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御徒町エレジー第20話【ゴールドラッシュ】

年が明け、2025年が始まった。


ここ御徒町勤務になり早3年目。


正直に言おう。


飽きてしまった。


何について語っているのか。


全てだ、もう全てに飽きたのだ。


飲食店や建ち並ぶ宝飾店やガラガラを引き摺りながら蛮行を繰り返す異国の人たちに。


赴任当初は刺激的な街に思えていたのに、仕事にも街にもすっかり慣れてしまい感動がなくなった。


そう。俺は飽きっぽいのだ。


いや、このままではいかん。


きっとまだ見ぬ未開拓のスポットがゴロゴロあるはずなんだ。


フロンティアスピリットがなくなってしまったら、そこでゲーム終了だ。


ある....


あるのだ、とっておきのが実はまだある。


己に言い訳をしているだけだ。


未開拓のゴールドラッシュ。


その金鉱の名は秋葉原。


だが歩くとちょっと遠い…


たったそれだけの理由で敬遠していた。


新しい年の始まり、それは新しい店の開拓に相応しい。


これはもう行くしかないだろう。


ただし俺は偏屈なので、食べログやGoogleマップを使って星が多い店を探したりはしない。


そんなのは野暮ってもんだ。


己の直感に従い、店の醸し出すオーラを五感で感じ、その入り口の扉をこじ開ける。


他人が決めた評価軸で自分が食べるメシを決めるなんてのは愚の骨頂だ。


俺の人生だ、食べたいものは俺が決める。


そうと決めたら出発だ。


午後14:00。


電話番が終わり、丁度ランチのピークタイムが終わった頃。


いつもとは逆の方向に向かって、猿飛佐助の如き忍者走りで秋葉原方面へと駆け出す。


休憩時間は60分。


ついに逆側のグランドラインを超える時が来た。


そして。。。


もう一つのグランドラインを超え少し過ぎたところに発見した。


卍のマーク。

マジ?マンジ?


何というか異質な佇まい。

いいだろう、新年一発目には相応しい店だ。

え?どっから入るのん?


到着時刻14:10


引き戸をスライドさせて、店内を見渡す。


幸いにも空席がある。


まずは券売機でメニューをくまなく観察する。


基本はスパイスラーメン、それにトッピングがついたものが並んでいる感じ。


毎朝の食事は抜いているので、この時間はかなりの空腹である。


チャーシューが美味そうなので、スパイスチャーシューメンを選択し、水を汲んでカウンターへ。


店内は民族音楽のようなBGMが流れ、照明は薄暗くムーディー。


食券を店員に手渡すと。


「ネギかパクチーどちらになさいますか?」


え?・・・パクチーっすか?


パ、パ・・・いや、ネギで!


「何でや!ここはパクチーやろ!」


脳内でもう一人の俺がツッコむ。

まぁいい、次回パクチーにすればいいだけの話だ。


そして、待つこと数分。。。


スパイスチャーシューメン登場!

独特なスープの色


スープに緑の何かが浮いている。


こ、これはブロッコリー!

まさかのブロッコリー


スープは赤黒く、焦がしネギのようなのが浮いている。


そして、スパイシーなベトナム料理のような香りが漂う。


どれどれスープをひと口。


おおっ。ピリッと辛い!


そして少し酸味のあるスープ。


なんかクセになる味だ。


その時、俺の右隣りに外国人の女性が座った。


男性店員が英語で「水はアッチにあるぜ!」とアナウンスしている。


小慣れた感じカッコEE!


おっと、そんな事より目の前のスパイスラーメンだ。


まずチャーシュー。


予想通り大当たりだ。

見てぇ!このブ厚さ!


箸で切れるホロホロ加減。


口に入れた途端に溶けるような柔らかさだ。


ただ。


オッさんには1枚で充分だった…


欲をかいてはいけない。


なんならWチャーシュー麺をタップするところだったが、思い留まって正解だった。

麺は中太麺。


そして、ボリュームもある。

ボリュームのある麺


スープの表面は油膜が張っているので常に熱々でベロがベロベロになりそうだ。


しかし、このスープ。


飲めば飲むほどクセになる。


そして何がベースなのかサッパリわからない味なのだ。


まあ文字通り沢山のスパイスで構成されているのだろうが、複雑すぎて一つも分からない。


だが、それでいい。


俺は評論家でも何でもない。


美味けりゃそれでいいのだ。


段々と店が混み始め、今度は左隣にまたもや外国人のカップルが座った。


さっきと違う女性店員が言う。

「グリーンオニオン?オア、コリアンダー?」


パクチーは、コリアンダーって言うのか!


知らんかった。

そして、あっという間に食べ尽くし、店を出る。

美味かった。

こっちのグランドライン前半の最強の一角になる名店であった。


きっと「ぐるなび」なんかのグルメサイトでは高評価の店なんだろうと思う。


だけど、俺はあのレビューが大嫌いだ。


自分の舌に合うかどうか。


それが一番大事なことではないだろうか。


レビューと星の数で、ホントはイマイチだったのに無理矢理マジョリティに忖度するような真似だけはしたくない。


自分の舌を信じる。


それこそがB級グルメ道。


そして、俺の舌はスパイスのせいで若干シビれていた…


       第二十一話へ続く

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