2 「イリーガル探偵社 闇の事件簿」序章 脅威 人類が知っている最高の発がん物質
人類が知っている最高の発がん物質
日本では、1975年、昭和50年の国会でアフラトキシンについて専門家から興味深い証言がなされている。国立予防衛生研究所の粟飯原景昭は、当時農林大臣だった安倍晋太郎を前にして、農林水産委員会でアフラトキシンの説明を行った。
「その強さは群を抜いて強く、これは動物実験の例でございますけれども、ラットに対する動物実験、一日に0・2マイクログラム—、マイクログラムと申しますのは、1ミリグラムの千分の1でございますけれども。で、約16カ月飼育いたしますと、100%の肝臓ガンができてまいります」
「たとえばバターイエローと称せられるDABに比べて、アフラトキシンは4万5千倍の強さがあるということになるわけでありまして、現在私ども人類が知っております物質の中では、最高の発がん物質と言うことができます。しかも、その発がん物質がカビという天然物質で出されているということが、非常に重要な問題であります」(第075回国会農林水産委員会第17号)
イラクの空中爆撃弾「R—400」に充填
2001年9月11日、米国のジョージ・W・ブッシュ政権が発足してまもなく、多数のアメリカ市民が犠牲になる同時多発テロが起こった。翌年の1月29日には同大統領は一般教書演説で、北朝鮮、イラン、イラクの3か国を「悪の枢軸」として批判。これらの3か国は大量破壊兵器を開発・保持しテロ組織を支援していると考えられていた。緊迫の続くなか、2003年2月25日、UNMOVIC(国連監視検証査察委員会)のブリクス委員長は、イラクから受け取った「書簡」の内容を発表した。そこに書かれていたのは「以前に、イラク内で生物兵器の廃棄処理をした場所から、液体の詰まった生物兵器用の投下爆弾『R—400』1個を見つけた」というものだった。
R—400というのは生物兵器用の空中爆撃弾で、米シンクタンクの資料を参照した報道によれば、イラクは湾岸戦争直前の1990年12月ごろから発がん性のアフラトキシン、炭疽菌、ボツリヌス毒素などを充填した同爆弾約160発を製造したとされた。イラク側はそれらを自主的に廃棄したと主張していた。
UNSCOM(国際連合大量破壊兵器廃棄特別委員会)の報告では、イラクが自己申告したアフラトキシンの生産量は2200リットル。だがUNSCOMの評価としては「2200リットル以下で、申告の裏付けがなく申告量は生産できなかったと考えられ、イラクが一方的に廃棄したとする数量は確認できない」としていた。一方、UNMOVICの報告では「イラクの申告によれば、2200〜2390リットルのアフラトキシンを製造したとされるが、記録が無く確認できない」としていた。
証拠を残さない、悪質な殺人方法
「バイオテロと用いられる病原体の特徴」について、国立感染症研究所の倉田毅は次の4点をあげる。
「(1)バイオテロによる殺傷(健康被害)がいかなる理由によるかの認識がなされるまで時間がかかる。(2)病原体はウイルス、細菌、真菌等で通常目には見えない。またウイルスは通常の光学顕微鏡では検出不可能である。(3)ほとんどの医師は患者を診たことがない。(4)我が国の中で限られた人しか診断技術を持たない」
すなわち、倉田によれば、わたしたちは、このような病原体が、テロや犯罪に使われた場合には、それが使われたことすら、わからない可能性がある、ということである。
2003年には、WHO(世界保健機関)は、バイオテロで使用される可能性が高い生物剤リスト(微生物11種類、毒素5種類)を発表した。その毒素5種類のなかには、「アフラトキシン中毒」が選ばれていた。
アフラトキシンが犯罪に使用された場合について、日本の専門家の次のような考えもある。
「強力なカビ毒・アフラトキシンを作るフラバス菌などが混ぜられると、被害が出るかも知れない。アフラトキシンをはじめ、多くのカビ毒自体も熱に強い。個人を狙う小規模な食物テロの場合は、自然感染と区別できないこともありうる」(三瀬勝利、東京大学卒・薬学博士)。
「アフラトキシンは動物試験などの結果からかなり強い発癌性がある上に遅延毒性物質なので、死亡時には、体内からはその代謝物を含めて消失している可能性が高いので、証拠を残さない、かなり悪質な殺人方法といえる」(東京大学・東京大学大学院卒、農学博士/専攻・農芸化学
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3 「イリーガル探偵社 闇の事件簿」 第一章「悪党」
網走刑務所から出てきた男
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