人生を変える、Transformative Learningの10ステップ
Transformative LearningとはJack Mezirowが1970-80年代にかけて開発した理論です。これは「体験に意味を与え、個人的な変化をもたらすのは、各人のその体験に対する解釈である」という考え方に基づいているものです。
私たちは自分の体験に対してそれぞれの解釈をして世界を見ている、ということです。つまり、それぞれの個人が見ている世界というのはその人の経験をその人の方法で解釈した結果であるということ。
同じ事実を経験したとしてもAさんとBさんでは感じ方が違い、見えている世界が違うということってありませんか?これは、それぞれの個人が無意識に持っているimplicit perspective(潜在的価値観)が違うため、それぞれの方法で現実を解釈し、それぞれの意味づけをして世界を見ているということです。
このように、生活の中の至るところに自らの知らないうちに握りしめている前提(「潜在的価値観」わかりやすい言葉でいうと「思い込み」)は散りばめられていて、それが生活の中でうまく働くこともあれば、逆に自分の人生を停滞させていたり変化を堰き止めていることも多々あります。
Mezirowは、思い込みからくる体験に対して受け身的に体験し続けるのではなく、新しい価値観や情報を能動的にそしてクリティカルに考察し、それまで自分自身が見えていなかった新しい世界観を手に入れることを提唱しています。Transformative Learningは、深い価値観の変容を起こし、よりオープンで浸透性が高くそして正当な意味づけのある価値観を手に入れるプロセスです。このプロセスにおける、自分自身の無意識に握りしめる前提を探り変容させていくことは、自分の感情や思考に対してより意識的になる、つまりSelf-Awareness、Self-Managementの力をより高めるということでもあります。この結果、自己理解が深まり自分という人間に対する認知や理解が向上し、自分への信頼感が増すという側面もあります。
人生を変えてゆくプロセス
MezirowはTransformative Learningを10ステップに分けて解説しています。
Disorienting Dilemma
現在の価値観/視点が揺さぶられる経験が起こります。自分が今まで無意識に信じていた価値観や知識と、目の前に起こる現実が一致しないことに不快に感じます。知らない間に握りしめた価値観が、自分自身の人間的・心理的成長を阻んでいる際も不快に感じます。
Self-Examination
なぜこの不快な感情が起きているのか、どんな無意識の思い込みや知識がこのジレンマを引き起こしているのか、自分自身に問いを立てて検証します。
Critical Assessment
過去の価値観や知識について精査します。ここではクリティカルにそして本質的に価値観や知識を客観的な視点で見つめ直し、偏った価値観(もしくは個人の人間的・心理的成長にとって望ましくない価値観)を取り除くことで、今後持ち続けるべきではない価値観を明確にすることができます。
Recognition Shared-Experiences
自分が感じる不満・不快な気持ち・苦痛と同様の経験をこれまで他者がしているのか知ることです。不満や不快な感情は、Transformationにおいてとても重要な要素であり、ネガティブなものではありません。自分が感じていることを他者もこれまでに経験しているのか、そしてそれをどのように対応して克服できたのかを知ることでより客観的に自身を見ることでき、どのようにそれを解決していくべきかが浮かび上がってきます。
Exploring Options of New Behavior
現在握りしめている価値観に気づきそれを変容させようとする際に、どのような選択肢があるのかを探します。
Planning a Course of Action
これまで持っていた価値観のどこが間違っていて、どのように変容させるのが良いかがわかったら行動指針を策定します。新しい価値観を持つことを決めたら、その価値観を持っている自分はどのように行動するのか?その価値観を自分に落とし込むためにどのような言動をしていきたいのか?を決めます。
Acquisition of Knowledge
行動指針を決めたら、実際にそのように行動するために必要があれば新しい知識やスキルを学びます。
Trying New roles
手に入れた新しい知識やスキルを活かしながら、実際に行動を起こします。行動をしながら学ぶフェーズです。
Building Confidence
新しい価値観がベースとなった行動を通じて、自分自身に対する理解が深まり自信に繋がります。
Reintegration
新しい価値観に慣れ、新たな視点を持って新しい人生を歩みます。
ちょっと長いしわかりにくいですね...。笑
この10ステップを大まかに要約すると、以下の主要な3ステップになります。
全てのTransformationが起こる最初に、何かしらのクライシスが起こります。感情が揺さぶられ、不快で苦しいきっかけが起こり、これが触媒となってTransformationが始まります。
Disorienting Dilemmaに直面したときに、これまで自分自身が「わかっているつもり」になっていたことや「当たり前」だと思い込んでいたことを反省し、それをいま自分が経験していることとの食い違いをどのように解消するのかを模索するフェーズがあります。自分が無意識に握りしめていた価値観を明らかにし、それを今後も握りしめ続けたいのかそれとも他の選択肢を選んで変化していくことを決めるのかに直面します。自分が握りしめていた価値観を明らかにすること自体が時に苦痛を伴う場合もあります。それまで信じ切っていたものを覆す、他の新しい選択肢を取り入れるという変化は、人の脳にとって大変な負荷なので苦しい気持ちになることが多々。
そして、最後にアクションを起こすフェーズです。アクションといっても、行動をすることの前に、新しい価値観を採用すると「決める」ことにもっとも大きなパワーがあります。これまでの古い価値観を捨てることを決めて、新しい価値観を採用する。「決める」ことで、自ずと新しい価値観に基づいた行動を取ることができるようになります。また、そのために新しいスキルや知識を得るために行動を起こし、PDCAを回して新しい価値観を自分のものにしていくフェーズです。
Transformative Learningを通じて得られること
Transformationが起こる最中や、そもそもそのきっかけになるクライシスは苦しく辛い経験であることが多いです。
でも、その苦しさや不快な気持ちから目を逸らさずに、自分自身のこれまでの行動や思考のもとになっている隠れた価値観を探る努力をすることで新しいものの味方を知ることができます。それがTransforamtionを促進し、自分が望む人生を歩むきっかけになります。
いつまでも同じことでぐるぐると悩んでいたり、抜け出せない感情があるとき、痛みを伴うことを承知で自分と向き合い変容させた経験そのものは自信にも繋がります。今後、また別の内容で悩んだり苦しむことがあったとしても、自分が自分を知る努力をして変容できた成功体験があることで、次の変容に対するマインドブロックが少なくなり、自分の人生の舵を握ることができるようになっていくのです。
そして、このTransformative Learningは何か大きなクライシスが起きるのを待つ必要はなく、日々自分の感情や価値観について敏感になることで、日常生活の中で小さなことから変容させることができます。日々の自分の感情に対して認識的になって、能動的に変化させていく。コンスタントにTransformative Learningを続けていくことで、日々自分の人生をより良いものにすることは可能です。
自分の感情に対して認識的になる、つまりSelf-Awarenessを高める努力がまずは変化の第一歩です。