御徒町エレジー第10話【昭和レトロな焼肉店】
時代は変わる。
タイムイズチェンジン。
あれだけ仲の悪かったノエルとリアムが和解してオアシスが再結成したり。
リンキンパークの新ボーカルが女性になったり。
だがしかし、変わらないものもある。
いつもは昼メシレポートをしている俺でも、金曜日の夜はたまには飲みに行く。
職場の帰り道にいつも気になっていたストリートがあるのだ。
いわゆるコリアンタウン。
キムチ専門店やら、焼肉店やらがひしめく昭和レトロな一角がいつも気になっていた。
その中で一際興味を引く店があった。
ショーウィンドウに焼肉のサンプルが所狭しと並べてある。
THE 昭和だ。
小さい頃、母親に連れられて初めて味わった韓国人が経営する焼肉店。
普段食べるのとは、何か違った美味さがあった。
ビビンバやカルビクッパなんてワードを初めて聞いたあの頃。
この店は入らなくても分かる。
中の様子が手に取る様に分かる。
ここで瓶ビールの大瓶頼んで、キムチをつまみながら、丁寧に一枚ずつ肉を焼くのだ。
いつかそんな華金を迎えたい。
そんな妄想をして、帰路に着く。
そんな日々が続いた。
それから意外にも早くその日はやって来た。
上野のパイセン。
一年半前に仕事を午後からサボりアメ横の「ほていちゃん」で一人飲みをしていた時に隣の席に座っていた人物。
何をキッカケに仲良くなったかは忘れたが、すっかり意気投合し、その後、数軒ハシゴし。
〆はガード下の町中華の名店「珍々軒」でラーメンと炒飯を二人で分け合って食べるまで仲良くなった。
その上野のパイセンから、飲みの誘いがあったのだ。
一人焼肉は全然抵抗はないのだが、二人の方が色んな種類を注文出来る。
そして、気の合う友人と食べた方がもちろん楽しいはずだ。
そして金曜日。
朝からソワソワしていた。
何なら昼メシも控えめにした。
いつもなら、プチ残業の誘いが同僚からあれば心良く引き受けているのだが、その日は秒で断った。
駆け足で店に向かう。
パイセンは少し遅れるようだ。
念願の大瓶とキムチを注文。
店内は予想通り、昭和で時間が止まったような空間。
最高だ。
ここに合うBGMはロックじゃない。
ここには「カーペンターズ」が流れていて欲しい。
曲は「イエスタデーワンスモア」
まあ、それはどうでもいい。。。
そんな事をビールを飲みながら思っていたら、パイセン登場。
あらかじめ頼んでいた肉を焼く。
まずはハラミとロース。
とてもいい。
ドップリとタレに浸かっている。
客に味つけを選ばせない。
店が美味い味つけを決める。
迷わなくていい。
そして、俺もパイセンも今後の人生で二度とお目に掛かる事が出来ない感動したものがあった。
ロースターの上に置かれた網。
年季が入ってるどころではない。
何なら途中で千切れた所もある。
流行を食べに来るナウなヤングであれば、マイナスになるべきポイントだが、我々には加点でしかない。
ありとあらゆる角度から、この芸術的な網を眺めていた。
しばらくこの網をツマミに酒を飲んでいよいよ焼き始める。
ちなみに、この店の単価は安くはない。
大体どの肉も1,000円は超えている。
気軽に来られる価格帯ではないがたまになら贅沢もいいだろう。
さて、焼いていく。
小ぶりだが、肉の質はいい。
とても柔らかい。
何よりタレの味がいい。
白メシやクッパを頼みたくなる。
だが色んな部位を味わいたい。
酒は追加しても、メシ系はダメ。
粛々と肉だけを食べる。
肉と向き合い対話する。
どれも美味い、見事だ。
丁度良い厚さにカットしてある。
一才の隙がない。
パイセンと共に思った。
「また、来よう」と。
外に設置されてる灰皿で煙草に火をつけて一服。
輝く美しい食品サンプルを眺めながら、満たされた思いで煙を吐き出す。
さて、パイセン・・・
次、行こか?
あえて、白メシ頼まなかったのはこの店の斜め向かいに位置するもう一つの名店。
渋谷店は、何度も行った事があるのだが、引っ越ししてから一度も行っていない。
この通りに上野店があるのを知ってから、絶対に〆のラーメンはココで食うことを決めていた。
しかし。。。
パイセン。
「お腹いっぱいすわ…」
ま、まぁいい。
次の楽しみに取っておこう。
待ってろ!侍らーめん!
次は、お前だ!!
第11話へ続く