指導者の波瀾万丈の人生を追体験する 書籍の仕事まとめ#10 堀井哲也さん著『エンジョイベースボールの真実』
人生のIF
もし、あの時に、あの出来事がなかったら……。
誰もが一度は、そう考えたことがあると思います。
堀井監督は、こうおっしゃっています。
取材では堀井監督の○○力に驚いた
はたして、どんな球縁があったのか。それが本書で詳細に語られています。
私は以前から堀井監督の取材していましたが、この本のための取材をとおして驚いたことがあります。
それは、堀井監督の記憶力です。
「何年の何月に、こういうことがあった」というお話のなかで、出てくる個人名、場所などの記憶が、実に鮮明で正確なんです。
そればかりか、細かい数字まで。例えば、大学時代のことを振り返っていただけば、「4年生の秋のあの試合では、8回の一死二、三塁でセカンドゴロを打った」というように。
取材後、確認のために資料をあたります。私が東京六大学野球連盟の『野球年鑑』などで調べると、それがほとんど合っているのです。
ごくまれに「アウトカウントが違っていた」などの細かい記憶違いがありましたが、「精度98%」といっていいと思います。
堀井監督の記憶力を生かして、この本では徹底的に臨場感にこだわりました。
誰と、どこで会ったとき、そこはどんな雰囲気だったか。何が見えたか。相手はどんな表情だったか……など。
細かいところまで掘り下げる分、取材には時間がかかりました。
思い出したくないであろうこと、イヤな記憶であろうことも、しつくこ聞き出しました。
それでも堀井監督はイヤな顔ひとつ見せず、詳細に、包み隠さず語ってくださいました。
おかげさまで、まるで小説のように描写することができました。
ぜひ堀井監督の波瀾万丈の人生を、臨場感たっぷりに追体験してください。
「エンジョイベースボール」とは何か?
2023年の夏の甲子園で慶應義塾高が優勝。「エンジョイベースボール」が注目されました。
しかし、エンジョイ=「楽しい」だけではありません。
詳しくは本書に書かれていますので、ここではほんのさわりだけ。
堀井監督は言います。
「エンジョイベースには3つの要素がある。
1つは、ベストを尽くせ。
2つめは、相手をリスペクトしろ。
3つめは、自分で創意工夫しろ」
堀井監督は、大学時代に誰よりも早くグラウンドに出て、誰よりも遅くまで練習していたそうです。
そんな大学時代を振り返って、「同期のなかでは私が一番エンジョイしたのではないか」と仰います。
エンジョイって、シンプルだけど、凄みのある言葉だと思いませんか?
人生を切り開くヒントが詰まった一冊
第1章は、堀井監督の小学生時代から始まります。
静岡県立韮山高に入学したときは、硬式球を打っても打球が飛ばなかった。
その様子を見ていた同級生の木村泰雄さんが「堀井、打球が死んでるぞ」と言った。
その言葉にショックを受けて、右打ちから左打ちに変えた。
そんなエピソードから、堀井監督の野球人生が動きはじめます。
正直、うまくいかないことばかりです。
取材していて、「ここで堀井監督の野球人生が終わっていても、おかしくなかったんじゃないか」と感じたことが、山ほどありました。
そんな野球少年が、日本一の名将になるとは……。本書を読めば、その理由がわかります。
また、堀井監督の人生を追体験することで、「人生には何が必要なのか」を考えるヒントが得られます。
慶應ファンや野球が好きな人はもちろん、自分の人生を自分で切り開こうとする人すべてに通じる「人生の指南書」です。
ぜひお読みください!