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伯父の貼り紙
柴又に住む90歳の伯父がカレンダーの裏紙に描いた貼り紙。
先日、私が伯父の家の軒先で保護した仔猫・さくらの両親にあてて、いま縁側に貼ってあるそうです。
さくら保護の経緯はこちら。
昨日、従姉妹から伯父がさくらの親猫たちに向けてこれを貼っていると聞き、早速ラインで送ってもらいました。
ひらがなが多いのはおそらく親猫たちへの配慮でしょう。
伯父はお習字の先生です。
「おかあさん おとうさんへ
子ねこは ぶじです。
安全なところにほごされて しあわせにくらしています。
しんぱい しないでください。
◯◯(私の住む街)のおじょうさまです。」
「縁側に貼り紙でも出しとくかー」と伯父が言っていると聞いた時は笑ったけど、まさか本当にやるなんて。
ちなみに上のカバー写真は縁側時代のさくらとおかあさん猫。
親猫たちはその後、一度も縁側に姿を見せないそうです。
たぶん、伯父の書いたこの貼り紙を見たのだと思います。
本当に不思議な話ですが、猫ってそういうところがあります。
そして伯父ですが、柴又の人間ってこういうことをさくっとやってしまうんですよね。
東京の下町とはいっても葛飾柴又は神田や深川のようにちゃきちゃきの江戸っ子でなく、帝釈さまの線香の煙に燻されてゆるく育ったところがあります。
しかも昔から年がら年中、映画『男はつらいよ』のロケをやっていたので、寅さんやら源公やら御前様やらを日々リアルに見慣れてしまい、そのせいで住む人間もファンタジー色がつよいお土地柄なのかもしれません。
ちなみに保護猫の名前「さくら」はもちろん、『男はつらいよ』の寅さんの妹、倍賞千恵子演じる諏訪さくらからとったものです。
(伯父の家の先住猫は寅吉という名前です)
伯父はさくらが日々私に慣れてきていることを喜んでいて、「あいつ猫飼うのうめえなあ」と従姉妹に言っているそうです。
(まあ5匹も飼っていればね)
思えば私もつらいことが多かった幼少時代、ふと気づけば幼い妹の手を引いて伯父の家の縁側に上がっていたのでした。
そういうとき伯父は諸行無常の人らしく(戦争経験者です)私になんにも聞くことはなく、ただ「これ食うかー、せんべいあるぞー」と、ご飯やら山ほどのおかずやらお菓子やらをドカドカ出してくれたものです。
そんな伯父が今いちばん気にかけていたのが軒先にひとり佇むさくらのことだったので、私はこれが伯父へのささやかな恩返しであるとともに、もしかしたらこの保護猫に昔の自分を重ねていたのかも...と書いてて今初めて気づきました。
貼り紙からは伯父の安堵と喜びが伝わってきます。
私はこの伯父の姪でよかった。
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