霊感はないけど幽霊を見た話
その1 街灯の下
これは二十歳ぐらいのころ。
女子校時代からの悪友と久々に会って飲むことになりました。へべれけになるまで楽しんで、終電ギリギリにようやく帰りました。その日は友人の家に泊めてもらうことにしたのです。
終電だったとはいえ、田舎ですのでまだ日付は変わらない時間帯でした。
友人の実家は駅から少し離れたところ。帰る途中には大きな寺がありました。田舎道なので街灯はほとんどありません。ほとんど真っ暗な中にところどころ街灯のぼんやりしたあかりがあるだけ。
私たちは、誰ひとり通ることのない田舎道を大声でしゃべりながら歩いていました。
さて、そのお寺の角に差し掛かったときです。
そこにはちょうど街灯がありました。そして、誰もいないと思っていた街灯の下に人影が見えました。
それを見たとたん、私たちは衝動的に走りだしました。
街灯の前を走り抜け、息を切らしながら友人の家まで。
慣れないヒールをはいていた私はなんども転びそうになり、友人に助けを求めますが、彼女は振り返りはしても立ち止まりませんでした。
「コイツ、いざというときは見捨てるタイプだ」
と思ったことを今でも忘れません。
友人の家に走り込み、私たちは顔を見合わせると確認し合いました。
「……見た?」
「見た。街灯の下だよね? なにあれ!?」
「白いシャツを着たおじいさんが……」
「え、青いジャンバーの若い男の人だった……」
私たちは怖くなって、化粧を落とすのもそこそこに引きっぱなしだった布団にもぐり込みました。
以来、彼女とはその話をしていません。
その2 いるはずのない男前
これもまだ20代だったでしょうか。
その頃名古屋に勤めていた私は、同僚2人と食事をした帰り、二次会でお茶を飲もうということになりました。
喫茶文化のある名古屋では、ことあるごとに「休憩」と称して喫茶店に入るのです。
夜の遅い時間でしたが、ビルの地下にアンティークな内装のちょっと気取ったカフェバーがありました。カフェバーといっても、サイフォン式のコーヒーを夜中でも出す本格的な店です。
店内は賑わっていましたが、3人掛けの椅子のある壁際の丸テーブルがちょうど空き、私たちはそこに案内されました。
ウインナコーヒーだか、アイリッシュコーヒーだかを飲みながら、私たちは仕事の話に花を咲かせていました。女三人寄れば…といいますが、そんな感じだったのではないでしょうか。
私の席からはカウンターが見えました。ここの店員は全員男性で、黒地のスタイリッシュな制服を着ています。
その時、ふと気配を感じて左側を見ました。
店員さんがひとり、テーブルの端を拭きに来たようで、目が合った私に軽く会釈しました。私もありがとうの意味で会釈を返し、そのまま同僚との話に戻りました。
そして心の中で、
(この店の店員は男前ばっかりだな。ルックスで選んでるのかしら?)
そう思ったのとほぼ同時におかしなことに気づききました。
私は壁際に座っていたのです。左側はすぐ壁です。人が入るスペースはありません。
……私は誰に会釈したんだ?
慌ててカウンターを探しましたが、さっきの顔はもちろんいませんでした。
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