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死にいたる家庭内映画劇場の昂奮

 自宅ガレージから自家用車を追い出して、150インチのスクリーン を吊り、当時としては最高性能のプロジェクターによる本格的なホームシアターを築いた先輩だったが、ここで映画鑑賞をするたびに、強い興奮で血圧が致死領域近くまで上昇することがわかり、医者にホームシアターでの映画鑑賞を禁じられてしまった。

 この話を聞いた時
「凄いなぁ、映画は時に人の命も奪うものなのだなぁ」
と思って、映画に対する畏敬の念が強まったのだが、後で聞くとこの先輩、映画館でどんな刺激的な映画を見ても血圧は正常で……つまり、子供時代からの夢であった「家庭に映画館を作ること」が実現した喜びに興奮し、血圧が上昇していたのである。
 ホームシアターの完成、という事態はそこまで人の気持ちを昂らせるものなのだ。

 私も物置を改装して念願のホームシアター(っぽいもの)を作ったが、先輩のように、愛車を捨ててまで一気呵成に仕上げを急いだのではなく、10年以上かけて、コツコツと試行錯誤を重ねて完成に至ったので、完成の喜びと興奮は存分に感じはしたものの、血管にかかる負担が危険なほど急峻な高揚感ではなかったことで、先輩のような悲劇は発生しなかった。

 何ごとも急ぎ過ぎるのはよくない。特に強い興奮をもたらす趣味の領域は、じっくり構えてジワジワ進めないと体によくないのだ。

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