見出し画像

御徒町エレジー第3話【路地裏の下町とんかつ】

ちょうど一年前のこと。

ここ御徒町のオフィスビルへ着任した当初の事だ。

誰でも経験するであろう。


ランチ店探し。


一時間という限られた時間の中でサッと行けて、尚且つ美味い店。


御徒町の迷路のような路地裏を彷徨っていた時にこの店はあった。


店の名は「とんかつ大和」

とんかつ大和


まるで昭和の時代にタイムスリップしたような外観。


中の様子が外からよく見えないが今さら躊躇する年齢でもない。


迷わず店内に入ると、予想通り昭和で時が止まったままの空間が広がっていた。


「いらっしゃいませぇ〜」


愛想の良さそうな女将さんが空いているテーブル席を案内してくれた。


すぐに冷たいお茶を出してくれ、今日のランチはカツカレーだと教えてくれた。


しばらく店内の壁に張られたメニューを眺める。


壁に数枚張られた誰のだか分からない芸能人のサイン色紙(未だに誰のか不明なまま)


なるほど。


日替わりのランチが紙で掲示してある。


カツカレー定食【750円】


安い!


このご時世に都心でこの値段はなかなかないだろう。


しかも、お新香と豚汁付だ。


しばらく待って、女将さんが料理を運んで来てくれた。


「お待たせしましたぁ。」


そんなに待ってない。


恐らく三分位のものだ。


「熱いので気をつけて」


「こちらお使いください」


箱ティッシュを置いてくれる。


そして、少し減ったコップにお茶を注ぎ足してくれる。


こういう気遣いはたまらない。


この店は当たりだ。


絶対美味いに決まってる。

ランチのカツカレー750円


出てきたカツカレーは想像とは違った。


トンカツにカレーがかかっていてライスは別皿であった。


確かにランチサービス
【カツカレー定食】と書いてある


だがそんな事はどうでもいい。


ライスに乗せてしまえば同じ事。


まずはお新香から食してみる。


大根とキュウリ。


よく浸かっている。


うん。ホッとする。


これ以上ない正しいお新香だ。


どれどれ。


豚汁を一口啜る。


熱っつ!


これ以上ないくらい熱々だ。


しかもゴロゴロと豚肉が入っている。


これだけでも数百円取ってもいいレベルである。


やるな!この店!


そして、メインのカツを食す。


まずはカレーのかかってないところから。


理想的な肉の厚さ。


衣のつき具合も丁度良い。


厨房の大将が、揚げたカツをカットする時に衣が若干剥がれてしまってる所もあるのがリアルで良い。


分厚く中心が淡いロゼですねー


そんなモンはいらない。


あんなモンとんかつではない。


物珍しさと情報を食べてるだけ。


普段使いは出来ないだろう。


それに比べてコチラはどうだ。


リアルとんかつ。


大将と女将さんの長年のタッグが成せる下町の匠の技。


大将の揚げたとんかつは脂っぽさはなく衣はサクサクだ。


カレーはちょっと甘め。


あの頃の懐かしの味。


とても良い。


添えられた和芥子とキャベツの千切り。


卓上の塩とソース。


一切れ一切れ色んなバリエーションで味わう事が出来る。


ふぅ。食った、食った。


満足だ。


ここは毎週のローテに入れるべきスタメンだ。


食べ終えて会計を女将さんにお願いする。


「はい、250円のお返しね」


「お待たせしましたぁ」


待ってない。


待ってないけど嫌な気はしない。


これが女将さんの挨拶なんだ。


次の週。


お店の暖簾をくぐり、テーブルへ向かう途中、本日のランチの紙を見ると。


「本日のスペシャルランチ」

カツ丼


いいですねぇ!


個人的な好きな食べ物ランキングBEST10に入る好物だ。


先日食したカツの感じだと、カツ丼にピッタリではなかろうか。


迷わず女将さんに


「カツ丼、オネシャス!」


そう注文していた。

そして。

「お待たせしましたぁ」

今日もそんなに待ってない。

ランチのカツ丼750円


カツ丼というより、カツ重だ。


だがそんなモンはどうでもいい。


甘い香りがたまらない。


コレは間違いないカツ丼だ。


どれどれ一口。


甘ーい!


だがそれがいい!


むしろそれがいいのだ。

ソースカツ丼のサクサクがぁ、卵がトロトロでぇとか。


何やらと能書き垂れた変わりものではない。


王道のカツ丼(重)


卵が硬めで、甘いツユが白メシに染みた完璧なカツ丼(重)


メシを夢中でかきこみたくなる。


そして、お新香と熱々の豚汁。


完璧なカツ丼(重)


これは、ランチじゃなくても毎回頼んじゃうな。

それから俺はこの店のファンとなり、毎週通うようになった。

スペシャルランチ上カツ定食
ある日のカツ丼
とある日のカツ丼
いつかのカツ丼


特にこの店のカツ丼の虜になってしまった。


写真フォルダはカツ丼だらけだ。


「はい、250円のお返しね、お待たせしましたぁ」


だから待ってないって女将さん。



        第四話につづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?