鍵谷陽平投手の引退--僕はあの152㌔の衝撃を忘れない
ピンチの場面で152㌔!
試合は2対2のまま延長戦に突入。
15回表。青学大は一死満塁の勝ち越し機をつくります。
ここで中大の高橋善正監督(当時)がマウンドに送ったのが、
当時2年生の鍵谷陽平投手でした。
鍵谷投手は一人目の木野学選手を二ゴロ本塁封殺にしとめると、
打席に小池翔大選手を迎えます。
初球。151㌔の直球が外角低めに外れ、ボール。
2球目。150㌔の直球が内角低めに決まり、ストライク。
そして、1-1からの3球目。鍵谷投手は152㌔の直球を外角に投げ込み、
小池選手をライトフライに打ち取ったのです。
(この記事で使用している写真は、そのときの配球メモです)
小池選手は、この年のドラフトで千葉ロッテから4位指名を受けることになる強肩強打の四番打者でした。
そんなバッターに、二死満塁のピンチで3球続けてストレートを投げるなんて……。この「152㌔」と、ストレートで押すピッチングは、強烈なインパクトを残しました。
「気持ちを外に出せ!」
実は、鍵谷投手はこの前日にも二番手として2回1/3を投げて、2失点しています(この試合では151㌔を計測していました)。
試合後、合宿所でのこと。鍵谷投手は、高橋監督からこんな助言を受けたそうです。
「『コイツのために』と思わせるように、気持ちを外に出せ」
その理由を、高橋監督はこんなふうに言っていました。
「鍵谷はね、まじめで一生けん命なんだよ。でも、それだけじゃダメ。
ピッチャーはポーカーフェイスで投げろっていうけど、そんなの嘘だよ。
気合いを入れて、投げないと」
ここから鍵谷投手の名が全国区に
当時の中大には、4年生に澤村拓一投手(現千葉ロッテ)がいました。
鍵谷投手の投球スタイルは、澤村投手にそっくり。
野球に取り組む姿勢なども、澤村投手の影響を強く受けていました。
体格は一回り小柄なことから「リトル澤村」と呼んでいる記者もいました。
鍵谷投手は、この青学大2回戦の翌日も7回途中から2番手で登板。
3日連続のマウンドでしたが、この日も151㌔を計測するなど5回1/3を1安打無失点と好投して、味方のサヨナラ勝ちにつげました。
ここから鍵谷投手の名は全国区に。高橋監督に信頼されて登板機会を増やし、中大投手陣のなかで必要不可欠な存在となっていったのです。
そんな鍵谷投手も、現役を引退するのか……。
寂しい気持ちもあります。
でも、あの152㌔のストレート、指揮官の言葉から始まった活躍を、忘れることはありません。
今後も彼の新たな人生を陰ながら応援したいと思っています。