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御徒町エレジー第2話【究極のタンメン】


タンメン。

塩や醤油味のアッサリとしたスープに炒めた野菜をのせたラーメンのことだ。


赤いタレが添えてある岐阜タンメンや有名な蒙古タンメンなど様々なバリエーションがある事でも知られている。


そして、ここ御徒町に人生で最高の一杯があった。


なんと職場のビルから徒歩一分圏内にその名店は存在していた。


大通りの隙間に位置するこの小さな店舗は、注目していなければ間違いなく素通りしてしまうだろう。

店の名は富白(とみしろ)

富白(とみしろ)の外観


カウンター6席、テーブル席2席というこじんまりとした店内。

恐らくランチのピークタイムは並びが出来てるだろうが、私は電話番があるので、客が空き始める13:30から14:00の間にいつも来店している。

店外に掲示してあるメニュー


店内に入ると「浅草開花楼特製麺」の木札が掛かっている。


ここの麺を使っている事が美味いラーメンの証明とまで語られる有名な麺である。


そして、一見強面だが優しい口調と丁寧な接客、恐らくJAZZが好きな店主。


(JAZZのレジェンド達の写真が壁に飾ってあるからだ)


そして、入り口のサッシを開けて店に入るとニカッと笑って明るく迎えてくれる奥さま。


ご夫婦二人でお店を回している。

いつも頼むのがコチラだ。


「鶏ぶた塩タンメン」

鶏ぶた塩タンメン950円


または、自家製辣油がかかった


「鶏ぶた塩辛タンメン」

鶏ぶた塩辛タンメン950円


値段が同じなので、その日の気分で注文している。

辣油の赤と琥珀色に近いスープのグラデーションが美しい。

辣油の辛味はそれほどでもないのだが毎回スープを飲むとむせてしまう。


純粋にスープの味を堪能したいなら、ノーマル塩ぶたタンメンをオススメする。

まずは、レンゲを手に取り、美しいスープを一口すする。


そして毎回思う。


「ありがてぇ」と。


ただ美味いだけではない。


私はラーメン評論家ではないので
この深く優しい味わいの成分が正確には分からない。


よく田舎のばあちゃんが、梅シロップなんかをつけておくプラスチックの大きな容器。


そんな厨房に置かれた容器の中に黄金色の液体が満たされている。


おそらく鶏油だろう。


なんと表現すれば良いのだろう。


そうだな。。


滋味深いというのだろうか。


シジミの味噌汁のような。


あら汁のような。


ホッとしつつも旨みが深いあの感じというのだろうか。


それによく似た感覚だ。


ラーメンで、こんな美味いスープを味わった事は今までになかった。


もちろん上に乗ったシャキッとした炒め野菜。


提供直前に、バーナーで軽く炙って出される焼豚も絶品である。


そして、客がみな一様に最初のレンゲですくったスープを一口。


「ありがてぇ」


そんな表情をするのだ。


開花楼のブッとい縮れた噛み応えのある力強い麺。


軽く味つけしてあるシャキシャキな野菜。


(もやし、キャベツ、人参、キクラゲ)


噛み締めるたびに、味が染み出てくるジューシーな焼豚。


そして、後半になるにつれて


ほとんどの客はレンゲを使う事をやめて、丼を両手で持ち始める。


チンタラとレンゲでスープを啜っていられなくなる。


やがて。


最後に飲み干した一杯の丼をテーブルに戻して思うのだ。


「終わってしまった」と。


満足感と寂しさが入り混じる。


最後にこう思う。


「また来よう」


去り際に、奥さまは必ず言う。


「いつもありがとうございます」


きっと全ての客に言っている。


そして、少し遅れて太い声で。


「ありがとうございます」


店主の声を背中で聞きながら、店を後にする。


また来週。


連続来店記録は、未だ継続中だ。



        第三話へつづく



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