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さんかくは幸福にとって毒?~幸せになるためのヒント~
知らない人は「さんかくって何?」ということになるので、まず少しカレンダーまるばつ法のことを説明する。
カレンダーまるばつ法
カレンダーまるばつ法とは私が開発した幸福感を自己管理するための手法である。どんな方法かというと、毎日一日の終わりにその日を主観的に評価していい日だったら"まる"、まあまあな日だったら”さんかく”、わるい日だったら”ばつ”をマンスリーカレンダーに記録する手法である。
Wheelerら(1991) らはセルフレコーディングについて次のように述べている。
タバコを吸うといった好ましくない行為の頻度や、笑顔など増やしたい、好ましい行為の頻度を記録することが、それらの頻度を望ましい方向に行動を変えうる
カレンダーまるばつ法は幸福感のセルフレコーディング手法として開発した。
いい日であるまるの数が増えればそれは幸福になっているということだし、ばつの日を減らすよう努めれば幸福になりそうだ。では、まあまあな日であるさんかくはどうだろうか?これがこの記事の本題である。
10週間のまるばつ実験
心理学部の学部生83人にカレンダーまるばつ法を10週間実施してもらえる機会があった。もう10年も前のことである。今思えば最初で最後のビッグチャンスだったわけだが、データを取らせてもらいそれを行動経済学会で発表した。この記事はその内容を発展させたものである。結論から言うとこの調査でわかったことはさんかくはばつよりも幸福にとって毒であるということだ。
実験の目的
この実験の目的のひとつは、まる、さんかく、ばつの数が既存の幸福感を測定する尺度とどのような関係にあるのか調べることだ。本当にまるの数が多い人ほど幸福で、ばつの数が多い人ほど幸福でないのか。さんかくについては中間だと考えていたので幸福感と相関がみられないこと(無関係)を予想していた。
まるの数、ばつの数、さんかくの数と幸福感との関係
上のグラフは被験者が70日間につけたまるばつさんかくの割合とSWLSをプロットしたグラフだ。SWLSとはthe Satisfaction Life Scaleの略で人生満足度を測定する尺度だ。主観的幸福感を測定する際、研究者がよく用いる尺度で「私は自分の人生に満足している」といった5つの質問項目について7段階で回答して合計した値をSWLSスコアとしている。この値が高いほど幸福度が高い。まるばつさんかくの割合は被験者によってさまざまであることがわかる。
幸福度とまるばつさんかくの関係
下のグラフは横軸の70日間での各マークをつけた日数をとり、縦軸の幸福度をとって被験者のデータをプロットしたグラフだ。
幸福度と各マークの相関係数を算出してもいえるが、上段のグラフをみると10週間の実験期間中まるをつけた日が多い被験者ほど幸福度が高い。そして2つめのグラフをみると、10週間の実験期間中でさんかくをつけた日が多い被験者ほど予想に反して幸福度が低くなる。最後に予想どおり、ばつをつけた日が多い被験者ほど幸福度が低くくなる。
なぜさんかくは幸福にとって毒なのか
実験前には、さんかくであるまあまあな日の日数は、幸福度と無相関(関連がない)と予想していた。しかし、データをとってみると予想に反してさんかくの日が多い人ほど幸福度が低い。
不思議なことだが実際にやってみるとわかるが、誰にみせるでもないのにさんかくをつけてしまうことがある。まるをつけにくいのだ。この実験では実験終了後に次のような質問でマークの感受性について自分に当てはまるかどうか7件法(1点:まったく当てはまらない~7点:非常にあてはまる)で聞いている。
もっといい日がある気がしてついさんかくにしてしまう
統計分析の結果、この質問項目の回答が高得点であるほど、さんかくの数が多く、さらに幸福度の得点が低いことがわかった。
どうすれば幸福になる?
悪い日を減らすことが幸福感の向上の特効薬だと思いがちだが、まあまあな日を意図的に減らすことも効果がありそうだ。幸福になるためにはさんかくをつけそうになっても意識してまるをつけるのが手かもしれない。
マキシマイザー vs.サティスファイザー
今回の実験では、測定しなかったが最大効果の追求(Schwartzら,2002)という個人特性がある。何かを購入するたびにありとあらゆる情報を手に入れ、吟味した上でなければ何の決断もできないマキシマイザー派と、反対にある程度の情報が入ればそれをもとに決断するサティスファイザー派に人は分けられ、この特性は車や家の購入時に最も顕著であるが、幸福感と関連することが知られている(参考図書:幸せを科学するより)。マキシマイザーは選ばなかった選択肢のことが気になり、もし別のものを選んでいたらとどうだったと思ってしまい幸福感が低くなるのだ。
さんかくを選択しやすい人はもっといい日があるかもしれないという理由からだった。もっと気楽にその日に満足することが大事かもしれない。意図的にさんかくの日にもまるをつけることで、その日を満喫し、サティスファイザーになれるのかもしれない。
カレンダーまるばつ法を取り入れた日記アプリ
カレンダーまるばつ法を取り入れたiPhoneの日記アプリを作成している。よかったら使ってみてほしい。このアプリを使ってさんかくをつけそうな時にまるをつけてしまおう。何かあなたに変化が起こるかもしれない。
参考図書
引用文献
Schwartz, B., Ward, A., Monterosso, J., Lyubomirsky, S., White, K., & Lehman, D. R. (2002). Maximizing versus satisficing: Happiness is a matter of choice. Journal of personality and social psychology, 83(5), 1178.
Wheeler, L., & Reis, H. T. (1991). Self‐recording of everyday life events: Origins, types, and uses. Journal of personality, 59(3), 339-354.