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参考にならないラノベコミカライズ経緯とデビュー15周年

 デビューして15年である。

 デビュー作の「ストレンジ・ロジック」が2004年9月10日に発売されてから、15年。

 ちょっと「マジ?」ってなる年月である。
 とはいえ、自分はおよそ13年ほど作家業を中断していた人間である。なので、数字通りのすごさはぜんぜんない。
 それでも15年と言われると中々思うこともあるもので、久方振りにnoteを更新してみた次第だ。フォロワーの皆々様、重ね重ねクソ更新頻度ですいません……。

 土下座案件はさておき、本日「昔勇者で今は骨」のコミカライズ告知がなされた。10月10日スタートです。作画は内々けやき先生! マジかマジだ。

https://twitter.com/zeon_do/status/1171341958666584064
 というわけで、今回は「昔勇者で今は骨」通称勇骨がコミカライズされるまでの経緯をつらつら書いてみようかと思う。流れ的には「一回倒れたラノベ作家がアンデッドっぽく起き上がるまで」の続きになる。

https://note.mu/saekiyou/n/n17fe45dc6f98

 とはいえ。今作のコミカライズには奇跡が複数重なっている。この雑文はライトノベルがコミカライズする際の経緯の参考には、全くならないと先にお断りしておく。

 それでも読みたいと言う方は、ちょっとお時間をいただきます。参考にはならないけど、ミラクル起きまくってるから楽しいよ。他人の苦労は甘い。

 勇骨の1巻がそれなりの売上を出し2巻の刊行が決まった、というところまでは前回書いた。そこから話を始める。

 それなりに1巻が売れた、と書いたものの、増刷するまでには至らなかった。

 さあいきなり雲行きが怪しくなってきやがった。

 増刷しない作品の続刊がどうなるか?
 当然のことながら、初版部数が減る。勇骨2巻もその例に漏れない。詳細な数は守秘義務のため非公開とさせていただくが、それなりに減ったとだけ言っておく。実本が手に入りづらくてすいません。

 そして2巻もまた、大逆転増刷ヤッターってほどの売上ではない。けれど、即打ち切りと言うほどでもない。

 そうなると、作者としては一つの決断を迫られる。それは、
○新作に切り替えていく
○さらに部数は減るがそれでも続刊を出す

 である。

 3巻が出たとしても部数的には1巻初版の半分を下回っており、小説を商売――プロの視点で考えた場合、これを書くことは決してお勧めできるものでは無いということになっていた。事実、担当氏にも似たようなことは言われた。

 ただこの時、勇骨は幸いにも幾つかのレビュアーさんや読者の皆様から大変な好評をいただいていた。そして何より、作者自身、そして担当K氏も、この作品は面白いと信じていた。
 というわけで、3巻続行である。企画を通すにあたって担当K氏には結構苦労してもらっている。ありがたい話だ。

 そうして2018年10月に発表された勇骨3巻もまた、購読者からは高評価をいただいた。

 しかし、売上的には横ばいである。大きく減った、みたいなことはないのが救いではあるが、それでも厳しい。

 そしてこの発売前後で、既に4巻をどうするか、という話が進んでいた。これはどういうことかと言えば、諸々の事情(察してほしい)で「出すのは厳しい。仮に出すにしても2月しか無理!」ということだった。

 4ヶ月しか無いやん? しかもまだ出るかもこの時点で決まってなかった。3巻同様の選択に加えて、出版決定かどうかも不明。そこでどうするか。

「見切り発車で書く」である。我ながらアホかな?

 そういう綱渡りの中、なんとなーく自分はTwitterにある投稿をした。
「コミカライズしたいなー」という内容の呟きである。
 なんせ増刷もしてない3巻目のシリーズだ。オファーなど来ているはずもなく、単なる欲望のお漏らしであった。

 だが、その虚空に飛ばされた呟きを掴んできた人物がいた。
 今や人外WEBコミック雑誌の代表(なんだそれ。でも本当だからしょうがない)とも言えるコミックリュウ、その編集・S氏である。

「勇骨は面白いからよ、とっくに電撃の方で話が進んでいると思っていたぜ……。ちょっとウチでやってみないか……?」(意訳)
 というDMが唐突に飛んできた。青天の霹靂とはこのことである。

 一方そのころ、担当K氏は色々なモノを(LPとか)削りながら、10月末には勇骨4の出版を確約してくれた。さすがだ。後は書くだけである。

 そういった事情で、同時期に電撃担当K・F氏と徳間担当S氏の打ち合わせが行われ、勇骨コミカライズ企画は徳間書店で進行することとなり、まずは作家を決めよう、という話になった。
 ここで、S氏はとてつもないことを言ってくる。

「佐伯先生がこの方ならお任せできると言う好きな漫画家さんをリストにして挙げて下さい」

 ぱーどぅん?
 このあり得ない発言を解説しておくと、普通コミカライズにおいて「原作者が作家を選べる」ということはほとんどない(たまにはある)。ほとんどが、会社側が決めるものだ。
 それを、S氏は佐伯が挙げた作家へ交渉するという。

 この一事だけでも、S氏の勇骨コミカライズへかける気合が伝わってくる。しかも、こちらを最大限尊重してくれる。
 ええ~嬉しい……アタシこんなにモテたの初めてかも……。
 そうして、年末にかけて自分は漫画家さんとの交渉をS氏にお任せし、勇骨4巻の執筆を続けた。

 年が明けて、2019年2月に発売された「昔勇者で今は骨4 わたしからあなたへ」は読者の方々からはまたも高い評価をいただいた。売上自体はずっと横ばいだけど……。

 ただ、これは固定客がついてきてくれていることだと前向きな方向でもとらえておきたい。

 ここから、自分は別の新作企画が二本同時に入り(ありがてえ、ありがてえ)、そちらの作業にかかっていく。勇骨シリーズのファンの方々には5巻を長くお待たせしていることになる。申し訳ない。

 話をコミカライズに戻す。3月に公式発表がなされ、これでいよいよ「企画が決まったのだなあ」という感慨が湧いてくる。
 さらに、掲載は徳間書店の新WEB漫画レーベル(アークライトコミック)のスタートアップ組で行われると言うことも決まった。新サイト設立にあたり、時間がかかるのは致し方ないことである。

 さらに6月、ここで担当漫画家が内々けやき先生に決定する。

https://twitter.com/keyaki0202

 note読者の皆様は内々けやき先生を御存知であろうか(メガネクイッ)。
 一般漫画から成年向け、同人誌に至るまで幅広く活躍し、アクションからコメディから背徳な雰囲気漂うエロまで、その作風もまた幅広い。
 小学生の頃から漫画にどっぷり浸かってきた佐伯が、自信をもっておすすめ出来る漫画家の一人である。

 この少し前、S氏とけやき先生による「コミカライズをやるかどうか」の打ち合わせがあった。 その当日の朝、急にメールで送られてきたものがある。
 内々けやき先生による勇骨コミカライズ、72pの1話ネームだ。

「なにいってんの?」
 と自分が聞き返したことも、無理はないと思って欲しい。72pって何ページ?
 しかも内容がちゃんと面白い。原作をきちんと読み込んだのがネームからでも伝わってくる。当時のTwitterのログを見ると、自分は転げ回っている。

 しかし実はこの当時、内々けやき先生はコミカライズ依頼を受けるかどうか決めかねていたそうな。
 というのも、今年の夏から秋にかけて、新連載が立て続けに決まり、この時期のけやき先生は月刊連載二本、構成担当一本の開始が決まってしまっていた。
 ここに、さらに勇骨コミカライズまで入ると夏からの月刊執筆量は100pを超える。ちょっと想像がつかない数字だ。しかも連載である。
 そんな状態で打ち合わせ前に72pのネームを突如送るけやき先生、もはや意味の分からない筆の速さである。これがベテラン漫画家……!

 結局、この打ち合わせでは決定に至らず、一旦スタッフと協議するということになった、と後で聞いた。
 しかし、S氏が打ち合わせの折にけやき先生に提供した勇骨の2~4巻。これを読んだけやき先生とスタッフの皆さんが、
「勇骨面白いじゃない……。やろうじゃないか」(意訳)
 そう、言ってくれた。
 勇骨コミカライズ、その担当作家が決定したのである。

 余談として、内々けやき先生、なんと佐伯と同郷のご出身であった。奇妙な縁を感じるものである。

 話が長くなった。
 ここまで読んでいただいた方には、勇骨がコミカライズに至るまでいくつもの奇跡があった、という冒頭の言葉が納得頂けたと思う。
 そもそもが3巻以降、本編の続行自体がギャンブルの連続である。関わっている人間全員、SAN値がちょっと減っている。

 だが何よりも「昔勇者で今は骨」における最高の奇跡。
 それは、作者はもちろんだが、イラストレーターの白狼先生、コミカライズ担当の内々けやき先生、そして電撃文庫担当のK氏・F氏、徳間書店担当のS氏。これらスタッフ全員が「勇骨は面白い」と思ってくれて、作業してくれている点だ。

 増刷もしていない、打ち切りにこそなってはいないが、5巻の予定はまだ立っていないライトノベルシリーズを、である。
 原作者の側からすれば、これほど心強いことはない。必ずや、面白い漫画になる。


 「昔勇者で今は骨」漫画版、アークライトコミック(https://arklightnovels.com/)より10月10日、スタートです。

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佐伯庸介
読んでもらってありがとうございましたー。 よろしければ小説の方も読んでみて下さいませね。 http://dengekibunko.jp/title/imahahone/