーンも映画雑誌に「作りもの」と書かれており、映画好きの間では、イタリア製の露悪的ドキュメンタリー映画は大概「ヤラセ」ということも常識化していたから、騒いでいる人たちがバカに見えた。  だから、こ

    • 子供に刺激を与えるな

       私が子供の頃。つまり半世紀ぐらい前には、まだ「激辛」という言葉が無く、強い辛みを売りにした菓子類は「柿の種」ぐらいしかなかった。 その柿の種にしても、今ほど辛くなかったように思うが、大人は子供が柿の種を食べることを禁じていた。 「あんな辛いモノを食べると身体が悪くなる」 というのだ。 「痔になる」 「肝臓に悪い」 「辛すぎて死ぬ」 家庭によって肉体への影響は様々だったが、世間一般的に柿の種は子供には毒であり、大人のお菓子・酒のつまみとされ、子供もそれを素直に信じていたのだ

      • ヘンシーン

         70年代を懐古する本は、必ず「変身ブーム」に触れているが、実際に著者が変身ブームに興味を持っていたかどうか?は、すぐにわかる。 「ヘンシーン!というかけ声と共に主人公が仮面ライダーに変身するシーンが目に焼き付いている」 と書いてあるのは、もちろん当時、変身ブームに無関心だった人だ。 仮面ライダーは 「ヘンシーン!」 というイントネーションで「変身」を叫ばない。 「変身」はあくまで「ヘンシン」と発音するのであって「ヘンシーン」と伸ばすことはない。 これは当時から、実際に番組を

        • 嗤う老人 オーディオの衰退と現状

           80年代までのオーディオ専門店は、どの店にも、奥の席に座ってタバコを吸っているお爺さんがいた。 このお爺さんは所謂「お得意様」だ。 その店で高級なオーディオ製品を購入したことで店主に認められ、一日中、そこにいることが許されているのだ。  せっかく高級な製品を揃えたのだから、家に篭って音楽三昧の生活をおくればいいのに、お爺さんにとっては、ここでふんぞり返っている方がずっと快適らしい。  若い頃の私は、こうした上得意客の存在を知らなかったから、彼らこそ店の主人、店長である、と

        人喰いライオンとカニ男

          シビレ

           どのクラスにも、人を笑わせることが好きな奴が一人や二人いるものだが、笑わせるのが好きだからといって面白いとは限らない。 人を笑わせたがっている奴らは、むしろあまり面白くない場合が多かった。つまらない冗談を押し付けてくる彼らは鬱陶しく、痛々しかった。  高校のクラスにいたNも、人を笑わせたい欲求が強い男だった。しかし例に漏れず、全く面白くなかった。 Nはモノマネを好んだ。 「森……進一です……おふくろさんよ〜…」 「西城秀樹です!ハウスバーモンドカレーだよ…」 「三波春夫

          幻の警笛

           1970年代中期。私が通う中学は、不良が増殖し、校内暴力の嵐が吹き荒れていた。毎日のように流血事件が発生し、教師にはこれを止めることが出来ず、ついに校内に警察が常駐するようになった。  校内で非行が発生すると、それを目撃した教師が警笛を吹く。すると職員室にいる警官が駆けつけ、暴力でもってこれを制圧するのだ。 ピー!ピー!ピー! 校内に響き渡る警笛の音。暴力事件発生の合図だ。 ドタドタドタ!普段では走ってはならない廊下を慌ただしく警官が走っていく。 「こらー!御用だ!御用だ

          ビートルズ招聘詐欺事件

           「L・G・B」は「L・G・B・T・Q」とは何の関係もない。 「L・G・B(以下LGB)」とは「レッツ・ゴー・ビートルズ」の略である。  「LGB」は1965年3月に結成されたビートルズの非公認ファンクラブである。 その大きな目的は「ビートルズに直接働きかけて、日本公演を実現させる」というものだった。 ビートルズの来日公演は1963年から噂があったのだが、実際は「かなり先だろう」とされていた。ビートルズはアメリカでの成功に賭けていたし、香港公演失敗からアジアを敬遠する向きが

          ビートルズ招聘詐欺事件

          映画「東京湾炎上」

           コンビナート爆破を要求するテロリストを欺くために「コンビナートが爆発する映画のミニチュア特撮映像」をテレビ放送する、という凄い映画。 東宝特撮技術の全力投球で撮られた「ミニチュア爆破シーン」を見たテロリスト達は、実際にコンビナートが爆破される実況映像だと信じて喜ぶ。  しかし我々現実世界の観客は、どんな映画なミニチュア特撮も決して「実景だ」と思わない。 「日本沈没」のコンビナート爆破映像も、本当にコンビナートに火を放って撮ったものではなく、ミニチュアを爆発させたものだ、と

          映画「東京湾炎上」

          鏡の向こうに誰かいる

           私の中学時代の担任は、3年間同じ人だった。30代の個性の無い男性だったが、妙な噂があった。 この担任には双子の兄がおり、時々、その兄が教壇に立っているというのだ。 双子だから顔も背丈も見分けがつかない。声も全く同じだから、二人が入れ替わっていても誰にもわからない。しかし双子の兄は教員免許を持ってないというのだ。  兄と弟の違いは、雷に対する反応にあるとされた。 天気が悪い日、雷が鳴ると弟(正式な担任)は「わー!きゃー!」と悲鳴をあげ、両手で耳を塞いでうずくまってしまう。そ

          鏡の向こうに誰かいる

          穴にねじ込め!

           耳が痛くなりやすいので、イヤホンは使わない。 だからスマホで音楽を聴くことも決してなかったのだが、先日、知人に借りて現行のウォークマンを聴いたら、実に深々とした落ち着いた音が出てきたので驚いてしまった。 私が知らぬ間に、イヤホンでこんな音を聞くことができるようになっていたのか…… これを職場に持参し、暇つぶしに使うのは、大変贅沢な楽しみではないかな?と一瞬、物欲を感じたが、数分間聴いただけで、耳の穴が痛くなっていた。 「音が素晴らしいことは確認できたが、やはり私には向いて

          穴にねじ込め!

          無情のサイレン 白昼の血溜まり

           昼食後、午後の仕事の為、職場に向かっていたら、道の真ん中に80歳ぐらいのお爺さんが倒れていた。 転倒して頭を打っており、後頭部からかなりの出血がある。アスファルトに直径30cmの血溜まりが出来ていた。 意識はあるが立てない。ここで寝転がっていたら、車に轢かれるので、まず、道端に寄せようとしたが、重くて動かせない。 「ちょっと手を貸してください」 と通りかかった若い男性に声をかけたが、関わりを恐れ、顔の横に掌を広げて立ち去ってしまう。  仕方ないので、そのまま上半身だけ起こ

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          短いお別れ

           全ての男子中学生はエロ本を欲していた。 しかし1970年代は、それが非常に困難な時代であった。 何故なら、世界は今よりずっと強力な倫理観に支配されていたからである。 中学生はエロ本を買ってはいけない。 本屋は中学生にエロ本を売ってはならない。 買う側も売る側も、この倫理に縛られていたのだ。  だが、中には非倫理的な書店も存在した。儲けの為なら道徳を踏み躙る商い優先の本屋は、若い欲望が暴走し倫理を踏み越えた男子中学生が差し出すエロ本を黙って包装するのである。 そうした本屋は

          怪鳥ポチンコ

           私が子供の頃。周囲の大人は、皆、戦争体験者だったから、日常会話として戦時中の苦労話が聞かれた。 饒舌に何度も同じ話を繰り返すのは当時、銃後にいた人であり、実際に兵隊に取られ、戦闘に参加していた人は逆に、あまり語らないという傾向があったように思う。  私のおじさんも戦争末期に南方にいたのだが、その時の話をすることはほとんどなかった。 しかし晩年、身体が不自由になり寝たきりに近い状況になってから、ジャングルでの経験をぼちぼち語るようになった。  おじさんの部隊の駐留地は、ほと

          怪鳥ポチンコ

          疑惑のライダー少年 暴かれた仮面

          「仮面ライダー」が人気の頃、すでにテレビの普及率は90%を超えており、子供のいる家庭には大概テレビが備わっていた。しかしまだカラーテレビがない家庭は珍しくなかったし、電波が届かない地域に居住しているため、テレビがあっても「仮面ライダー」は見たことがない、という子供もいた。 私のクラスのYの家の白黒テレビは、「台風の日に川を流れていた」ものだった。これを拾ってきて1週間天日干ししたところ、ちゃんと映るようになったのだ。 しかしYの家にはアンテナがなく、視聴できるのは地元ローカ

          疑惑のライダー少年 暴かれた仮面

          本当は「スターウォーズ」はヒットしてない説

          「スターウォーズ」は全米で大ヒットを記録して、全ての興行記録を塗り替えたのだが、なぜ、こうした作品が支持されたのか?は分析出来なかった。SFやそれに準じた映画は、特定の観客にしかアピールしない分野であったし、純粋な活劇も求められている時期ではなかったからだ。 映画を作った本人であるジョージ・ルーカスも興行に自信が持てず、絶望に備えてハワイに逃亡していたという。 「スターウォーズ」の成功の理由は 「ニューシネマに対する反動」 「観客の幼児化」 「レトロ趣味」 などが考えられた

          本当は「スターウォーズ」はヒットしてない説

          アニメなんか大嫌い! 映画評論家の激昂

          70年代末。 高校の映画研究部に所属している私だったが、部員の多くは突然勃興したアニメブームに飲み込まれ、映画館で映画を見ずに、家にこもってテレビに齧りついてばかりいた。 よって部室は常にガラガラで、部の活動は停止状態。つまり存続の危機に瀕していたのだ。 このままではまずい。せめて文化祭ぐらいは盛り上げないと…… 。 そこで、少ない予算からゲストを呼ぶことになった。映画雑誌にも書いているプロの映画評論家である。 映画研究部に入部する者の多くは、アニメに目覚める前は 「わしは

          アニメなんか大嫌い! 映画評論家の激昂