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指導者の波瀾万丈の人生を追体験する 書籍の仕事まとめ#10 堀井哲也さん著『エンジョイベースボールの真実』

無名の選手が、監督として社会人、大学で日本一になった。

そう聞くと、あなたはどう感じますか?

「努力があったんだろうな……」でしょうか。

それとも「どういう運に恵まれたのだろう?」でしょうか。

JR東日本と慶應大を日本一に導いた堀井哲也監督は、「球縁(野球を通してできた縁)に導かれた」とおっしゃっています。

本書には、堀井監督の2021年までの人生が綴られています。

エリートコースに乗ったわけでも、順風満帆だっだわけでもない。

まさに波瀾万丈の物語です。


人生のIF


もし、あの時に、あの出来事がなかったら……。

誰もが一度は、そう考えたことがあると思います。

堀井監督は、こうおっしゃっています。

「伊豆の野球少年だった私が、慶大で4年時にレギュラーになり、社会人野球の道に進めた。

社会人野球でもほとんど実績のなかった私が、指導者になることができた。

もしもあの時、あの人との縁がなかったら……。

あの人の言葉がなかったら……。

人生の「IF」を思うと、私は野球を通じた縁、いわば「球縁」に導かれ、いろいろな人たちに支えられていることを強く感じています」


取材では堀井監督の○○力に驚いた


はたして、どんな球縁があったのか。それが本書で詳細に語られています。

私は以前から堀井監督の取材していましたが、この本のための取材をとおして驚いたことがあります。

それは、堀井監督の記憶力です。

「何年の何月に、こういうことがあった」というお話のなかで、出てくる個人名、場所などの記憶が、実に鮮明で正確なんです。

そればかりか、細かい数字まで。例えば、大学時代のことを振り返っていただけば、「4年生の秋のあの試合では、8回の一死二、三塁でセカンドゴロを打った」というように。

取材後、確認のために資料をあたります。私が東京六大学野球連盟の『野球年鑑』などで調べると、それがほとんど合っているのです。

ごくまれに「アウトカウントが違っていた」などの細かい記憶違いがありましたが、「精度98%」といっていいと思います。

堀井監督の記憶力を生かして、この本では徹底的に臨場感にこだわりました。

誰と、どこで会ったとき、そこはどんな雰囲気だったか。何が見えたか。相手はどんな表情だったか……など。

細かいところまで掘り下げる分、取材には時間がかかりました。

思い出したくないであろうこと、イヤな記憶であろうことも、しつくこ聞き出しました。

それでも堀井監督はイヤな顔ひとつ見せず、詳細に、包み隠さず語ってくださいました。

おかげさまで、まるで小説のように描写することができました。

ぜひ堀井監督の波瀾万丈の人生を、臨場感たっぷりに追体験してください。


「エンジョイベースボール」とは何か?


2023年の夏の甲子園で慶應義塾高が優勝。「エンジョイベースボール」が注目されました。

しかし、エンジョイ=「楽しい」だけではありません。

詳しくは本書に書かれていますので、ここではほんのさわりだけ。

堀井監督は言います。

「エンジョイベースには3つの要素がある。

1つは、ベストを尽くせ。

2つめは、相手をリスペクトしろ。

3つめは、自分で創意工夫しろ」


堀井監督は、大学時代に誰よりも早くグラウンドに出て、誰よりも遅くまで練習していたそうです。

そんな大学時代を振り返って、「同期のなかでは私が一番エンジョイしたのではないか」と仰います。

エンジョイって、シンプルだけど、凄みのある言葉だと思いませんか?

人生を切り開くヒントが詰まった一冊


第1章は、堀井監督の小学生時代から始まります。

静岡県立韮山高に入学したときは、硬式球を打っても打球が飛ばなかった。

その様子を見ていた同級生の木村泰雄さんが「堀井、打球が死んでるぞ」と言った。

その言葉にショックを受けて、右打ちから左打ちに変えた。

そんなエピソードから、堀井監督の野球人生が動きはじめます。

正直、うまくいかないことばかりです。

取材していて、「ここで堀井監督の野球人生が終わっていても、おかしくなかったんじゃないか」と感じたことが、山ほどありました。

そんな野球少年が、日本一の名将になるとは……。本書を読めば、その理由がわかります。

また、堀井監督の人生を追体験することで、「人生には何が必要なのか」を考えるヒントが得られます。

慶應ファンや野球が好きな人はもちろん、自分の人生を自分で切り開こうとする人すべてに通じる「人生の指南書」です。

ぜひお読みください!

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