「縁の下の力持ち」になれ! 達人が教えるバントの技術 書籍の仕事まとめ#19 平野謙さん著『バント完全マスター』
チームの勝利に貢献するには?
試合が終わったとき、勝利チームのヒーローインタビューを受けるのは、どんな選手でしょうか?
今、あなたの頭に浮かんだのは、勝ち投手か、試合を決める一打を放ったた選手ではないでしょうか。
野球は、9回が終わったときに、相手より1点多く取っているチームが勝つゲームです。
そのために、攻撃では、いかに1つのアウトと引き換えに、走者を先の塁へ進めて、本塁へ還すか。
守備では、いかに走者を進めず、本塁へ還さないか。
中日、西武で計19年間プレーした平野謙さんは、攻守でチームの勝利に貢献し続けました。
その貢献度は、数字を見れば明らかです。
中日時代はリーグ優勝1回。西武時代はリーグ優勝5回、日本一4回。
打撃では、プロ歴代2位の451犠打と、シーズン最多記録の51犠打(1982年)。
守備ではゴールデングラブ賞を9回。
平野さんは言います。
「打率や打点、本塁打では飛びぬけた成績を残しているとは言い難いですが、犠打で走者を進めること、外野守備で打者を塁に出さない、走者を進めない、本塁へ還さないことでチームに貢献できた」
あまり目立たないかもしれないけど、バントや守備でチームを勝たせることができる、ということですよね。
バントのすべてがわかる一冊
本書では、平野さんがバントのすべてを伝授してくださいました。
送りバント、セーフティバント、プッシュバント、スクイズ、あるいはバスター。
たとえば、送りバントを成功させるカギは?
平野さんは、「心構えだ」と言います。
「私はプロで451犠打を決めた。ということは、451回アウトになっている。
そのアウトと引き換えに、走者を進める。自分が犠牲になることが前提だと考えます。『バントの構えの中心は心構え』と心得てください」
そのほか、バットの握り方、構え方、打球の転がし方……。技術から、それを習得する練習方法まで、すべてが詰まっています。
一例として「送りバントの鉄則」をまとめてみます。
【送りバント5か条】
1.自分はアウトになってもいい。転がってから一塁へ走る
2.構えでは、バットの先はホームベース上の一番前で、外角高めに合わせる
3.バット(球が当たるところ)と目の距離は最後まで一定に保つ
4.バントは手でなく、足でする
5.バットの角度はグリップ側の手でコントロールする
打球の勢いを殺すには?
僕は、高校時代はバントが得意な二番打者でした。
もともとバントの技術に興味はありましたが、平野さんから技術について聞くうちに、
「バントって、こんなに深いものなのか」
と思い知りました。
たとえば、打球の勢いを殺すために、どうしたらいいか?
僕は、バットにボールが当たる瞬間に、バットを引いていました。
しかし、平野さん流は、こうです。
「バットを引くと、バットと目の距離が変わってしまう。
ヘッド側の手のひらとバットの間に空間をつくり、打球の勢いを吸収する。
さらに、バットだけではなく、上半身ごとバットを引く。
球といっしょにバットが後ろに下がっていくイメージで」
撮影では、平野さんが実際に自分でやってくださいました。
西武の選手として黄金時代を支えた選手が、目の前でバントをやってみせてくれるのです。
「こんな贅沢って、ないよな」と感じました。
同時に「この技術を読者にわかりやすく伝えて、できるようになってもらわないといけない」と、気を引き締めました。
いい外野手とは?
この本のタイトルは『バント完全マスター』ですが、実は外野守備についても書かれています。
どんな選手が、いい外野手なのでしょうか?
平野さんの答えは、「見せ場をつくらない外野手」です。
ダイビングキャッチ、スライディングキャッチをしない。
走者二塁でヒットの打球が飛んだとき、三塁ベースコーチが「無理して突っ込ませたらアウトになる」と、走者を止める。
つまり、ポジショニングによって簡単に(見えるように)打球を捕る。
スローイングの良さで走塁を自重させる、ということです。
平野さんは言います。「相手から恐れられている外野手は進塁を防ぐので、補殺の数は少なくなる。補殺の少なさは、外野手の勲章でもあるんです」
この本を読めば、選手は「縁の下の力持ち」と言われるようになります。また、指導者は攻守でチームに貢献できる選手を育てることができます。
野球は、エースと四番だけが活躍するスポーツじゃない。
目立たなくても、チームに貢献できる。
あらためてそう感じさせてくれる一冊です。
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