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音を半殺しにするオーディオの技法

オーディオの「決め手」は、機材ではなく環境だ。部屋が9割、機材が1割と考えてよいだろう。
まあ、その1割の中で勝負している人も少なくない(それも悪く無い)が、もし部屋をいじることができるのなら、機材の変更をちょっと止めて、環境整備に手間をかけるべきだと思う。

具体的に言えば、5万円のケーブルを買うのなら、吸音・拡散パネル等に1万円使う方が、1000倍以上有効である……ということだ。

まず手をつけるのは、反射の低減だ。俺の部屋はデッドだから……という人がいるが、実際にデッドな部屋というのは、ほとんど存在しない。
我々は必ず無用な反射に塗れて生活をしているのだ。
そこで試すべきなのは吸音材である。
「吸音じゃない!拡散だ!吸音は音を殺す!」
という意見があるが、しかし、実際に「音を殺したことがあるのか?」と訊いてみたい。
完全にデッドな状態(無響室の中)を家庭に作り出すことは非常に困難だ。吸音材をペタペタ貼ったぐらいでは、音はなかなか死なない。半殺しにするのさえ難しい。
「いや、吸音材をたくさん貼ると、だんだん音の精気が失われていく。音楽の楽しさが減じていくじゃないか!」
確かに8畳間の適正な位置に吸音パネルを50枚ぐらい貼ると、音楽の輝かしい部分が減じて、勢いが削がれた感じになる。音量自体が小さくなったようにさえ聞こえる。
しかし、これは音が半殺しになった状態ではない。
無駄な響きが整理されて、スピーカーの発する音がより正しく耳に届くようになった状態なのだ。
もう、この時点で、高音の刺さるような感じが消滅しているのがわかるだろう。
つまり、この状態の音は、精気を欠いてつまらないかもしれないが、長く聞いても疲れない、無用の刺激から解放された音になっているのだ。

「それはそうかもしれないが、つまらない音は嫌だ。そんなの最低だ!」
ては、ここで音楽に精気を与えよう。それは簡単だ。
ボリュームを僅かに上げれば良い。
今まで、音の飽和を感じたり、サ行・高音の刺激を避けて絞らざるを得なかったボリュームが、この状態ならグイッと上げられるのである。
上げてもちっとも煩くないのである。

これで活力ある音が戻ってくる。キツさはない。無駄な反射による濁りもない。
これだけで、機材でいえば3ランクぐらいのアップ。
しかしまだまだだ。これではまだ音が半殺しになっていない。
さらに50枚。吸音パネル(スポンジみたいなのより、圧縮したやつがよく効きます)を貼ると、また音の精気が失われる。さらにボリュームを上げる。また上げることができた。
この時点では、いわゆる定位感が著しく向上し、歌手の実体感が増す。
輪郭を伴った幽霊のようなものが現れる。
真ん中に歌手がいます……という定位は、対策なしの部屋環境でも感じられるが、実像感はやはりある程度操作された部屋にしかない。
もちろん、8畳間に30cm四方の吸音パネル100枚では、まだこの現象がみられない場合もあるが、それはつまりそれだけ元の部屋がライブだった、ということだ。
「俺の部屋はデッドだ!」
と言っていた人が、これだった。吸音の余地は、存分に残されていたのだ。

さて、この吸音と音量アップを繰り返していくと、やはり限界がくる。
音量を上げても、精気が戻らない。あるいは、もう音量が飽和状態になり、これ以上は無理……
これが「半殺し」の状態だ。
ここでワンステップ後退する。つまり一つ前の状態まで吸音パネルを外す。
これが、その部屋環境におけるピーク状態だ。
ここから初めて「拡散」を考える。

「吸音と拡散のバランスが大事」
という評論家の意見に従って、吸音をやりながら一緒に拡散の手段を講じるのは絶対良くない。混乱して何がなんだかわからなくなる。
まず「吸音」。音を半殺しにして、一歩後退し、そこから「拡散」だ。

拡散についてはまた論じるが、拡散は難しいぞ。


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