ヒマラヤ便り40号 幻の500Rs.1000Rs.
ナマステ~!ここヒマラヤでは、何故かわからないが、私に興味を持ち、信頼し、助けてくれる人にたくさん出会う。そのほとんどの人は、「クルは頭が良い。」と言う。ピタジィ(お父さん)とディディ(姉妹)は、私の良さを見出し育ててくれたが、30代に一緒に居た人は、私の事を「頭がおかしい。」とか、「馬鹿だ。」といつも言っていた。
「くるったクルちゃん」の異名を持つ私にとって、「頭がおかしい。」は誉め言葉で、「馬鹿」については、人それぞれの「馬鹿観」があるので、その人にとっては、馬鹿だったんだろう。としか思っていない。言われている最中は、余裕もなかったので、反論をしたり、悪あがきをしたり、この人の言う通り私は馬鹿なのだと思い込んだりもしていたが。
私を馬鹿だと言う人の事を、私は馬鹿だと思っていて、私の「馬鹿観」は、「日々の生活に喜びを見出せない人」がベースになっている。
さて、今日は、お金の話。ヒマラヤで両替をすると、都市部で両替をするより不利になるし、両替所自体の数も少ないので、山に登る前に、ある程度の両替をする。かさばるので、なるべく額面の大きいお札にしてもらうが、紙幣は1000ルピーが最大で、次いで 500ルピーになる。そういう訳で、ほぼその2つの紙幣に両替した。
村に着いて、数日が経った頃、「紙幣が使えなくなる。500ルピーと1000ルピー紙幣が使えなくなり、新紙幣の2000ルピーが出る。」というショッキングな情報が村を駆け巡った。
今まで日本で新紙幣が出た経験が何度かあるが、古い紙幣も引き続き使えたので、使えなくなるというのが意味がわからなかった。とにかく、政府によって期日が切られ、猫も杓子も銀行で両替をしなければいけない事態になった。
しかも、一度に交換できる上限が決まっており、ツーリストは地元の人より多少優遇されてはいたが、先に両替しちゃってた私は焦った。両替所の奴の笑顔が思い出され、「あいつ、ほんとは知ってたんじゃねぇか?」と疑う心も生まれた。
隣町の銀行数か所、一番近い比較的大きな街に繰り出す必要があった。どこの銀行もATMも、ローカル、ツーリストが入り乱れ、長蛇の列だった。期限が来るまでに、「少額の必需品を商店で買ったり、外食をしてお釣りをもらう作戦」を銀行での両替と並行して決行していた。
商店やレストランも、同じ状況なので、だんだんと、対象の紙幣を受け入れるのを渋るお店が出てきた。ツーリスト同士で「あそこのレストランは、まだイケる。」などと情報交換をし、「今日はいくら作れた。」などと、お金が減っているのに作った気になるという不思議な状態を笑いあった。
せっかくのヒマラヤで、カネのことにふりまわされ、貴重な時間をただの紙切れのために費やすのに溜息が出た。
期限が迫る中、両替を代行するという詐欺も出始め、都心部の紙幣廃止にまつわるカオスなニュースも届き始めた。交換が出来ずに期限がくれば、「ただの紙切れ」になるわけで、銀行でなかなか進まない行列に痺れを切らして紙幣をバラまいた人、歩道橋から渋滞する道路に紙幣をバラまいた人の話などを聞いた。
優遇されているはずのツーリストでもこの状態なので、一回の両替の上限がツーリストよりも少ないローカル、銀行に預けず現金で保管していたローカル達は、保管していた紙幣が多いほど、何度も行かねばならず大変だったことだろう。ただの紙切れになる紙幣をバラまきたくなる気持ちもわかる。
新紙幣の2000ルピーにはチップが埋め込まれるなどの噂もあった。
政府は、紙幣の廃止という大胆な政策で、高額紙幣の使用を禁止し回収をすることで、ブラックマネーの洗い出し、銀行口座を作らせ、脱現金、電子決済の推奨を図った。それまで90%が現金決済であり、その後電子決済が増えた。翌年、首相は「銀行システムに戻らなかった3兆ルピーが、紙幣廃止で戻ってきた。」と評価している。
この経験から、ほんとにインドってのは、あり得ないことがあり得ないんだ。としみじみした。インド観光省のキャッチコピー"Incredible India"が、じわじわ効いてきた。
あと、二年後に日本でも新紙幣が発行される。日本の紙幣は精巧で偽造が難しく、信頼度が高いので、今までの紙幣が使えなくなるということはないとは思うが、あり得ないことが立て続けに起こってる昨今、庶民とは違う金銭感覚を持った黒い太郎ちゃんも、庶民の財布の中身やタンスの中身をのぞき込み、「本当は金いっぱい持ってんだろ?」などと、口をへの字にひん曲げていたし、55年ぶりに開催する万博も控えているので、ただの紙切れになる可能性も無くは無いと思っている。
写真は、ホーリープレイスでの、儀式の写真。
いつもながら、行列にのこのこついて行った。ホーリープレイスには、入れないので音楽隊の近くで儀式を見学していた。生まれたばかりの子ヤギを抱いているローカルを見て、「かわいい~!」とほのぼのしていたら、次の瞬間、私の真横で神への供物となった。ほのぼのモードは一変し、いろんな意味で命に感謝した。
村の人々は、夜は出歩かない。理由は「お化けが出るから。」というシンプルなもので、夜は危険が多いのは確かなので、出歩かないに越したことはないが、昼間でも「なんかいる。」ところが数か所あり、このホーリープレイスまでの道のりも私の中では「なんかいる。」ところ。
ローカルは、私に比べ道に慣れ、足が早いので、後ろから人が近づいてくると先に行ってもらうように、道の脇に寄って抜かされるのを待つ。が、この道は、誰も抜かしてくれない。てか、誰もいない。ということが何度かあって、ツーリストにその話をすると納得する人が何人かいた。
この村は、近年正式名称を変更したそうで、元の名前の頭に数文字付け加えて変更したそうだ。元の名前の意味を教えてもらったが、まじでもう夜、怖くて歩けなくなった。
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