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御徒町エレジー第18話【ドン底社畜の金曜日】
御徒町タイム18:20。
やっと終わった。
クソみてぇな一週間が。
全く働かない同じチームのジジィが実は課長の職位だと、初めて同僚から教えてもらい憤慨して職場のビルを後にする。
あんなに席を離れてタバコ休憩ばかりしてるクセに給料は俺の倍もらっていると思うと腹が立つ。
世の中不公平だ。
せめて、電話番やってくれ。
と、その時LINEに通知が来てた。
妻からのLINE。
唐突に御徒町駅前のパンダ広場の画像が。
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これは、何を意味するかと言うと、妻が現在御徒町にいる。
そういうことだ。
たまに、金曜日の夜にお迎え兼飲みに行くために妻がここ御徒町に訪れる事がある。
俺はコレを妻凸と呼んでいる。
丁度良い。
二の足を踏んでいたあのお洒落な居酒屋に行ってみよう。
薄汚いオッさん一人での来店は心許ないと感じていた店。
アパホテル1Fに佇むこの店。
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優しいネオンが輝くお洒落系居酒屋。
オッさんには敷居が高い。
だが、妻は俺より15も歳下だ(自慢)
この空間に居ても何ら違和感はないだろう。
店内ほぼ満員。
幸いテーブル席が一つだけ空いていて、アンニュイ系のバンドギャルみたいなお姉さんがダルそうに席を案内してくれた。
さて何を頼もうか。
ちなみに我が妻は、オッさんが好みそうな居酒屋メニューが大好きだ。
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ほうほう。
この店は、モツ煮込みと肉豆腐がイチオシらしい。
丁度いい、妻はモツ煮込みが好物だ。
・モツ煮込み
・肉味噌キュウリ
・ねぎま
・まるちょう
・はらみ
アテは以上をオーダー。
まずは生ビール。
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オリジナルグラス。
2:8の黄金比。
デスクワークで両手と首から上しか疲れていない仕事終わりの体に黄金水を一気に流し込む。
嗚呼、いと旨し。
一瞬で空になるグラス。
さて、お次は後ろの若者が頼んでいた「下町ハイボール」とやら。
どんなヴィジュアルなのかは、背を向けているのでわからない。
店内を見渡せる壁際は、妻に座らせていて、俺の視界はアパホテルの煌びやかなエレベーターに乗り込む中国人しか見えない。
そう。俺はフェミニスト。
1人飲みの時は、偏屈なオッさんだが、妻と一緒の時は行儀良く常にレディファーストなのだ。
蛮行を繰り返している、大陸の客人を眺めながら飲む酒もたまには悪くない。
おっ来た来た、下町ハイボール。
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なるほど。
氷が入っていないのか。
俺が通っている「宝泉」という名店の生ホッピーに見た目は似ている。
あれは、アルコール度数がハンパなく一杯飲んだらベロベロになってしまう代物だが、コレはどうだろう。
ほう。意外と飲みやすい。
料理に合うハイボール。
オッ、モツ煮込みが来たぞ。
「温かいうちにどうぞ!」
さっきのバンギャルとは真逆の穏やかな優しいお姉さんが運んで来たモツ煮込み。
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モツがゴロゴロしている。
煮込んでクタクタになった野菜は主張少なめに底の方に身を潜め、主役のモツが大活躍している。
皮よりも身の部位が多く、ホロホロで甘辛い。
妻が「美味しい」を連発している。
そして、続く肉味噌キュウリ。
コレもいい。
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タップリ過ぎて何なら肉味噌がテーブルにこぼれている所がいい。
棒棒鶏にかかっているソースみたいなのに、挽肉が混ぜてある感じ。
キュウリもみずみずしい。
そして、ハイボールも空になり。
次にバイスサワーをオーダー。
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いちいちハイカラだ。
そして、もつ焼き登場。
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俺の好物、ねぎま。
この店は分かってる。
ネギはこれくらい焦がした方が中がトロッとして甘いのだ。
当然ながら旨い。
また来たい。
だが、一人は無理だ。
壁際に座って、未来ある有望なキラキラした若者たちを眺めながら酒を飲む事は出来ない。
俺は、大陸人の傍若無人なムーブを眺めながら、ランダムに開くエレベーターを眺めながら酒を飲んでるのがお似合いだ。
会計を済ませて、店の外に設置してある灰皿の前で、電子タバコをふかす。
丁度、工場現場のクレーンの上に綺麗な月が姿を現した。
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そして、こう思う。
アパホテル万歳と。
第十九話へ続く