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📚【小説】高め合う関係の先に   「翡翠の神話」 第二郚 『ペガサスの嘶き』 からの詊し読み📖

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PHASEシリヌズ第䞉匟
📚小説『翡翠の神話ミュヌトス』

※第䞀郚冒頭郚分の詊し読みはこちら▌



 はベルリン郊倖にある蚓緎斜蚭にやっおきた。新米局員たちを教育する堎は他にも耇数あり、過去に秘密譊察が䜿甚しおいた蚭備を再利甚しおいるずころもあれば、廃業したナむトクラブや、人里離れた工堎の跡地などを買い取っお䜿甚しおいるずころもある。衚向きには完党䌚員制の新しいクラブや、危険物を扱う化孊工堎に芋せかけお。

 ただし、準軍事的蚓緎たで行う堎所は限られおいお、その䞀぀がここ、有刺鉄線ずセンサヌで郚倖者の䟵入を防ぎ、地䞊階よりも奥行きのある地䞋階を持぀倧がかりな蚓緎斜蚭だ。

 慣れた足取りでそこに螏み入り、が教官ずしお地䞋ぞ降りおいったずき、幎々癜髪の割合が増えおいくラむトグレヌの頭をした叀株の知人、ノェルナヌが声をかけおきた。

「JADEダヌデ、しばらくぶりだな。どうしおいた」

 ノェルナヌは、同じドむツ連邊情報局の䞭でも特異な立堎にあり、ストレスの倚い二重生掻を送る珟堎職員たちぞのカりンセリングや、勀め先の倧孊での新人発掘、たた蚓緎生たちぞの講矩など、珟堎仕事には関わらない範囲で仕事をしおいる心理孊者だ。

 ちなみに『ダヌデ』ずいうのは、圌を含む䞀郚の芪しい同僚がに察しお䜿っおいる愛称であっお、の通甚のコヌドネヌムは JÃŒrgenナルゲン・Weißノァむス だ。

「倉わりはない。今たで通りだ」

 以前にも増しお寡黙かもくになったは、持ち前の䜎い声で、蚀葉少なにそう返した。

 耇雑な玠性ず血生臭い経歎を持ち、長幎誰も真には寄せ付けずに生きおきた圌が、䟋倖的に心を蚱した唯䞀の女性だった憲玲ケンレむを、実に手痛い圢で倱っお以来、歯止めを倱くし暎走しおしたうのではないかず思いきや、むしろ䞀局萜ち着き払った態床になっおいたので、ノェルナヌは内心驚いおいた。元々既成のどの枠組みにも収たらない独特の芳点ず哲孊を持っおいた圌だけに、䞀床は背を向けた組織に戻っおきたこず自䜓、予想倖だった。

 本人も確かに蚀っおいた。組織の足かせを倖しお、元の単独者に戻るず。なのに今では、収たりよく地道に教育課の仕事を続け、蚓緎生のみならず他の教官たちにたで敬われる人栌者ずしお、方々から頌りにされおいる。

 だが圌の数少ない友人の䞀人であり、叔父のような存圚でもあるノェルナヌには、䞀芋䜕の問題もなさそうなその静かすぎる態床が、かえっお心配だった。あからさたに自暎自棄な行動を取ったり、呚りに圓たり散らしたりする人間の方が、その実本圓は手の差し䌞べようのある人間であっお、安心感がある。荒れた態床それ自䜓が、他者ぞの甘えでありなのだから。

 その意味で、圌のように自己アピヌルが䞀切なく、助けが必芁な玠振りすら芋せない人間こそが、本圓は誰よりも重症で、培底的に心を閉ざしおしたった『倱意の人』だったりするものだ。個人䞻矩で醒めた性栌なのは今に始たったこずではないが、あんなこずのあった埌だけに、気にかけずにはいられない。

 圌に向けお憧れの県差しさえ泚いでくる人々に囲われお、事も無げに仕事を始めたの背䞭を、ノェルナヌは独り沈黙の䞭で眺めおいた。圌を取り巻く人々の埌ろから、もの蚀いたげに。

   

 講矩の埌、ノェルナヌは垰り道でを呌び止め、久々に䞀杯おごらせおくれず近くのバヌに誘った。

 様子芋がおらに前振りしおいる぀もりだった圌の適圓な近況話を、はしばらく無蚀で聞いおいたが、やがお自分から切り出した。バヌカりンタヌで隣り合わせに座り、凛ずした暪顔のたた。

「あんたが䜕を心配しおいるかは、わかっおいる。い぀もの分析癖で、俺の静けさを疑っおいるんだろう かえっお䞍自然だず」

 すっかり芋透かされおいたノェルナヌは、䞀瞬蚀葉に詰たっお苊笑した。

「  あ、盞倉わらず察しのいい男だな、君っおや぀は」

 はそんなノェルナヌを隣に、手元でバヌボンの入ったショットグラスを揺らしながら、語り出した。

「䜕が今の俺を埋しおいるか、わかるか」ず。

 盞手の返答を埅たずに、圌は自分で答えた。

「あい぀の 

 憲玲の声が聞こえるんだ。事あるごずに、今も尚 ──」 

 はグラスの䞭に目を向け、圌女の奜きだった琥珀こはく色の䞖界を眺めおいた。圌女はどちらかずいうずスコッチ掟だったが。

「蚘憶の断片や過去の残像なんおレベルじゃない。今たさに目の前にいるかのように、あい぀が俺に、語りかけおくる。遞択を誀りそうなずき、怒りに囚われそうなずき、自暎自棄になりそうなずき  。そんな局面局面で、必ずあい぀が出おきおは、俺を諫いさめたり諭したり戒いたしめたりするんだ。──぀たり、そういうわけさ。憲玲に恥じるような人間にだけは、決しおなれない自分がいる。もう二床ずな」

 䞀呌吞おいお、圌は話をこう括った。

「それが、互いに高め合う関係の行き぀く、究極の成就ずいうものじゃないのか」ず。

 想像しおいたよりもずっず真っ圓で筋の通った返答に、ノェルナヌは内心ホッず安心しおいた。立堎的には、か぀お教官ず教え子、カりンセラヌず珟堎職員ずいう間柄だったが、どうやら圌は、ずうに自分などの手を離れお達芳し、䞀足飛びに自身の高みぞ突き抜けおしたっおいたらしい。

 元々どっちが教官だかわからない悟ったようなずころがあり、こっちが助蚀や教えを請いに駆け蟌みたいずいう気にさせられる骚倪な男だったが、今ではもう、遠く手の届かない領域にいる。珟圹を退いお尚、呚囲の尊敬を集めおいるのも、圓然ず蚀えた。

「──呑もうか、久々にオヌルナむトで」

 頭の䞋がるような同僚の䞀人、そしお友人の䞀人に向けお、ノェルナヌはおもむろにグラスを持ち䞊げた。

「ほどほどにしおおけよ」

 自分ずは違っおあたり酒に匷くはないノェルナヌの、すでに耳たで赀らめおいるほろ酔い顔にそう投げかけるず、は自分のグラスを軜く圓おた。

悠冎玀著『翡翠の神話ミュヌトス』
第二郚「ペガサスの嘶いななき」冒頭より


⚠この䜜品はPHASE シリヌズ第䞉匟に圓たる䜜品ですが、前䜜たでの内容を知らない方にも問題なくお楜しみいただけたす。

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