御徒町エレジー第6話【幸せな発見「粋な一生」】
午後14:00。
マイランチタイム。
御徒町の迷路のような裏路地を今日も彷徨い歩く。
今日はいつもの店じゃない所へ行ってみたい。
少し遠くまで歩く事にした。
早速、古びた蕎麦屋を発見。
だが、近づいてみると、本当にただ古びて廃業してる店であった。
ガソリンスタンド、法務局…
メシ屋は見つからない。
仕方ない、引き返すか…
そう思った瞬間。
見慣れたノボリが見えた。
【ラーメン】
もう他の店を探す時間はない。
とりあえず飛び込む。
俺は、食べログの評価を見てから店を選んだ事がない。
自分の直感。
その店の醸し出す雰囲気。
それが当たる時もあるし、当然外れる時もある。
だが、ここ御徒町において。
俺の良店を探すセンサーがハズレたことはない。
それだけこの下町で生き残って来たメシ屋のポテンシャルが高いという事だろう。
何だってこんな分かりづらい場所に店を構えたのか。
しかし、入店すると午後14:00を過ぎているのに店内は満員。
ここは人気店だ!
入り口で食券を選んでいる時に食べ終えた客が一人出て行く。
カウンターが一席空いた。
とりあえず特製と書いてあれば大体大丈夫だろうという浅はかな考えから選んだラーメン。
サービスで一口ライスが無料とのこと。
いつもはサービスライスは頼まないのだが、一口ならばと頼んでみる。
女性の店員に食券を渡してからある事に気がついた。
周りの客が啜っているラーメンスープの色。
澱みなく澄み切ったクリアな色。
塩、塩、塩…
皆んな塩ラーメンを食べている。
しまったぁぁー。
ここの推しは塩ラーメン。
痛恨のミス。
トン。
「お待たせしました、特製です」
いや、待て。美味そうだぞ。
どれどれ。
スープを一口。
「うんまぁ!」
うん、うん。
醤油豚骨に魚介の風味。
トロミがあり、まろやかでガツンと来る。
個人的にツボだ。
細かく切ったメンマ、縮れた麺が良くスープに絡む。
チャーシューも箸で切れる柔らかさ。
炙ったホロホロの肉も別で入ってる。
こりゃあ、絶品!
一口ライスも濃いスープの箸休めに丁度良い。
夢中で啜り、全て味わった後に個人的には珍しく思う。
「足りねぇ、もっと食いてえ」
大満足で店を出る。
「今度は塩だな」
そして一週間後。
その日は粘着系の取引先の対応で午後14:00を回ってしまった。
先日のラーメン店、もうやってねぇよなぁ。
そう思いながら、迷路の様な店までの順路を急ぎ足で歩く。
やってるぅ!
そして、店内はほぼ満席だ。
ここはきっと通し営業だ。
正に都会のオアシス。
そして、食券機に手を伸ばす。
【特製醤油、麺大盛】
ねぇ?
塩は、どした?
俺の脳が呼びかけるが、それはスルーした。
ズルッ、ズルゥ〜。
今日はライスはなしだ。
心ゆくまで麺を啜る。
そして、大盛りの麺のボリュームはかなり多めであった。
やるな!この店!
少食の少女の胃袋の俺に大盛りを頼ませるとは、なかなかだ。
「ごっそさん」
店を出た満腹の俺はこう思う。
次は、塩だな。
第七話へ続く